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鳥は苦しみの理由を知る
只今、プカプカと泳いでいます。

「……………………」

(胸の当たりがモヤモヤしてる。胸焼け?)

とある一点を見つめつつ、あまり無い胸を触りモヤモヤとする部分をさする。
でも、無くならない。
パーク内に設備されているプールの存在を最近テレビで知り、ローと行こうと話してから割と直ぐに予定が決まり、水着購入をしてからそのまま『ベポアイランド』に入場した。
少し体操をするように言われ、ローといざ入ろうと思えば先に入ってろ、と言われてお言葉に甘える。
ベポアイランドのキャラクターであるベポのイメージ浮き袋を付けて入った。
泳げるのだが、やはりゆっくりと浮いて楽しみたいというもの。
極楽の気分で天井を眺め、ローはまだかと当たりを見回してみると売り物を売っている店の近くで胸の大きな女性達に囲まれていた。
予想外の光景に目を何度か閉口して視界をリセットさせようとするが変わらない。
当然だと自身の行動の馬鹿さに辟易して、ふと胸の痛みに気付き冒頭へ戻る。
囲まれている、自分の彼氏が、ローが。
全てを繋ぎ合わせていき、この感情も含めた何かに、前に漫画で読んだヒロインの心の中に酷く似ている事に気付き合点がいく。
成る程、これが、

「嫉妬か……私、ローの事結構好きになってたんだ……」

「は、」

「ん?」

間の抜けた声に目の前を見ると、先程まで女性達に囲まれていて、脱出は難しそうだと思っていた男がいた。
ローはポカンと口を開けてこちらを凝視していて、とても珍しい表情だと思いながらお帰り、と言う。
彼は空返事でああ、とやっとの事で手にある物をくれた。

「ベポココア!これ美味しいんだよねー」

これは全国のお店で見かけるブランド品のココアだ。
パーク内で飲むとまた一味も二味も違う。
こくんこくん、と飲んでいるとプールの外側に居たローが無言で水の中で入ってきて、無言で抱き締めてきた。
思わずココアを出しそうになる。
此処(ここ)、民間プールよりも人が居ますけど。

「え、え!な、何!?……ロー、ここ、こんなとこで恥ずかしいんだけどっ」

「お前が俺のツボを押してくるのと、可愛い事を言うからだ」

「いつ、ツボ押したの!?押してないしっ……!」

慌ててローの肩を押すけれど、彼の包容力が半端なく強い上に、香水がほんのりと香って、汗の匂いで余計に頬が赤くなるのを感じた。
凄くドキドキするのを実感し、汗の匂いにほんのちょっとだけふしだらな記憶が呼び起こされる。
駄目だ、と首を横に振って思考を切り替える様に努めるとローに離して、と声をかけた。



***



LAW-side

テレビで放送された『ベポアイランド』の特集に彼女が食い入るように見ていたのを境に、行こうか、という事になった。
こんなにも目を奪われる姿をあまり見ないので、日頃の医者の疲れなんてどこかへ行く。
と、シャチやペンギン達が聞けば耳を疑う事を考える。
詐欺事件から半年以上経った今、リーシャに真実を語った夜に、会う事を拒絶される事を承知で行って、この想いを告げた。
もう嫌いだと言われても仕方がない事をした自覚もあり、最後だけでもと顔を見に行くと彼女はローを許してくれただけではなく、好きだと言ってくれて、信じられない事が一日で起こった。
今でもこの腕の中に居て、隣に並んでいる事が奇跡だ。
あの夜、自分は賭けたと言ったが、本当の所、言う程自信も無く絶望感を抱いていた。

「先に行ってろ」

直ぐにでも水の中に入りそうな彼女を止めて軽く体操させれば、あっという間にプールの中に入っていく姿に苦笑した。
でも、楽しそうな顔を見れば来て良かったと笑みが自然と浮かんだ。
一言告げると、テレビ特集の時に出ていたココアに一際目を輝かせていた事を思い浮かべながら、それが売っている屋台に向かう。
きっと喜んでもらえるだろうと、その時のリーシャの顔を想像し足早になる自分は彼女の事が本当に好きなのだと思い知らされる。
末期と言ってしまっても過言ではないと人知れず苦笑した。
ベポの耳を付けた店員に注文して受け取ると踵を返す。
数歩歩くと目の前に影が立ち塞がりなんだ、と前を向けば、明らかに下心のありそうな目をした数人の女達が居た。
邪魔な位置に立っている事に苛立ちを感じ、黙って立ち止まれば彼女等はこちらへ更に近寄り話し掛けてくる。

(テーマパークの中でナンパかよ)

自身の顔は以前から女受けが良かったのは自覚している。
今では彼女と言う立場のパートナーが居るので、煩わしさと鬱陶しさしか感じない。
退け、と内心思い、威圧感で押し通そうとした際にリーシャの反応がどうしても気になり、行動する前にプールに居るであろう女の場所に目を向ける。

(あれは、気にされてないのか?)

ジッとこちらを見る目と合ったような気がしたが、特にリアクションを起こさない様子に不満が過ぎる。
少しくらい焼いてもらえるかと思ったのだが、ナンパや女に囲まれるくらいでは何とも思われないのだろうか。 
思い悩んでいると、女達が話し掛けるのを止めないようだと察して先約がある、と言って去る。
ココアがあるから早く渡したいと、気持ちが先走り、呼び止められる声も無視。
上を向いて漂っているリーシャに声を掛けようと前へ踏み出すと、ポソリと耳に声が入ってきた。

「嫉妬か……私、ローの事結構好きになってたんだ……」

「は、」

(今、こいつは何て……!)

信じられない言葉に、己の聴覚が幻想にでも陥ったかと思ったがしっかりと耳に残っている。
ベポココアを放心する手前で差し出せば、何事もなかったかのようにココアで喜ぶ声が聞こえた。
そんな声すらも遠くに聞こえるような感覚に、クラリと視界がブレる。
嗚呼、どうしよう、どうしてくれよう。

(俺が何かを……可愛いなんて、思うわけ、)

地球上の生物でこんなにも胸がかき乱される存在は彼女しか知らなくて。
勝てない、負けてもいい、周りから見られても構わない。
そう理性を揺らして、赴くままに一直線にリーシャの元へ行き、水に濡れた肌に触れる。

(柔らけェ)

普段仕事で下心なんて抱くこともない他人の肌は、血色が良いか悪いかと、その為に見るだけ。
しかし、彼女の肌は他の人間と全く違った。
半年以上付き合って、何度も抱きしめたのに今は可愛い、としか考えられなくなっていて−−慌てる声すら愛おしさが溢れた。


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