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鳥と鳥の毛繕い
今日は家にローが来る予定だったのたが、已むを得ない事情が出来てしまったので彼にその理由を本文に乗せてメールを送れば、数分後に家のインターホンが鳴った。
誰だろうと見てみれば、なんとロー本人が立っていたので驚いて扉を開ける。

「なんで来たの?風邪移るよ?」

「俺を何だと思ってる。医者なんだから来ないわけにもいかねェだろ」

「でも、別に凄い高熱なわけでもないのに……」

渋っていればローは部屋に入って来てリーシャの顎に手を滑らせる。
上を向かされると寂しそうな目が見えた。

「こういう時だからこそ、俺を頼れよ……」

潤んでいるわけでもないのに、子犬に鳴かれたような幻覚にウッと言葉を詰まらせる。
こくり、と頷くとグイッと腕を引かれ胸板に顔が当たり、体を抱き締められた。
暖かな温度に包まれて今更ながら少し心細かった心が満たされていく。

「来てくれて、あ、ありがとう」

心細かったんだと今気付いた自分に照れながらお礼を言うと、ローはどういたしまして、と笑みを浮かべたような気がした。
それから、兎に角横になれと言われ、ベッドに寝かされるので横になると待ってろ、と彼は向こうへ消える。
何をするのかと待っていると、十分程してから戻ってきた。
その手には良い香りを放つ物を携えて。
くんくんと嗅ぐとお腹が急に空いたと騒ぎ出したので首を動かして中身を見ると、美味しそうなお粥が湯気を立てている。
凄く目を輝かせていたのだろう、ローは苦笑しスプーンをお粥に入れたら、中身を掬い息を吹きかけて差し出してきた。

「そこまでしなくても平気なんだけど」

「いいから、食え」

そこまで押されると食べるしかなくなる。
覚悟を決めて口に食べ物を入れるとスプーンを出され、また掬うの繰り返し。

「ん、ロー、ちょっと待って……コホッ」

少し咳が出てしまい、スプーンの中身が振動して唇の場所に付いてしまう。
トロッと、それが顎に伝い慌ててティッシュを取ろうとすると手を掴まれ何事だと上を見上げる。

「そりゃあ反則だろ……」

「へ、何が?てかティッシュ、」

腕を放して欲しいと言おうとすると、顔にローの顔が迫った。
ぬるりとした舌が顎に付いてしまったお粥を撫でるように舐め取る。
唖然とした心持ちでそれを肌で感じ、されるがまま。
あ、と気付いた時には塞がれていて、相手の唇が若干ひんやりしていると感想を抱く。
熱があるからだと考えていると、彼はグッと強く弾力がある感触を押し付けてきた。

「ふ……んぁ」

先程お粥を舐めた舌が今度は唇をゆるりと舐めて、口を開けるように催促してくる。
恥ずかしくて、嫌だ嫌だ、と首を捻るが彼は逃してくれる筈もなく執拗にキスをし続けた。
そこからの意志が折れたのは、彼の目に熱が揺らめいていたのを見てしまったからだ。
ん、と声を出してしまうのも恥ずかしいのか分からなくなってくる頃に、ローの手が妖しく肩を撫でたのを境に口内へと彼を招き入れてしまう。
水音を鳴らして無遠慮に舌で口内を荒らす、その性急さに逆上(のぼ)せてしまった頭。

「はぁ、はっ、ローっ」

「リーシャ、お前がエロいのが悪ィ」

そう言って、また深い口付けをする男に、これではいつまで経っても熱が治らない、とぼんやりとする思考を最後に理性がふやけた。




それは、突然の知らせ。

「あ」

「どーした?」

「ローからメール着た」

詐欺事件以来、特に関係が拗れることもなく良好な関係を続けているシャチと喫茶店でお茶をしている最中。
着信の知らせに画面を開くと話題の中で何度も登場したローからだった。
何気なく見たメールの内容は、

