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過去に起きた事に縛られなくなるのはこんなにも開放感を感じるなんて思ってもみなかった。
ローに心臓を舐められたり弄ばれたり、二年以上も前の事を今まで窒息しそうな程ネチネチと責めていて、許さないと思っていて、でも、その前にこの世界が夢で無いと知って。
沢山、沢山、知ってしまった。
これならまだ現実を見ずにローに束縛されていた時の方が夢を見られたのだと思う。
夢を見られなくなったのは恐らくローが覚ましたせいだ。
クローウィに何かを言って目を覚まさせる様に言ったのだと今なら推測出来る。
何故夢に浸からせてくれなかったのだろう。
ローは現実を見ろと、後々、良く思い出してみたら、結構口にしていた。
ローはどうしてそこまでして覚まさせたがったのか、今でも分からない。
聞いたら答えてくれるのだとは思うが。
海を眺めながら思考を泳いでいるといつの間にか釣り糸が引いていた。
ベポにレクチャーしてもらってからは暇になるとお世話になる道具である。
これがなかなか奥が深い。

「あ、おっき……!」

口が回らなくなったのは予想外に強く竿が引かれて思うよりも先に足が浮く。
宙に投げ出されると脳裏に浮かぶのと、浮遊感。

「ROOM!シャンブルズ!」

パッと視界が変わり、竿が手元にあって、大きな魚は甲板に打ち上げられていた。
どうやら能力で入れ替えたらしい。
不意打ちの出来事に放心していると頭上から溜息が聞こえた。
ローはリーシャの手元から釣り道具を取り上げて適当に放ると腕を掴む。

「どこも打ってねェよな?」

「………………ええ。怪我はしてません。御迷惑をお掛けしました」

ローに借りを作るのも嫌なのでフイッと顔を背けて礼を述べる。

「…………次からは気を付けろ」

そう言えば、ローがこちらを助けられたのは彼が甲板で本を読んでいたからだ。

「まだ続けるか」

魚釣りの継続の有無を問われて、先程の経緯に冷や汗が出てきた。
ローに救われたとは言え、あのまま落ちたらどうなっていた事やら。
もう今日は釣る気力は無くなったので首を振って釣らない選択肢を取る。

「賢明な判断だ」

彼は満足そうに言うと本を手に取って船内への扉を開け放つ。
入れという意味だろう。
何かをするのも億劫なのでそのまま足を中へ向けて海の無い廊下へ進む。
彼も中へ戻るのか続いて廊下に踏み入ると「コックに飲み物でも頼んで休め」とアドバイスされ、そうしようと疲れた心はその言葉通りに動く。

「そう言えば」

「あ?」

此処最近、釣りをすれば必ず甲板に居た理由を問おうとして、ふと、ある事に行き着く。

(まさか、こうなる事を予期して見てた?)

「いいえ。今日は本当に助けてくれてありがとうございました」

何となく聞くに聞けなくて喉に押し込む。
礼に対して彼は「こんな日もある。気にするな」と声をかけてそのままリーシャの横を通り前へ去っていく。

「……絆されてるなあ、馬鹿な私」

助けられたくらいで何だというのだ。
心が揺れるなんてあってはならない。
気を強く持とうと気を取り直してコックの居る食堂へ向かった。



島に着いたというのを小耳に挟んで、今回は上陸して買い物したいとクローウィと話していた。
どう伝わったのか、というか、誰が言ったのか、何故かローにもその会話が伝わっていたらしく「今回は降りても大丈夫だ」と許可をもらえたので気分は最高だ。
久々にショッピングをしたいな、と思っていただけに、それが現実を帯びると嬉しくて堪らない。
本当ですか、と二度聞いても答えは変わらないので頬が緩む。

「この島は海軍が統治してるっつう珍しい島だ。治安は良い」

「じゃあ、沢山買い物してきます」

スキップしたくなるくらいの声音で告げて梯子を降りる。
クローウィにほうきに乗って降りようと誘われたけれど、慎んでお断りした。

「リーシャ」

降りる途中に名前を呼ばれて上を向くと逆光に居るローの口角が上がっていて、機嫌が良さげな証拠。
彼は一拍間を置いてから「はしゃぎ過ぎて転ぶんじゃねェぞ……楽しんでこい」なんて言ってくる。
海賊とは思えない内容に気恥ずかしくなって頷く。
リーシャは立派な大人だし、言われなくとも自重するに決まってる。
過保護というか、心配し過ぎである。

「先ずはランジェリーを見に行きましょお」

クローウィに手を引かれて踏み出す。

――ザワッ

胸騒ぎを感じたけれど、それは只単に楽しみだから気が張っているだけだ、きっと。
己の本能に対してそう評価する。
クローウィと下着についてあれこれと話しながらランジェリーの品を吟味。
どれが実用的で、どれが応用面があるのか。
同性であるからそこ話せる談義に楽しさを感じた。
こういうのは異性とは絶対に話せないし、話す気もない。
クローウィもいつもよりも楽しそうに口元に笑みを浮かべていて、可愛いというか、相変わらず美人である。
人によって好みが別れる美人という奴だ。
彼女と少し話せばきっと皆、彼女な人となりを理解して打ち解けられるだろうくらいは思っている。
彼女に同姓の友人を作る気配を感じないのは格好が妖艶な魔女に見えるからだろうと考えなくとも察せられるけれど。
ピンクと紫のとちらが良いかしらと聞かれて、紫と即答。
彼女はパープルっぽいのが似合うし、ピンクは何故か想像し難い。
程なくして、クローウィがリーシャの分も無理矢理推薦した物を購入したりと予想外の事もあったが、夕方には無事に買い物を終えた。
船の人達に酒場へ来るよう予め言われていたので、クローウィと共に指定された店へ赴く。
ザ、酒場の中へ入ると色んな匂いが鼻に入ってくる。
アルコールは勿論の事、人の匂い、香水の匂い。
あちこちでグラスの重なる音がする。
視線を感じているなと思っていると、道成りに居る男達がクローウィを見て口笛を吹いてまくし立て「こっちに来てくれよ」と懇願。
それを慣れた様子であしらう女に慣れているのだなと感心。

