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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

ここはとある娯楽島と呼称される島。
名前は他にあるが新世界では娯楽島という名前の方が有名である。
というのをクローウィから聞いたので楽しそうな島だと楽しみにしていた。
例えローがダメだと言っても行く気満々だったのにあっさり許可が出て肩透かしを貰う。
ネチネチとお説教をされる事も無く下船をしてクローウィと水着を買いに行く。
この島には娯楽の施設が色々あるのだが、海辺の海水浴も整えられているので泳げるし泳ぐのも快適というのがパンフレットに記載されていた。
それを見せてきたのは同じ同姓のクローウィで、水着も一緒に買いに行こうと約束していたので今町を歩いている。
クローウィなら兎に角、自分の胸では水着の面積の無駄というものだ。
買うのはクローウィだけで良いのではないのか。
ボディラインが出るとこ出ていて引き締まっているし、顔はもう同姓としては羨ましい程、厄介事を請け負ってしまう美貌だ。
その美貌は様々な存在を引き寄せてしまうのでいつも誰かに襲われて人質になった時に必ず彼女が一番色香方面に相手を酔わせてしまう。
ハエやハイエナみたいだ。
男達にとってたっぷりなハチミツを垂らしているお花であろう。

「ほらあ、本にあったショップよ〜」

クローウィの声に沿って上を向くと三階建てのビルがあった。
大きいなと見上げてから中へ入ると広い場所や電気が眩しい程明るい。
女性達が主な客層で、傍に居る男性諸君達は楽しそうにしていたり、ゲッソリしていたり、恥ずかしそうに見ていたり。
一部の男達の様子に変化有り。
視線がこちらを向くと途端にだらしくなくなる。
クローウィに釘付けだ。
あからさまな視線に動じる事無く前へ進んで腕を絡めたままの彼女。
機嫌が良いのか、それとも迷子防止か、誘拐防止のどれかは知らないが、いや、恐らく全て当て嵌めた上の腕絡みなのだろう。
傍から見たら自分は引き立て役みたいな気分になるのはお察しである。
最も、クローウィはそんな風に思うような性格の悪さも悪女の性格ではないので、引き立て役にしてやろうという魂胆が無いのは十二分に解っている。
そもそも、彼女は媚びるという行動もしない。
過去、この世界で暮らしてきただけでも捻くれて、グレても何ら可笑しくないような経験をしてきたのに、何とも健気な人だ。
実際、まだ男性恐怖症になっていないのが奇跡であろう。
嫌な慣れを起こしているのは明確だ。
男のせいで人生を駄目にされたのに。
手配書を発行されるというのは、この世界では何ら可笑しくない。
いや、その発行され易さのせいで免罪が増えるのだろうか。
ローは危機として海賊をやっているが、クローウィの場合どうしようもない人間に権力を笠にされたのだから、こういうのはこの世界の欠点だ。
というか、この世界の民間を守る組織は色々決裂している。
海賊に負けるわ、免罪を着せるわ、それでいて、何も知らない民間人は嫌にその組織を正義として美化しているし。
この世界の民間組織が悪いというより、この世界の人間が纏めて洗脳されていると思う。
擦れていると言われても、じゃあヒューマンオークションはどう説明するんだとか、自由な思想も研究も権力で潰しにかかるのはどう説明するんだと多分言い返せる。
腐敗しているのは仕方のないことだと諦めに徹するのも賢い選択だ。
現に、自分も色々諦めているから。
クローウィも多分、自分の手配書をどうにか出来るという件については諦めていると思う。
思考がぐるぐると回る中、クローウィの声に現実へ引き戻される。
水着売り場に着いたようで、辺りは水着オンリーだ。
どこもかしこも水着水着水着………心無しか、胸の大きさがふくよかな物しか見当たらぬ。
この世界の住人はどんな女性でもほぼ胸が大きい。
残念ながら、こっちは違う世界出身なので適用されず、クローウィは自前。
恐らくクローウィは前世界で言う所の東洋の人間か、ハーフだと認識している。
だから、背も高いし、スリーサイズもこの世界寄りなのだと思う。
流石にこの世界の女性みたいなサイズはないけれど。
女性達を見ていると、水準が高すぎて、何故ローがリーシャに粉を掛けているのか益々分からない。
あれかな、きっと、平凡が新鮮に写ったとか?
昔、女に嫌な目に合わされたとか?
有り得そうだ。

「あらあ、これ良いわねぇ」

いつの間にかクローウィが水着をリーシャに押し当てている。
いや、クローウィさん、自分の探してくだせえ………。
ほろ苦くてほろりとなりそうだ。
何故美人が平凡の水着を吟味しているか。
いっそ蔑まれた方が気が楽になれそうなのにな。
目が霞みそうになるのをグッと堪え、クローウィに付き合う。
そうして吟味された後、クローウィに自分のを是非選んでくれと頼まれた。
クローウィの水着を選ぶなんて、と辞退しようとしたものの、頼まれ倒され、渋々見ていく。
クローウィが海水浴場でハイエナ達に狙われると既に決まっている手前、エロエロしいのは可哀想である。
となれば、清楚感満載で選ぶ。

「…………(これはこれで目に毒)」

ビキニではなくスクール水着タイプの全ての布地が繋がっている物を選んだ。
しかし、豊かな女体のビキニライン的な部分があって、それは清楚感を一切伴わせる事はなかった。

