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鉄砲を構えて撃て
数日前、中学校の同窓会のお知らせのはがきが届いた。
中学校なんて殆ど記憶に無いような薄い生活だったもの。
友達も数えられるくらいしか居なかったし、中学校でわざわざ浅い関係を築こう等と思わなかったのも起因だ。
そもそもリーシャの友好関係が少し広くなったのは、総じてシャチが原因と言っても過言ではない。
彼と話して、仲良くなって、友達っていいかもな……とぼんやり思った。
今ではあまり連絡をしない高校時代の友好関係にある友人でも、正月のはがきくらいは出す。
中学校の時ならばそれすらも億劫だったので進歩と言えよう。
思い出しながらシャチを褒めているようで癪(しゃく)だ。

「はがきか。何処からだ?」

思案しているとローが話しかけて来た。
ここはリーシャのアパートだ。

「中学の同窓会のお知らせ」

友人関係すらも億劫だった過去と比べれば、恋人が居る今は有り得ない事態に匹敵するかもしれない。

「中学……行くのか?行くなら送ってく」

ローの言葉に人知れず胸がギュッとなる。
つまり胸きゅんだ。
密かになるのが最近の悩みである。
彼のこういう些細な気遣いに嬉し恥ずかしくなる。
自分は愛されているというか、想われていると感じるのがとても幸せだ。

「……うーん……でも、仕事とか大丈夫?」

「嗚呼、夜勤だ」

「じゃあ……頼もうかな」

答えると彼は頷いて今思い付いた様に再度話しかけてくる。

「お前の中学生時代は聞いた事がなかったな。シャチと出会う前だろ?確か」

その台詞にどんだけシャチから聞き出してんだ、と思わなくもない。
つまり、高校時代は聞き出したと自白しているようなものじゃないか。
リーシャは疑わしく思いながらも中学時代を語る内容なんてあんまり無いな、と思い直す。
本当に朧気だ、何もかも。
同級生も青春と思春期とこれからの時を不安に思い、期待し苦悩。
高校時代の子と比べると更に不安定な時代。

「……語る事……ない」

「修学旅行はどうした」

「楽しかったかもしれない。楽しくなかったかもしれない。あまり重要視するイベントでもないからなあ」

「そうか」

つまらない子だと思われただろうか。
本を読んで過ごしていた生徒だったから仕方がないのだ。

「あ、プリーツのスカートって言うんだっけ?中学の制服。あれ、アイロンかけるの大変だったかも」

「へェ……俺は卒業式に制服のボタンが全部無くなった。お陰で従兄弟(いとこ)にやれなくなってムカついた記憶がある」

「えー……何気にそれ自慢じゃん」

その体験を一体何人の男子が出来るのか。

「今思えば第二ボタンは初めから取って持っとけば良かったな」

ローがよく分からない事を言うので首を傾げると相手はク、と笑って此方(こちら)へやってくる。

「そしたらお前にやれたのにって、柄にもなく思った」

「!…………何、それ」

恥ずかしくて口から煙が出そうだ。
そんな事をサラリと言える確信犯を憎たらしく思う。
第二ボタンだなんてそもそも価値を見出していない自分にとっては何でもない代物。
ローから渡されても寧ろ扱いに困っただろう。
真っ赤になる顔を隠しながら言うとローは髪に口付けを落とした。






−−同窓会当日。
一応おめかしをしてドレスっぽい服を選んで来た。
ドレスっぽいのでドレスではない。
ローが送ってくれたホテルに降りて会場へ向かう。
ドキドキするのは性格がサバサバしていても関係ないのだな、と思った。
どういう種類のドキドキなのかは自分でも不明だった。
柄にもなく、という言葉が当てはまる。
帰りたいと一瞬でも思ったのはローの顔が浮かんだからだろう。
さっき別れたばかりなのにもう会いたいと思ってしまうのはローに毒されたのだと責任転換する。
それすらも笑ってそうだな、と受け入れてしまいそうな彼の声が居ないけれど聞こえてきた。
それだけで緊張が僅かに緩んだ気がする。
会場に入ると名簿に名前を書く為に受け付けへ行く。
受付の人は同級生ではなくこのホテルの人だった。
それに安堵して遂に会場の中へ行く。

(どうせ、私の事なんて誰も覚えてないかもしれないし……緊張するのも損かもね)

辺りを見回すと何となく見覚えのある顔がちらほらとあった。
今の所、誰にも声も掛けられていないのでホッとする。

「あの」

「!……はい」

恐る恐る振り返るとコテで髪をカールにした女性が立っていて、こちらを見ていた。

「何組だった人ですか?」

「えっと、四組です」

同級生らしきその人は一時考える素振りをすると苦笑する。

「ごめんなさい。同じ組なんだけど、あまり覚えてないみたい。話した事、ありました?」

「いいえ」

答えるとその人はそう、と言ってリーシャを向こうにいる人達に紹介すると言うので「そんな、結構ですよ」と失礼にならない程度に断る。
けれど、彼女はその意図を汲み取れなかったようでそう言わずに、と譲らない。
同窓会という世界に酔って気遣いが薄れているのかもしれない。
数回それを繰り返して、もうこちらが折れる事にした。
彼女は嬉しそうに笑う。
恐らくマドンナ的な子だったのかもしれない。
何故そう思ったとかと言うと、男性達が彼女をちら見して会話する機会を窺っているからだ。
困りながら彼女に案内されて向かったのは女性が数人居るテーブルだった。
この同窓会にはどうやら同級生達の同伴者も混ざっていて、赤ん坊を連れてきていたり子供を連れて来ている人達も居る。
勝手に同窓会は生徒しか来られないと思っていたので驚く。
声を掛けて来た彼女に同伴者は居るのだろうか。
美人は目立つ、モテる。
ローを見ていても分かる。
一緒に歩いているだけで視線を集める人だ。
ローの事をまた思い出してしまう。

(会いたいな……)

テーブルに着くと彼女が率先してリーシャを女性達に紹介する。
女性達の遠慮のない品定めの視線に耐えた。
この同窓会は恐らく再会の場と共に
パートナーを見つける場でもあるのだと今知ってしまう。
彼女達はリーシャを一通り見ると敵ではないと判断したのか笑みを向けてくる。
そして、こんな子居た?という顔をしながら、さも知っている風に話しかけてきた。
内容はもっぱら大体答えられるような質問や言葉が羅列している。
正直に言おう、素晴らしくつまらない。
全く交友関係を築いていない、完全な同級生だけという存在なので、話しなんて知らないものからクラス中で噂になった事まで幅広い。
ただ掘り返してお酒とご飯の摘みにする気配がとてつもなくする。
もう帰ろうかな、と思い始めるのも時間の問題だった。


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