×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

船に乗ってから半年が過ぎた。
反発心は少しばかりなりを潜めるくらいは心が落ち着いた。
此処までマシになるまで半年も掛かった事は意外でもあったが、ローが自船に居る事が少なくなった事も大きいのだと思う。
クローウィ曰く、彼は様々なラインセンスと引き替えに王下七武海に入ったから多忙になったのだとか。
彼が居ない日は船の雰囲気もガラッと変わる。

「リーシャ!キャプテンが帰ってきた!」

ベポの聞いてもいない報告を耳にして「ふーん」と素っ気なく言う。
帰還したと聞いて喜ぶと思われるのも嫌である。

「キャプテンからお土産貰った。はい、これ、リーシャの」

いつもいつも手土産に何かを買ってくるローに交換日記でわざわざ忙しいのにとさり気なく断っているのだが、その内容をスルーされてこうして今もお土産を渡される。
序でだと言われてしまう始末。

「わー、チョコクッキーだな」

羨ましげに見ているベポの手には蜂蜜。
熊だから、なのか。
突っ込まないように目を逸らして包装をそのままに部屋へ向かう。
此処で食べないのかと聞かれ、とんでもないと首を振る。
万が一にもローに目撃されるのは困るので人目のある所では食さない。

「あ、飲みものいるだろ?食堂に先に寄れよ」

勧められてクッキーは喉につっかえるだろうとベポの言葉に納得して食堂へ向かう。
その折り、雰囲気の変わったローが向こうから来るのが見えて僅かに足が止まりそうになる。
クッキーのお礼はするべきだろう。
けれど、ありがとうという言葉をローに言うのは今でも反抗心が生まれる。
言って何になる、言うなんて恥知らず。
そんな自分が時折囁く。
忘れたのか、あの悪夢を、された事を、苦しみを。
それが、変わらなくてはと思う自身とせめぎ合う。
距離は後僅かである。

(言うの、言わないの?)

「俺が居ない間に敵襲が遭ったと聞いた。怪我はなかったか」

「!…………はい。無かった、です」

言い淀みながらも唇が乾く感覚に勇気が引っ込みそうになる。
それだけ聞いた男はそうか、と言うと再びすれ違って交差。

「あ、の」

「?………何だ」

呼び止めたから聞いてくるのも待つのも分かっているが、聞き逃して欲しかった。

「クッキー………………後で、頂きますね」

小声でボソボソと言ったけれど、相手には届いたらしく「また次も何か買ってくる」と言う。

「それとも何か、欲しいモンはねェか?」

(欲しいものなんて……考えた事、なかったな…………何か言うべき、かな)

そんなに直ぐに思い付かない。

「三日は船に居る予定だから、有るのなら、紙に書いて誰かに渡せば良い。悩ませて悪かったよ」

ローは刀を担ぎ直して去って行く。
彼はこちらに触れる事が前より少なくなった。
彼との距離を測りかねている。
それが今の悩みであった。
関わりたくないから距離なんて気にする必要の無かった昔が恋しい。
このままで良いと思えるような楽観さは生憎持っていないせいで変に気にしてしまう。

