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半年後――。



「なーリーシャ」

「なんですかシャチさん」

「もうそろそろそろ船長のこと許すっつーかよ、その、優しく接してやってくれよ」

「シャチさん馬鹿ですか?馬鹿なんですね」

「うう、お前辛辣過ぎね??」

「こんな性格になったのはトラファルガー・ローという人のせいですから彼に言ってください」

洗濯物を干す船員達に混ざり女物の私物を干すリーシャ。
周りに居た船員達は苦笑いをして二人を見る。
すると、そこにいた一人の新入りが疑問をぶつけてきた。

「船長とリーシャさんの間になんかあったんすか?」

「やめておけ。この話は暗黙のルールというものがあって迂闊に言えば船長にバラされるぞ」

ペンギンが慎重に述べれば新入りはきょとんとして分かりました、と頷く。
あの錯乱事件から早半年が経つ。
本当にあっという間で、何故リーシャが今だにこの憎き船に乗っているのかは自分も知りたいと思う訳がある。
その根源は二億のルーキーと持て囃されるローのせいだ。
一度は船から降りる事を良しとしたくせに、気が変わったと言わんばかりに追ってきた。
その時の苦い記憶が甦る。

『助けて、今、海賊に追われてて、助けてください!』

『何!それは大変だ、君はそこに隠れていて』

『はいっ』

男の人に助けを求めさ迷うと、海軍と書かれた建物があったので確か海軍は保安の職業だと即座に判断して、警察には行けないがこれならもう安心だと思った。
その人は援軍を呼んだから、と側にいた数人の海兵達とローが迫っているだろう外に赴く。
あの人数なら例え彼でも勝てまいと踏んでいたのに、残ったのは一人。
建物の中で涙を流して震えていれば、コツリと靴の音がして上を向けば黄色い眼光を持つ男が目の前に立っていたので悲鳴を上げる。
そういえば、ローは奇妙な手品のような事が出来たと思い出す。
心臓を取ったり場所を入れ替えたり。
トリッキーな動きであの海兵達をのしてしまったのかと人間の無力さを知る。
魔の手が伸びる前に違う場所に逃げ込む。

『来ないで!』

叫びながら扉を閉めるとローは足を止めたようで足音がしなくなる。
どうして追ってくるのだと、構うのだと聞いた。
それはもう癇癪に似た声だったが、そんな事は気にならない。
兎に角理由を知りたくて仕方がなかった。

『やっぱり、お前を……手放せねェ』

『なんで私なの!?そこら辺に居る子供でも拐えばっ!?私じゃなくても……!』

『ああ、そうだな』

『じゃ、あ、あっちに、行って!!』

『………………断る』

そう言うとローは扉を蹴破り中で縮こまっていた女を担ぎ上げた。

『離してえええ!!いやぁ!もう解放してよ!』

いくら喚こうが誰も助けてはくれなくて、先程まで意気揚々と外に出ていった海兵達は泡を吹いて倒れていた。
めちゃくちゃに暴れたが、それでも彼は自分を離さなかったことに傷ついて泣いたのだった。
それから船に戻されたが鎖はなかったのである程度自由に過ごせる。
だが、満たされるなんてことはなく反抗期さながらの態度であり続けた。
その結果、心臓も返してもらっていなくて、今だ警察ではなく海軍の駐屯所に逃げ込んではローが奇襲して船に戻される、というシンプルな生活が出来上がった。
そしてリーシャとローの関係を結びつける人間達が自分を『疫病娘』と言うようになってしまったのだ。
最悪な呼び名と最悪な事態に頭を抱え悩みは尽きない。
そしてシャチやペンギン、ベポや船員達とはある程度コミュニケーションをするようになったが、所詮はローの部下なので一線を引こうと努力していた。
ローとは口も聞かず話しかけられても無視をして存在を空気のように扱う。
それが、ローがリーシャにした仕打ちの代償。

(なのに普通に部屋に居てたりするんだから質が悪い)

その時から自室が宛がわれた事に対して喜んで良かったのかは今だ微妙な所だ。

「あ、船長!」

(来た、悪魔め)

嫌悪を抱きながら洗濯を干すと後ろから足音が聞こえて止まる。
真後ろに気配を感じたが空気だと言い聞かせる。
なかなか向かなかったリーシャに我慢出来なかったのか、ローの刺青の入った手が腰に巻き付いてきた。
一言遅ェと聞こえたが、何がだと意味が分からなかったので、シャチに目で疑問を尋ねるも、頭をかいて彼は言いにくそうに「多分昼食の時間だからだと思うぜ」と述べる。
いつ一緒に食べる約束をしたのだとローを睨み付け、腰に回る腕をつねった。
しかしダメージはなかったようで次は足を思い切り踏む。
やはり痛がる素振りはない。
舌打ちしたくなる衝動に駆られながら身を捩る。
何故かローはあの一番最初にやらかした海軍の襲撃事件以来、こうやってベタベタと馴れ馴れしく触れるようになった。
船員達は船長が女に構うなんて珍しくて羨ましいことだ、と賞賛するが嫌いな男に気安く触られたって嬉しくなんかない。
そう文句を言うと皆が皆、ローを可哀想にという視線で見ていたが、被害者はリーシャなのだ。


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