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最初に彼女を見た時、胸が大きく高鳴って運命を感じたのは一生忘れる事無く記憶に刻み込まれる事だろう。

「クローウィさん、胸元が開き過ぎですよ」

可愛らしい声に意識がふわりと僅かに上がる。
彼女はクローウィが寝ていると確信すると毛布らしきものをパサッとかけてくれた。
嗚呼、幸せだ。
自分事、クローウィは物心付いた時には既に同性から好かれない性質だと理解していた。
悲しいことに、自分は同性が嫌いでなく、寧ろ進んで仲良くしたいという寂しがりやであった。
見た目からしてそうだとは考えられ難いらしく、何かをしたわけではないのに、同性からやっかみを受ける。
嫌気が差したこともあったが、嫌いになれなかった。
只、お茶をしたり、楽しくお喋りしたり、同性なら殆どの人が経験している事をしたかったのだ。
普通が堪らなく恋しく、羨ましかった。
大抵のもの、愛や物は望めば直ぐに手に入れられた環境で、唯一手に出来なかったもの。
この世界に来てからはもっと欲しいと欲求は強くなった。
災難と厄介事が常にやってくるクローウィにとって、日常は幸せの絶頂と言っても過言ではない。
この世界に来る為のワードである『絶望』。
クローウィにとって何に絶望したのか分からない今、既に未練など毛程も存在しないので元の世界には興味もない。
クローウィの今の中心はリーシャが八割、ハートの海賊団一割、ほのぼの一割である。
クローウィという女は、飢えていた潤いを手に出来た事を心から喜んでいた。
お昼寝を貪れるのもハートの海賊団という大物の船に乗った故。
目が覚めると窓からは夕陽が覗いてこちらを照らしていた。
もう夕方なんて、とあくびをする。
辺りを見回して身体を解し、こっそり探索魔法を仕掛ける。
この魔法とやらは完全無欠ではない。
あくまで出来る可能性がある、という曖昧な認識で発動する。
クローウィの倫理観も働いていると思う。
息の根を止めろと魔法を使っても死なない。
しかし、魚や鳥は気絶して落ちてくる。
決して死んで落ちてくることはない。
リーシャやローの位置を探るとリーシャの居る位置から少し離れたところにローの反応があった。
もしかしてまたこっそり窺っているのでは。
ローは今まで見てきた男の中で最悪の男だ。
リーシャを好きと言う癖に彼女の総意を無視する。
ハートの海賊団という囲いに入れて愛でる。
釣った魚に餌をやらない男。
いや、もっと質が悪い。
エサをやらない癖に他の人間がやろうとするとエサを横取りして漬け込み求愛をする。
魚は振り向くどころか主を嫌っているというのに、男の健気さは見ていて滑稽だ。
しかも、嫌われる事をしておいて愛を求めてくる。
あくびも出るし片腹が痛いとはこの事であった。
クローウィはリーシャの元へ赴く為に歩きだし、居場所へと辿り着く。
傍にはもうトラファルガー・ローの気配はなかった。
ちらりと見て気が済んだようだ。
リーシャは特に苛立っていないので何かをしたりちょっかいを掛けたりはしていないと判断。
あの男が何かしたり船員達が話しかけようものならば不機嫌になるのは当たり前になっていた。
彼等と彼女の間にあった事件を詳しく聞いた事は無いが、大方ローに何か手酷い事をされたのだろうと推測は立てている。
彼女にそれとなく聞いてみてもボガすだけで語ろうとしない。
よっぽど嫌な記憶らしくて怯えが瞳に現れていた。
それ以上は聞けないがローに対して何をしたんだという怒りが少し生まれたのは確かだ。
女性にするような事というのは大体決まってくるし選択も多くない。
ローの場合は別の選択もあるのでどちらにせよ良い事をしたと思わせる雰囲気では無いのは確実だ。
どういう経緯で同郷と出会ったのかは聞く機会はない。
無理に聞くのも憚られる。
悲しませたい訳ではないのだ。
クローウィはそう気持ちを落ち着けてここまでやってきた。
少しずつ心を開いてくれているのを感じて初めての喜びすら飛び越えた。
彼女はあまり自分を語らない。
それでも良い。
クローウィだって多くは語らないのだから。

「えーいぃ」

後ろから抱きつくと驚いた声。
ふわりと香る同姓のもの。
こうやって漸く手に入れた平穏と友人。
だから何もいらない、これ以上は望まない。
だからクローウィは今日も今日とて時間に身を委ねてたゆたうのだ。


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