「このまま、消えたい」

町に住む為にと前は頑張っていたが、今は町に住む事が堪らなく不安だ。
半年前に戦争があって、前半の海も後半の海もこの世界全体の治安が劇的に変わってしまった。
白ひげと呼ばれる海賊の加護を受けていた島は特に酷い有様だと新聞で見たし、他の島も四皇と呼ばれたその白ひげが居なくなったせいで抑止力が消えてしまったせいだとクローウィに聞いた。
そんな中で安全が欲しいと漏らすと数日後にローが七武海に加入すると言い出したのだ。
皆びっくりして、クローウィも珍しく唖然として、それからふふふ、と笑った。
それは何かに気付いた上での含み笑いのような気がしたが、クローウィは何も言わない。
リーシャにこれから忙しくなるわー、と漏らしていたので何が忙しくなるのだろうと疑問に感じて、その意味が分かるまで直ぐだった。
ローはその能力で海賊達の心臓をメスという技でくり抜き始め、動いたままの心臓を一つ一つ袋に詰めるという作業が同時に始まった。
狂気の沙汰じゃないかと外から見ていたら心臓が百個貯まったら海軍に持って行くと宣い、それを有言実行した。
船の中から海軍の人達が出てきて心臓を見ると腰を抜かしていたので絶対にその反応を分かっていて袋に詰めたのだと思う。
それら彼は海軍で審議されてあっさり王下七武海の枠に嵌まった訳だ。
ローが帰還した夜、宴が催されるとクローウィから聞いて、また騒がしくなると感想。
コックに後で何か手伝う事が有るか聞いてこようと決めた。
船に居るとやはり時間が出来て暇になるし、特に何かの趣味も無いので暇を潰せないのだ。
持て余しているとベポが釣りをしようと持ち掛けてきたので何もしないよりはマシだとその言葉に乗っかる。
釣りは初めてだし、少し興味もあって期待にベポへ付いて行く。
先ずは釣りの道具だと言うので彼は釣り道具が置いてある場所に入ってズラリと並ぶ釣り竿の一本をこちらに手渡してきた。
初めて触るそれに何度も目を通す。
ベポは宴に食べる魚を釣るのだと張り切っていた。
そんなに上手く事が運ぶのかはさて置き、ベポにレクチャーしてもらう。
釣り糸を垂らしてボーッとしているのが一番効率が良いらしい。
…………暇なのは変わらないようだ。
何か違う事でその暇を解消出来ないものかと考えるけれど、リーシャの生まれた世界には娯楽がそこら辺に沢山あったので、自分から何かを考えて娯楽を作るというのは無い。
トランプはこの世界に有るようだが、ゲームと言った家庭用のものは無いので時間も進まない。
何か自分でも作れる暇を潰せるものは無いか。
思考を凝らして考えて捻っていても湧いてくる訳もなく、不意にベポが話し掛けて来た事により意識はそちらに向く。

「リーシャってさ、好きなオス居ないの?」

「(オス……)居ない」

オスと言われたら野生動物を連想してしまうではないか。
男とか男性とか異性とか、言葉はそっちを選んで欲しいが、ベポの感性を心得ている身でそれも言えない。
女、又は異性をメスと言ってしまう熊だから仕方ない。
スパッと述べるとベポはふーん、と言う。

「キャプンテンは、カッコイいし、二人はお似合いじゃないかと思う」

「お似合い?シャチさんとかにそう言えって言われたでしょ?」

ベポにしては言い方が変だ。
大方、吹き込まれたのだろう。
図星らしく、ベポがポリポリと頬をかく。
やはりか。

「トラファルガーさんは無理。嫌いだもん」

「…………でも、キャプンテンはお前の事好きなんだ」

「……それが何だって話しになるけど」

だから、何だ。
好きだから、好きになれと?
そんなのは無理で、有り得ない。

「ベポは、ベポの事バカにしたり暴力振るったメスの熊の事、好きになれる?」

例えというか、実話である。
そんな人間、人間でなくても、当てはめずとも好きになれるわけが無い。

「好きになったら関係ないと思う」

「それはベポが嫌な目に遭った事ないから言えるんだよ」

「でも……」

ベポは歯に詰まらせた様な事を言い掛ける。
誰かにそう言うようにそそのかされたのだろう。
そんな手にも乗らない。

「キャプンテン、リーシャと話す時、すっごく嬉しそうな顔してるし」

そう言われても。
ベポはリーシャに何と言って欲しいのか。
いや、言われなくても大体察しは付く。
きっと『私もトラファルガーさんが好きだよ』『嫌いじゃないかな』とから辺だ。
言うとしても、完全に嘘となるけれど、それでも言わせたいのか。
答えを黙秘していると彼は困ったように話題を急性に変えてきた。
良い判断だ。
どう見ても不毛であるし。

「今日は皆、夜に島に言ってお酒飲みに行くから、一緒に留守番しような」

「今日、だったか……クローウィさんは何て?」

「今日は船でのんびりしとくって」

偶にこういう日があって、所謂男達の喜ぶ日で、男だからこそ島に行く。
何となく察しているし、察せ無いと只の我が儘になってしまう。
クローウィは行ったり行かなかったり。
偶にだけれどお買い物に行ったり、連れて行ってくれたり、彼女は自由に島に降りれる。
そんな彼女とは違って自分は誰かと同伴かローの許しが無いと降りれないという不公平を科されていた。
降りて、前みたいに浚われるのは嫌なので応じているけれど。
色々不便ではあるな、と感じてはいる。
ローも女を買う店に赴くし、小耳に(船員達が噂している)挟んだ内容を聞くに、熱い夜を過ごしているらしい。
適当にその店でリーシャに代わる女の人でも見繕ってきて欲しいなと思う。

「はあ」

釣り糸を垂らして、波打つ水面を見る。

「あ、糸が引いてる」

「あ!」

引っ張られていたようで慌ててベポが釣り上げるのを見届けた。


戻る【31】