「風邪を引いた、だって」

その言葉を聞いた途端、シャチがゲホ!と咳き込んだ。

「汚い。ちゃんと拭いてよね」

「わ、分かってる。て、違うだろ!そうじゃねーよ!そんな事よりも重大な問題が起こってるだろっ」

「たかが風邪じゃんか」

「されど風邪!お前、それでもローさんの彼女かっ。早く看病しに行けよ!」

ズズズ、とメロンソーダの残りを吸い上げて携帯を鞄に仕舞う。
シャチに催促されたというよりも先日、リーシャが風邪を引いて看病しに来た時に移ったとしか考えられない期間とタイミングに、看病をしなければと多少の罪悪感があるのだ。
シャチに別れを告げて、帰り道にコンビニへ寄る。
マスクと貼る湿布と生姜を買い、彼の家に向かう。

(今時のコンビニって何でもありだなあ)

便利さを改めて実感し、感謝感謝と思っていると、目の前に高いマンションがそびえる。
相変わらず家賃の高そうな場所に住んでいるな、と来る度に抱く感想を今日も抱きつつ玄関前に立つ。
このマンションは所謂オートロック付きの物件で、システムが自分的には至極面倒なのだ。
まずは住人が居る部屋番号のインターホンを押す。

『…………来るって聞いてねェぞ』

「言ってないからね」

「はァ……今開ける」

降参した風な溜息を付かれると、したり感が増す。
賢くて一枚上手の男を驚かすのは、今、リーシャのちょっとした楽しみなのである。
諦めた風なローの声音に内心よし、と拳に力が入る。
マンションの入り口のロックが解除されたので、そこから彼の部屋の扉の前まで行く。
そこで部屋のインターネットを押すと、しばらくの間が空いてからガチャリと解除される音が聞こえた。
蝶番の鳴る音と共に出てきた男の顔の具合に驚かされる等、誰が想像出来たか。
顔は赤く、息は荒い。
ふらふらと身体の軸がブレる様に揺れていて危ないし、何よりしんどそう。
思わず手を差し伸べてしまう。
グラグラと不安定なローは自ら持ち直すとリーシャに部屋へ入るように催促する。

「大事じゃなさそうだね」

「こんなの、平気だ」

「いやいやいや、苦しそうだけど」

どこに痩せ我慢して得をする事があるのか、と呆れる。

「はい、口開けて」

「もう少し厭らしく言えねーのか」

生姜のお粥を食べさせてあげているのはこちらなのに注文が多い。

「あーん」

「声が無機質だ」

まだ言うか。

「もご!ごほォ!?……っ、おま」

苛々してきたので無理矢理冷ましたお粥を口に詰め込む。
咳き込んだ病人が睨んでくるが無視。

「ほら、次」

もう一口を入れようとすると相手が顔を背ける。
何なんだとげんなりするとローが口移し、と言う。
口移し?

「じゃねェと食わねェ」

「医者がまさかそんなベタな事言うなんてあるんだ」

「医者だが、お前の前ではただの病に犯された男だ……」

「!……そういえばそうか」

しかし、よくそんな歯の浮く台詞を何の躊躇もなく言えたものだ。
絶対に何もしないままでは食べなさそうなローを眺めて、やれやれとスプーンを口元に持って行き食す。
ローは行動に気付いて、邪(よこしま)な瞳を光らせてこちらを見つめる。
しかし、そうは世の中は上手く回らないと思い知らせた。

−−ごくん。

効果音と共に喉へ流した。
それを聞いて、見たローは唖然とお粥が胃に消えていくのを見ている。
くすり、と内心ざまあと思いながらこれ見よがしにローへと笑いかけた。

「ローのお粥はもうないから」

お皿にはまだ在るがもう食べさせやしないと言うニュアンスで告げた。
固まった顔で目だけを合わせてきたローは一度口を固く引き結ぶと病人とは思えない早さで動く。

「へ?」

脳がその動く様子を理解する前に彼はリーシャの唇を塞ぐ。

「ふえ!……な、ん!」

話す前に彼が頭をググッと押してきて重なる幅を深くした。
いつもより情熱的に口内を荒らされる。
熱があっても欲は弱らないらしい。

「なに、す」

「風邪は移すと治るっつー逸話(いつわ)。試してみようと前々から思ってたもんでな」

その台詞の通り、彼はリーシャを押し倒したのだった。


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