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鳥達は羽を休める
朝、目を覚ますとローがこちらを眺めているのが視界に写る。
何度かしばたいてまだ少し残る眠気を覚ましてから彼を見詰め返すとおはよう、と開口一番に伝えると、相手も同じ言葉を返してきて手を伸ばし髪に触れると指先を髪に通してきた。
髪の間を梳くローに気持ち良さを感じてうっとりとなる。
数秒後、その破顔している事を自覚してハッとなり、目を開けると男がくっ、と吹き出して喉で笑うのが見えて更に恥ずかしくなった。
彼とは互いの家に行き来して一日を過ごしたり、ローの仕事に余裕がある日は泊まったりして上手く会えるようにしている。
今は、彼の家の中の寝室に居る。
既に、この家の中にはリーシャの私物が三割程はあると思う。
こうして、朝を迎える時に隣にローが居るという時間が意外と好きだ。
髪を優しく触られると胸がドキドキとして、止めて欲しくないと思ってしまう。
それを言うのは恥ずかしいから言えないけれど、何も言わなくても彼から愛情を感じる行為が幸せ過ぎる。
もうそろそろ起きなければと思う反面、まだこうしてのんびりと、布団の中で過ごしたいという欲もあった。
天秤にかけても、欲に傾くのは考えなくても分かるが、朝ご飯も食べたいと空腹のお腹が訴えてくる。
キュルルルル、とタイミング良く聞こえてきたお腹の音に赤面していると驚いた様子のローが次の瞬間には聞こえる音量でクスクスと笑っていた。

「わ、笑わないで!ローの馬鹿っ」

「悪ィ……ついな。腹が減ったのか?まァ聞かなくても分かってるが……そろそろ出るか。何が食べたい?」

「オムライス」

「朝からそんなもんが入るのか?おまけに手間も掛かるじゃねェか」

眉間に皺を寄せて首を傾げそうになるローに笑った罰だと言えば、成る程と理解した様子の彼は嫌がる素振りもせずに起き上がる。
それに合わせて起き上がり身体をグゥッと伸ばせば脳が動き出す。
朝からオムライスを食べられると思えばテンションは自ずと上がる。
喜びを感じながらスリッパを探せば少し遠い場所にあって、足を伸ばそうとベッドの端に移動すれば先に立ち上がっていたローがスリッパを持ち上げてリーシャの目の前に持ってくると、足をいきなり掴んだかと思えばスリッパなのに履かせてくれた。
お姫様待遇の行動にソワソワとなる。
やはり、こういったローのレディーファーストの行為には慣れない。

「スリッパ履くだけでわざわざここまでしなくていいよ……スリッパだし」

「スリッパでも何でもありだろ」

ローの返してきた言葉に、本当にこの世界の現代の男かと、草食系が増えるこの世の中の絶滅種の男性が本当に珍しく思える。
彼は生まれる世界を間違えたんじゃないかと思うくらいエレガントでミステリアスな雰囲気を持ち、男らしい性格をしていた。

「ローって、何かカッコいいね?」

「今頃気付いたのか?元からこうだっただろ」

ローはそう言って口元を上げる。

「いや、顔じゃなくて、性格が?」

「性格?スリッパを履かせたりするのはお前だけだ…………真っ赤だな、くくくっ」

「ふ、不意打ちなんだから、なるに決まってる!」

お前だけ、なんて言葉はドラマや絵本の世界でしか存在しないと思っていた。
それに、普通は歯が浮いたりするであろう、鳥肌が立つであろう台詞が、ローが言えば忽(たちま)ち殺し文句に変わる不思議だ。
真っ赤になるリーシャの気持ちは、彼には分かるまい。



***



ローの部屋に居る間に、彼の部屋にあった小説を借りて読み老けていた。
全て読み終えると、男に考えを深く語り出したくなる。

「人が猫達にあれこれ注文されて食べられそうになるって、ある種のSF?みたいだね」

「まァ人を食える猫なんて化け猫だしな、昔話で妖怪だったとしても不思議じゃねェだろ」

ローなりの見解にふむ、と腕を組む。
その仕草に彼は可笑しそうにクスリと笑うので首を傾げて見れば、彼は深く考えてもラチが明かないぞ、と言う。
そんな事は百も承知だ。
そう述べればローは自身の読んでいた本を閉じて聞く体勢に変える。
どうやら話しをまともに聞いてくれるらしい。

「そもそも、猫達は何であんな人が来ない場所に店を構えたのか謎」

「あの二人だけを懲らしめたかったからだろ」

「やっぱ二人に狙いを定めたんだねえ」

「それよりも俺は最後の犬の下りが納得いかねェ」

「犬?何が?」

「食い殺されるような話しじゃないってのは分かってんだが、猫の敵討ちとしては煮え切らないと思ってな」

「んー……!まぁ人だけが助かったって思えば猫達も浮かばれないよね」

「つーかもう此処(ここ)までにしとけ。あくまでこれは架空だ。深入りしてあれこれ想像しても本の内容は変わらねェ」

「うーん、分かったああ……」

まだまだ語りたい気持ちを抑えて頷けば、ローはいい子だ、とリーシャの頬にキスをする。
いい子だなんて言われるような性格でもないから、かなり照れてしまう。
彼は恐らくリーシャが恥ずかしく思う事を分かっている上で、言うという性格だ。
だから、わざとだという可能性が高い。
意地悪な男は、今度は頭を撫で始めてきた。
しかし、それを振り払えるような勇気もなければ、それを見透かした上の行動だという事も分かっているので、尚質が悪い。
頬を膨らませるなんて小賢しい真似も出来ないので、ただ顔を横に背けて反抗するしか方法等考えられず。

「おい、こっち向けよ」

ふて腐れているのに、笑みを浮かべているローの言葉なんかに従いたくない。
そんな意見を言葉にせずに横を向いたままで無視をしていると、不意に顔に影が落ちる。
それが手だと気付いた時には顔を挟まれた状態でローの目の前に顔を向けさせられていた。
ぐにぐに、と変形させられる手の動きは遊んでいると一目瞭然。

「離してええ」

舌っ足らずになるのは仕方がなく、ふがふがとなる声に避難の視線を浴びせた。
頬から彼の指先が顎に移動するのを肌で感じると、ぼやける相手の輪郭に目を細める。

「俺は逃がさねェ」

何の話しだ、と思案した途端に唇を掠め取られる。
唇が合わさって数秒後に、本の話しかと思い出し合点がいく。
人間達の様に運に拾われそうにない、と早々に諦めた自分はローに最早、心を染められて骨の髄まで食べられているに違いない。


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