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LAW-side


最初に異変に気付いたのは、少し眠りこけてしまったと目を覚まし、シャワーの音がしなくなっていた事に首を傾げた。
まだ着替えている最中なのだろうかと思ったが待ってみても出てこない。
不審に思い脱衣室を開ければ裳抜けの殻で焦った。
その途端に外から見張りの叫ぶ声が廊下に居ても聞こえ、嫌な予感を感じ甲板まで汗だくになるのも構わず走る。
扉を開けると視界に写るのは慌てる見張りの船員と唖然とするベポ。
縁に駆け寄ると気泡を浮かべる青い水面に舌打ちして躊躇なく海に飛び込んだ。
二人の制止する声が聞こえたが、なりふり構って等いられない。
カナズチだと頭の隅ではちゃんと熟知していながらも飛び込んだのはそれだけ彼女を死なせたくなかったから。
心臓を隠したのは彼女が離れるのが許せなくて、怖かったから。
怖がり怯える表情を見る度に支配欲が満たされた。
ただ捕まえて欲の捌け口にしたければ、わざわざ普通の一般人には手を出さない。
鎖に繋がないのに。
なのに繋いだのは自分の歪んだ不器用な想いのせい。
決してリーシャが嫌いな訳ではなかった。
むしろ、

「ぐ、げほっ、げほっ!」

「キャプテン大丈夫!?」

「おい!誰か来てくれ!二人を医務室に!!」

ベポと見張りの船員の声が聞こえ助けられたのだと我ながら情けなくも、彼女が無事だった事に安堵する。
が、次の言葉に目を開いた。

「女の方の意識がねェ!」

肺から水を吐き出すと気だるい身体を無理矢理起こす。
船長まだ起き上がらないでください、と言われるが制止を振り切り、女の元へ這うと意識が無い事を確認する。
奥歯を噛み締めると人工呼吸をする為に唇へと己の口を近付け肺に空気を送る。
初めてリーシャにキスをする時はちゃんと手筈を済ませてからだと決めていたのに、予想外な出来事に先を越してしまった。



***



目を開けると腹部に重さを感じ、まるで一日中水に浸けられてふやけてしまったような、どよんとした身体の怠さに眉を寄せ顔だけ下に向ける。

「う、そ」

そこには一番居て欲しくなかった男が寝息を立てて寝入っていた。
あまりの衝撃に目眩を覚える。
世界一嫌いな男を目覚めて直ぐに見てしまう程、寝覚めが悪い事程ない。
死ねなかった残念さも合間って人生の諦めを感じる。
もう生きていたくない。
こんな男に一生弄ばれるくらいなら陸で一人で孤独に死んでしまいたいと願う。
思考が一直線に死へと繋がると、もぞりも腹部の頭が動きピアスの擦れる音がこだまする。
びくりとなると男は目を覚まし寝惚け眼でリーシャをジッと見詰めてきた。
キッと睨み付けるとローは気まずげに目を反らしたのでつい目を丸くする。
何だ、何の心境の変化なのだと気味悪くなった。
目をしばたかせているとローが恐々という感じで口を開く。

「何か食べるか」

「???」

今彼は自分に向かって聞いてきたのか、それとも独り言か。
リーシャの顔が疑問や疑惑に満ちていたからか、もう一度ローは繰り返す。
そこで、その言葉は確かに自分に向けられているのだと理解し、開いた口が塞がらなかった。
豆鉄砲を食らった鳥の気分だ。
暫く沈黙しているとその空気に耐え兼ねたのか彼は立ち上がる。
そして部屋から出ていくと直ぐにまた戻ってきた。
手にリンゴを持って。
ナイフが見当たらないと思ったが、ローは徐(おもむろ)に手をリンゴに宛がいメスと呟き、クイッと指の間接を曲げる。
何をするのだろうとリンゴを凝視していると、なんとリンゴが細かくカットされ見事に種も取り除かれ、いつの間にかお皿が出現し、リンゴをそこに乗せた。
数秒の出来事に固まっているとスッと分割された実を口許に寄せ、食べるように足される。

(何なの本当に。今さら優しくしたって私にした、酷い仕打ちの事は消えない………馬鹿にしてるわけ?)

心臓を奪い弄び、多少痛い事をされやめて、と懇願しても降ろしてと哀願してもその手を止めなかったこの男には既に憎悪を抱いていた。
ローがいくら謝罪しようとも態度で示そうとしても固く閉ざした心はもう開けない程に。
リーシャは彼を睨むと反対を向いて布団を深く被った。


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