退院をする翌朝、せっせと手荷物の中に増えた服やゲームを詰めていると、肩を叩かれ振り返る。
「よっ!元気になったようだな」
「シャチ?何でここに居んの?」
にっくき相手であるローが居る病院にノコノコやってくるなんて信じられない。
そう聞くとシャチはキョトンとしてリーシャの手荷物を持つ。
どうやら遅い見舞いも兼ねて迎えに来てくれたらしい。
「てか、さ…………私、必ず仇討ちする……心を鬼にして、」
「へ!?何でだよっ」
「は?なにが?」
泣きついて来て、お金を取り返してくれと言ってきたのは紛れもないこの男の筈なのに、シャチは意味が分からないという声音で聞いてくる。
怪訝に思っているとシャチは頭をかいて困ったように唸った。
「え、っと……かしーなァ?予定ではもうカミングアウトをしてるは……グアッ!」
アヒルの声を出すが、気にせずシャチの首元をキツく締めて詰め寄る。
ギリギリと力を込めて「どういうことなの」と聞き出す。
まるで、シャチの騙されたという言葉やカミングアウトという言葉に、狐に摘ままれた錯覚を覚える。
リーシャの問いかけに顔を蒼白にした男は慌てて「もしかしてまだ知らなかったのか!?」と、ヤバいという表情を浮かべた。
家まで送ると進言したシャチを断り、タクシーで帰宅した。
−−ピリリリリ……。
機械的な着信音が鳴って、携帯の画面を見るとローの名前が表示されていた。
「はい」
『出てくれないかと思った』
「心当たりは感じてるんですね、良かった。罪悪感もなさげですけどね」
『弁解する気もねェ。確かにお前を騙したのは紛れもない俺だ』
「楽しかったですか?寄ってたかって皆で……私を馬鹿にして」
『………………』
病院でシャチから問い詰めて聞き出した真相は至極あっさりとしたものだった。
『全部説明して!』
『お、落ち着け!説明すっからっ』
怒りに任せてシャチをガクリガクリと揺さぶれば、彼は事の真相を語り出した。
『俺が株でローさんに騙されてお金を盗まれたのは嘘だ……初めから全部』
『は、はあ!?嘘?……何なの嘘って!ふざけんなシャチ!』
『だーっ、あんま暴れんな、病み上がりだろ?』
『これが、暴れずにいられるか!てことは、何?じゃあローさんは、詐欺師でもなければ悪人でもないの?普通の医者なの?』
『嗚呼、医者だ。騙されてもないし、あの人は詐欺師でもねェ』
『じゃあ、何でシャチはこんなことしの?何でもっと早く言わないの?何で騙したの……!?』
『っ、落ち着けって……兎に角車で送ってやっから……お、おい!』
シャチの言葉を振り切って、気付いた時には走り出していた。
病院を出てから暫くして、鞄が重いと感じてタクシーを拾うと家まで直送してもらった。