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悪の親玉が現れると場の雰囲気が変わる。
その男が現れると捕らわれている人達が「海軍のお偉い様が何故!?」と騒ぐ。
どうやら海軍が腐敗しているバージョンだったらしい。
これはまた斬新に見えて有難ちなベタ展開だと他人事のように傍観。
海軍が実は裏で……という展開はリーシャの居た世界でも当たり前のようたある。
けれど、それに巻き込まれたのは流石に初めてだ。
あっちの世界ではニュースに流れても数日後には忘れているくらいに現実味が無いような距離感。
気に留めるようなのんびりしている生活でなかったし、当事者になってもまだ実感はなく、捕まってるなあ、これからどうなるんだろう、といった感想しか感じない。
これもそれも、きっとローと出会って感性が壊れてしまったのか、麻痺してしまったのか。
どちらにせよ、特に焦る気持ちはないという感じである。
クローウィもほのぼのと周りの成り行きを見ているだけだし、二人だけが置いてけぼり感を醸し出していた。
海軍のお偉方はその間にこちらを見てから海軍の服を着た部下に耳打ちされる。

「この女がトラファルガーの船に乗っているもう一人の賞金首……ほほう。で、こっちの女は?」

「我々にも判断出来ません」

上司の男はまたこちらを見ると品定めをする視線でクローウィを見る。
毎回そうだが、平凡が集まってしまうと綺麗な人は殊更に目立つ。
その上司は何やら企み顔でローの船がある船着場の場所を海兵に聞く。
七武海になってからは人目を掻い潜って船を隠す必要もなくなったので隠さなくなった。
なので、見つけようと思えば誰だって探して見られる。
今は七武海だから余計に目立つし、変にコソコソしても隠しきれないのでいっその事と、大々的に停めていた。

「使えそうだな」

「この民間人も連れて行きますか?」

リーシャも連れていこうとする言葉に海軍の地位の高そうな男はケッとした表情をしてから口々に「トラファルガーの女はともかく……こいつはどう見ても仲間じゃないだろう」と、好き放題言い捨てる。
正解のようで間違っている認識にクローウィが口添えし出した。

「リーシャちゃんわあ、私のお友達よ〜。彼女と一緒じゃないとお、私、寂しくてぇ、死んじゃーう」

人質なのに、何故口を出すのかと驚く。
最初は口調に呆気に取られていた周りが言葉を噛み砕いて、仕方ないとリーシャも連れて行く。
仕方ないなんて、クローウィはこうなるように敢えて言ったのかもしれない。
今まで良い思いをした事がないだろうに、女特有の甘い声を出すなんて。
悪い事をさせてしまったなとすまなく感じた。
それにしても、どの世界でもやる事がテンプレの人間がいるのものだなと関心。

(いつまでこの体勢をしてなきゃなんないのかな)

「ふむ。それなら二人を連れて来い。そっちの魔女は後で私の執務室に連れていくとしよう」

「「……………」」

クローウィとリーシャは絶対いかがわしいことでも考えているのだと完全に察した。
男というのはと思ってしまうくらいという被害を被っているので最早呆れる。
何かとクローウィを色気や色欲の対象にするのはこの目で見てきたから彼女の苦労や色目を使われるのは分かっているし、クローウィも穏やかに微笑んでいるが目が微笑んでいないような気がした。
絶対にゲスだと思って恨み言や罵りを心の中で呟いているに決まっていると予想。
彼女は彼女で自分とは種類の違う苦しみを感じているのだろう。
同情に似た気持ちを持ちつつも相手の男達に連行されて隔離庫のような所から出た。
その際に私達も出してくれと囚われている人達の声が背中方向から聞こえたが当然、海兵は無視。
出されるなんてそんな甘い考えを持ち続けられるなんて本当に思っているのかと呆れた。
どう見ても民間人を人身売買しようとしているのが分かる。
この世界の治安に詳しくない己ですらそんな結末は予想出来た。
連れて行かれる事数分、海軍の駐屯所とは違う場所に着く。
中心を指揮しているあの男の執務室云々と述べていたからてっきり行くのかと思えば違ったらしい。
建物の見た目は上手く偽装された小屋だ。
木で出来た木工建築であった。
別荘とかに使われてそうな見た目なのに草が生い茂って古そうだ。
これも偽装なのかもしれない。
こんな場所に住む人なんて居ないだろうという人々の先入観を意図した造りに見えた。
中に入ると暖炉があって火がくべられていた。
温かいが、頭は冷えているという妙な体験をしている。
クローウィも場数を踏んでいるから動揺は無いに等しいだろう。
一人ならばまた悪魔の実を食べさせられるかもしれないという不安を抱きながら帰りたいと思っている所。
クローウィと一緒ならば精神的にも気が楽だし比較的冷静で居られる。
息を浅く吸うのを心がけて落ち着くように身体を安定させていく。
いつでも逃げられるように、いつでも反撃をしかけられるように。
不測の事態になってもちゃんと行動出来るだけでも生きる確率は格段に増える。
ローは一体どこで油を売っているのだろうか。
でも、此処に居る男がローを誘き寄せるだとか、脅すだとかそれらしい事を言っていたから、来るだろう。
いつになればこの緊迫した雰囲気を早く打破するなり何なりして欲しい。
というか、今、直ぐ、来てくれ。
何なのだろう、リーシャは只の人間で、只の娘、又は町娘レベルの存在なのだ。
何故?何でこんな非常識で非日常を体験しなければいけないのだろう。
早く開放して欲しい。
でも、例えローが来ても奴隷として売られるのだろうと、同じく捕らえられている人達と共に同等の末路に決まっている。