「どうかしらあ?」

「駄目でした。すみません」

全面的にセンス云々の問題ではなかった。
着る人間がこうだった場合、どのようなものでも清楚感は無くなると知る。
クローウィはそれを踏まえたというような爆弾を投下。

「そう………じゃあ、私〜リーシャちゃんと同じお揃いにするわー」

「え?そ、そうですか………」

まあ、クローウィがそう決めたのならそうすれば良いと納得した。



海水浴へ向かったのはその翌日。
ロー達は適当にお酒でも呑むだろうと思っていたのに、同行するといざ参らんという時に聞いた。
同性ならともかく、対して水着を見せ合えるような友情値も無い人達の前で水着を見るのは些か、いや、かなーり嫌だ。
こっちだって羞恥心の掠りだってある。
そして、何よりその中にローが居るというのだからもっと不機嫌にもなるもの。
唯一の楽しみは温泉。
温泉もある旅館に泊まっているので夜は温泉をするのだと決めていた。
昨日は違うホテルに止まっていたが、クローウィと温泉について話していた後、直ぐに旅館へ泊まる事になった。
誰かこちらの話しを聞いていたらしい。
リーシャにはそんなつもりはなかったが、変えてくれるというのなら有り難く入らせてもらおう。
ローは海水浴など出来ない。
悪魔の実を食べたから泳げないのだ。
加えて、クローウィもと思ったが、彼女曰くこれは魔法だから泳げるらしく、水着を着用。
やっぱりどこか背徳的であった。
お揃いなのに、と自分のを見て考える事を俄然放棄した。
服を着ようとするとクローウィが折角着たのにと止めてきて、前に押し出し更衣室を出る。
体格の大きいクローウィに対抗出来る訳も無く、太陽の下に晒された。
クローウィは外に出ると日焼け止めを塗りましょうねー、と言う。
熱い、と感想を抱いていると更衣室前に陣取っていた男性諸君がクローウィに目を奪われる様を目撃。
雷が此処だけ落ちた感じだ。
やれやれ、彼氏持ちの彼女に睨まれないようにフォローしなければ。
そこにいたのは男達だけでなく、ロー達も何故か待機していた。
待ちぼうけをさせたかったわけでもないから、待つのは止めて欲しい。
炎天下に居るのは辛いのでパラソルが欲しいと切に願う。
耐えていると口々に船員達が似合うだの、可愛いだの、綺麗だの言ってくる。
そんなお世辞は良いから早く日除けをくれ。
クローウィが日焼け止めを塗って上げるとパラソルに案内してくれて、暑さから解放される。
誰かジュースもくれ。
喉が乾く。
クローウィがリーシャの水着に手を掛けて肩紐をずらす。
塗り込まれていく日焼け止めクリーム。
大人しくしていると、それを食い入るように見てくる複数の目。
それに気付いた時にはクローウィの声音が彼等に突き刺さる。

「見物料を一人二百円頂くわねぇ」

その途端、クローウィの手元に二千円が握られていた。
彼女はにっこりと笑みを浮かべたままリーシャにそれを握らせる。

「後で好きな物を買えるわね〜」

のほほんと言うが後ろで船員達が「怖え」「船長からも取ったぞ」「でも、次はクローウィの」と聞こえてくる辺り、嗚呼、ローからも取ったのかとクローウィのしてやったり感は凄まじい。
後からクローウィの分も調達したが、そこには二万という札が彼女に渡ったのであった。
この差って……男の人って………。
まあクローウィの半裸がこの値段ならば安い。
あくまで小遣い稼ぎだ。
クローウィはそう言って朗らかに笑う。男性恐怖症にならなかった代わりにこういう所が芽生えてしまったという訳か。
ローは終始こちらに視線を向けていた。
海に入ってしまえばローは来れないと気付いたら後はクローウィと遊んだり、浮き輪に乗って浮かんだりした。
その時、浮き輪に乗って浮かんでいるクローウィが至極嬉しそうに口からこぼした。

「こういうのね〜、ずうっとやりたかったのお」

それは海で遊ぶことではなく、同性と遊ぶ事を指しているのか、多分、そうだろうと漠然と思った。
お昼になって少し経ち、そろそろお昼ご飯を食べようと二人の意見が合致。
海から離れてフードコートへ。
並んでヤキソバを買いに行くとクローウィも並ぶ。
こういうのは分担した方がと思ったが、言う理由が弱いので言わない。
クローウィはその横でぽつりと言う。

「ヤキソバを海で食べるのお、憧れだったのー」

さっきからクローウィはヤケに独り言が多い。
そう思って凝視していると彼女はこちらを向いてゆるゆると笑う。

「リーシャちゃんは、私の事。なんとも思っていないのがあ、とおっても、ふふふ。嬉しいのお〜」

「は、はぁ」

綺麗だとかは思っているのだが。

「私の傍に来る子はねぇ、大抵、何かしら私にやっかみを抱いているのよお?私はそんな事一度も思った事もないし、馬鹿にしているつもりもないのにねぇ〜?」

それは悲しさを感じさせなかったが、寂しさをクローウィから感じ取れる雰囲気で驚いた。
リーシャこそ、クローウィは何も感じず過ごしているのだとばかり思っていた。

「クローウィさんは私がそう思っていると言うように。私も貴方は特に何も考えず、流されるままに過ごしているとばかり思っていました」

「あらあらあ?じゃあ、私達は似た者同士ねえ」

声が嬉しそうになる。
いや、声だけでなく、ギュウウウウ!と抱きしめられて硬直する。
胸って物理的攻撃になるんだ。

「この世界に流れてきて良かった」

久々に間延びしていない声でそう言ったような聞き逃しそうな音量だった。


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