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07
目が覚めると白い天井と点滴が視界に入り、直ぐにここは病院だと理解出来た。
それと、手に温かな温度があって、片方だけという事を不思議に思う。
あと、お腹ら辺も重い。

「えっ」

思わず叫びそうになるのを抑えて、何とか事態と状況を結び付けようと目線を下にやる。
やはり、そこには眠っているローの顔があった。
どういうことだと疑問に思い、不意に気絶する前に誰かに呼ばれた事を思い出して、もしかしてあれはロー本人だったのかと失敗した作戦に落ち込む。
あれほど頑張って不摂生に取り組んだのに水の泡だ。
おまけに看病までご丁寧にされてしまったらしい。
溜め息を付くと、男の睫毛がフルリと揺れ、瞼がうっすらと開いた。
目がかち合うとローは瞳を大きく見開き、数秒の後にお腹から頭を上げると、リーシャの首にひんやりとした指先をヒタッと当ててきたので驚く。
ビクリとなると彼は「脈は安定したな」と確認するように小さく呟いた。
そういえばローは医者だったな、と今頃思い出す。

(てか、カモなのに看病までするもん?)

理解出来ない男の心情に戸惑っていると、額に手を当ててくるローが吐き気等がないかと有無を訊ねてきたので、ないと伝えた。

「熱も大分下がった。また点滴を変えるからな。因(ちな)みに、退院は二日後だ」

「は、はあ……ところで、保険は使えます?」

治りかけだし、作戦は失敗だしと色々諦めたリーシャはもう開き直る事にして聞けば、ローはまた他の人間に聞いてくると返してきた。
お金がそんなにかからなければいいが、入院までする予定はなかったので予想外となる。
あと二日は少なくとも暇なんだ、とボヤけばローはまた来る、と部屋を出て行く。
何でここまでするんだろうと思いながら見送った。



入院中の二日間は思ったよりも退屈にはならなかった。
ローが分刻みでこの部屋へ来るからで、他の患者も居るのに、リーシャにだけ懇親的に世話を焼く。
トランプなんて似合わない物を持ってきたり、人生ゲームやら白黒ゲーム、ティーチ危機一髪、といった有名どころの物まで持参してきた。
服もどこから調達したのか、一式二着を何の迷いもなく持ってきた時はさすがに断ったのだが、彼も譲らなかったので結局受け取る。
医者という立場だし、地位も高いトラファルガー・ローは頻繁に携帯で呼び出されていた。

「あの、もう私、一人で出来ますんで仕事に専念してもらっても平気ですよ?」

ローにそう告げると、彼はまるで何かの宣告を受けたように顔を顰(しか)める。
そして、リーシャの手を緩く握り「また見に来る」と言って足早にどこかへと去って行った。

「な、何、今の……?」

動揺しながら、握られた手を見つめてしまうのは仕方がない。



退院する予定の前の日の夜、いつものように何かを持ってきてはそれを二人でして、一旦休憩をするように言われ手を止める。
お茶を入れてくれたローからお椀を受け取り一息ついていると目が合い、ローの優しい顔付きに飲んだお茶を出しそうになった。

「っ、ケホッ」

咽せると彼が背中をさすってきたので今度は目を見張る。

「あの、ローさん?」

「なんだ」

何食わぬ顔で答える相手に意を決して腹の中を探る。

「どうしてここまでやってくれるんです?成り行きとは言え、パーティーで会っただけの縁で」


これで相手の心理が分かると返事を待つ。
ローはリーシャの言葉に目を見張り、俯くとややあって顔を上げる。
ついに、と期待に息を呑むと、不意に彼の手先が頬に触れてきた。
目を白黒させているとチュ、と唇に柔らかなものが一瞬で押し当てられ、ゆっくりと離れていく。
ドッドッ、と心臓が煩く感じる程鳴る。
彼は切なげに眉を下げて、吐息が鼻を掠める距離のまま言った。

「こういう事だ」


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