(もう沢山……巻き込まれるなんてうんざり)

ローはどこに居るのだろう。
只の平凡な凡なのに、悪魔の実を食べてしまうし、色んなヘマを起こしてしまっている。
色んな願望をやりたいままにやっていて、しかし、ローはローで好きなようにこちらに寄ってくるしで好意なのか良く分からない事をしてくるのだ。
おまけに此処は自分が居た世界ではないし、異世界。
ローは更にこちらを現実に足を付けさせようとしたし。
更に更にで彼は分かっていたのかは知らないが、クローウィも同じ同郷。
こんなに偶然が重なり、運命も交差し、己は踏む筈のなかった未来を今、見ている。
クローウィも自分もローという男のせいで捕らわれてしまった物同士。
クローウィは安堵や安らぎを覚えている可能性だってある。
ローの仲間になってからは賞金首以外の男に興味本位で近付かれなくなったらしい。
何とか今まで不思議な何ちゃって魔法で敵を撃退してきたクローウィだけど、流石にあのまま雇われ傭兵のような仕事をしていられるような元々の性格ではないし、一人ではどうにか出来るような事態でもなくなっていたとは本人談。
そんな過去を語る辺り、今の生活をリーシャよりも良く感じているのならばローの味方に付くのは自然というものだと思う。
勝手に味方でも何でもしてれば良いと思う反面、同郷なのだからという寂しさを抱かない訳でもない。
当たり前だがローにされた仕打ちでクローウィは同じ事をされた訳ではないからローを嫌う訳もないのだ。
仲間を取られた気がしてローに嫉妬する事も多々ある。
その視線に気付いたローが見当違いにも話しかけてくるのだから尚質が悪い。
暇なせいで余計な回想をしてしまう。
頭を心の中で振り払いこっちの事に警戒をしようと周りを見渡す。
情報を少しでも頭に入れといた方が逃げられた時に優位になるかもしれない。
逃げられるのならばどこから逃げようと必死に目と耳を集中する。
ローはもしかしたら期待できない可能性があった。
前にリーシャが人質に取られた時に素直に要求を呑んだ前例があるからだ。
暖炉は火が消えないと使えないし、ドアの付近には人が何人か配置されていて隙は無い。
となれば窓からの逃走。
窓の厚さはどのくらいなのだろうか。
下手をしたらぶつかっただけで弾かれてしまう強度ならばやり損である。
クローウィの魔法ならば出来るかもしれない。
しかし、コソコソして話す真似は出来そうに無いと部屋の静寂と狭さで諦めた。
溜息を付くとクローウィが喉だけで笑って大丈夫だと励ましてくるがどうにも大丈夫な結末になるように思えない。
そんな風に思っている事が漂っていたのかクローウィは再度笑いこちらは居住まいを正す。
クローウィは何故こんなに緊張感が無いのだろうか。
ローが絶対来てくれるとでも信じているのかと疑わしくも信じられないと眉根を寄せる。

「トラファルガー・ローに手紙を渡してきました」

部屋に入ってきた男が一番偉そうにしているあのおっさんに伝えた言葉に少しは事態が進むんだなと安堵。
しかし、ローはお酒を飲んでいた筈。
酔って登場なんてギャグを犯しはしないだろうかと不安にもなる。
待つ事二十分。
何故時間が分かるかというと此処に時計があるからだ。
この組織を指揮している男は間抜けなのか人質に時計を見せているなんて悪人なりの知識も無いのかと呆れる。
普通は体感だけで放置していくのが犯人のやり口では常だろうに。
もしかしてやり方をそこまで心得ていないのかもしれない。
海軍モドキの悪人だもんな。
皮肉って笑みを浮かべる。
ローと共に居たら神経も図太くなってしまうというものだ。
此処に閉じ込められているというのに殆ど恐怖を感じない。
段々眠くなってきた。
もう時刻も深夜だから当然。
うつらうつらとしてくる。
クローウィは目がとろんとしているが、そのタレ目はいつもの目尻だから眠いのか普通なのか分からない。

(早く部屋に戻りたい)

そして、ベッドで熟睡したい。
そう自分の煩悩を数えていると外から凄まじい風が起こって窓ガラスが揺れる。
ガタガタッガタガタ!と震えていた。
今からまるで嵐が起こるような激しさだ。
そんな外の様子に海兵や雇われゴロツキ達が不思議そうに窓へ近付く。
その時、窓がまた揺れて次は炎がヒュ、と消えた。
ロウソクだけに留まらなくて暖炉の火も大きく揺らいで消える。

「くそ!火が消えたっ。誰かマッチ出して火を付けろ!」

苛ついた声で怒鳴るのはあの海兵のお偉いさんだ。
相手の苛つき具合にざまあみろとほくそ笑む。
真っ暗なので顔なんて見えないし、嘲笑し放題。
ストレスで胃を痛めてしまうよりも彼を馬鹿にして発散する方が遥かに安上がりで解決である。

「っ」

喉の底から引き攣ったようなものが僅かに聞こえたような気のせいなような。
暗いし、相手に足を踏まれないように身体を小さくしていればなかなか火は灯されない。

「何やってるんだ、早く点けろっ」

更に苛つく声が部屋にこだまする。
変な事に静かだと思える程脆弱な風の音しか聞こえない。
何なのだろう、緊張感で肌がピリピリするような突付かれる感じがする。
何か起こっているとこれは思うべきなのだろうか。


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