「あ、おーい。二人共!」

既にある程度お酒に酔っている船員達がこちらに気付いて合図していた。
まるで、それが当然だとでもいう、ローの隣に綺麗で着飾った女が侍(はべ)っている。
それを目撃したクローウィがふふふ、と笑うと耳元で囁く。

「露骨な嫉妬心の湧かせ方よねぇ」

「嫉妬心?湧かせようとしているから嗚呼して隣に来させているのですか?」

「小説の一説に出てきそうなくらいテンプレなやり方よ〜」

クローウィに説明されて、そうなんだと納得すると共に不可解である。
ローに対して嫉妬するような好感的な感情を持ち合わせていない。
嫉妬などする訳もないのである。
怪訝になりながらもクローウィの隣に座るとジュースと適当に食べるものを注文する。
そうしていると、嗚呼、クローウィの言う通り『何かを感じさせて反応してしまう』事を期待している視線を感じた。
だからと言って期待を持たせる事も何か反応する事も、目だって合わせるつもりはない。
ローの視線を完璧にスルーしつつ、お腹を満たしていくと、程なくして船員達の「船長」という発言に上を向いて見る。
彼は女を横に居させて席を立って歩き出していた。
船員達の何人かも立ち上がり始めて、そろそろお開きなのかと察していると後ろで足音が止まり頭上に陰が出来る。
真後ろから「船長さん?」という先を足す声が聞こえ、猫撫で声だなあ、とぽつりと感想が湧いてくる。

「ふふ、少し案内してあげる」

クローウィとは種類の違う笑みを漏らす女の甘ったるい声に(凄いな)と同じ女としての技に感嘆。
というか、さっさと視線を外してその人と夜の町でもホテルでも歓楽街でも行けば良い。
いつまでも後ろに立たれると無駄に威圧感で収縮してしまいそうになる。
ローに対して念じていると漸く歩き出す足音と共に後ろにある気配も無くなった。
やっと行ったかと安心しているとペンギンが良いのか、と聞いてきたので、まさか行って欲しくないのだろうと思われているのではないのか、と嫌になる。
とんだ酷い誤解をしている人はチラホラ居て、こちらに投げかけてくるような何か言いたいとでもいう雰囲気に囲まれる。
とんでもない。
嫌何て事がある訳もなく、ご勝手にとすら思っているのに。
彼等の誤解を解く為に「関係ありませんから」と言う。
そんな事はないだろう、という言葉を聞かされそうに思ったので席から立ち上がる。
しかし、それもタイミングのせいなのか『やっぱり止めに行くつもりか』と行っているような目をされて鬱陶しく思う。
味方の居ない場所にもう一秒だって居たくないのでツカツカと酒場の扉、外への道へ向かうと後ろからクローウィが付いてくる。
彼女は真意を見分けてくれたから付いて来たのだろう。
ローに関して好きだとかいう甘ったるい胸焼けの様なものは無いと彼女に話しているからだろうが。
クローウィが隣に並ぶのが見えて足の速度を少し落とす。
彼女は見た目がポヤポヤしているから耐久力がなさそうで、甘やかしてしまうというか、彼女に乱暴な態度は躊躇してしまう。
彼女は賞金首として二年間で少し上がって、見事にローと並ぶ実力者として世間でも海軍でも認知されている。
だから、別に弱い訳でもないのだ。
クローウィは静かに付いてきている。
このまま船に帰って部屋でのんびり過ごそうと決めてから道を曲がった時、微かな声が聞こえて、向こうの道から人がコソコソと一目を忍ぶように出てきた。
それを見て(あ、ヤバい展開の奴だこれ)と未来を嘆く。
その予想が覆される事無く、こちらへやってくる男達に捕らわれる。
クローウィが反撃してくれると思っていたが、捕まえた男達の情報を得る為に敢えてわざと捕まったのだろう。
捕まえられた後は静かにしていろと脅しの言葉をかけられる。
けれど、全く恐怖心は出てこなかった。
それから連れて行かれたのは船。
何の船だと見ていると、中へ入った途端に奴隷になる人達の船だと瞬時に理解してしまう。
どうしてこんなに冴えてしまうのだと恨めしくなりながらもクローウィと船に押し込められる。

「おい、何かこの女顔に覚えがないか?」

「そうか?お前の好みじゃないのか?ははは、美人だもんなァ」

あまりにも心無い野次に苛々する。
クローウィを親友だとか、思った事は無いが、彼女とはそこそこ長く異性として助かってもいるし、男だらけの船での僅かに安堵を感じる存在なのだ。
ローと結託しているのは別として、同じ異世界から来た人間という共通点もある。
そんな彼女が下心の視線に晒されているのは気持ち的に気分も俄然良くない。
睨むなんていう勇気も無いが、クローウィの隣から離れないように身体をくっつける。
そもそも、クローウィが本気を出せば脱走は簡単であるので、何も焦る事はない。
閉じ込められて一時間後、リーシャ達という目撃した人間が居ると聞いたのか悪の親玉が現れた。


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