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ローにあんな事を言われたからかワンワンと泣いてしまった。
泣き止んだ後にふと思い出した事もあったので必死に取り繕う。
一番嫌いな男の前で大泣きするのはこれで二度目だ。
失態過ぎるにも程があると赤くなる。

「悪魔の実を食べた人間は泳げなくなるんじゃないんでしたか?私泳げてましたけど!」

投げ遣りに質問すると彼はそう言えばそうだったなと首を傾げる。
彼の考えた中の仮説によると異世界人であるから悪魔の実がまだ覚醒していないのかもしれないと言うので、もしかしたらこのまま覚醒せずに内に封印されたまま人生を送れるかもしれないと希望が差す。
そりゃあ、この世界で生きて行くには悪魔の実はとても優位なものになるが、本を読んだ限り一般人にはあまり歓迎されない類の能力であるというのを読んだ事があったので不安が残っている。
彼にその事も含めて言ってみた。
今は憎い気持ちを差し引いて話せるくらいは気持ちが穏やかであるから。
こんなに何かを感じずに話すのは久しい。
クローウィに対しても何かを感じていたから本音をぶちまけるとまではいかなかったのだ。
彼女は半ば強引に仲間にさせられたのでローが使役するにはとても体の良いリーシャ用の密偵であるのだし。
天の邪鬼になった訳でもないが疑り深くなってしまったのは認める。
しかし、明日明後日で治せるものでもない。
このままで良いとも思わないが、ローの近くに居る限り自分の疑心暗鬼はどうにもならないと諦めるしかなさそうだ。

「目元が赤い。木の水分を取ってくるから待ってろ」

「この程度何とも」

「動くなよ」

釘を刺されてムカつくな、と反抗心が芽吹く。
何と芽吹き易いのかと自分でも止められない濁流の感情に蓋をしたいと思ってしまう。
こんな事では日常に戻れない。
普通に笑っても許される生活を早く得たいとしみじみ思った。

(世界に希望を持てなくなった人が異世界を渡る……私も無い記憶で元の世界に対して何か絶望したのかな)

例えば家族が死んだとか、はたまた別の理由だとか。
クローウィも異世界人だと言っていたので彼女も何かあってこの世界に流れてきたのだろうかと考える。
同じ絶望を味わってきたのに、来た世界でも嫌な目に遭うとはかなり不幸だとしか思えない。

(でも、改めて思うけど何で私に好きとか思うかな?今までもモテてた人だったんだろうけどさ)

ローは何かと好きだとか愛しているとか言う。
それは駆け引きを総無視して必死にアピールしていると嫌悪を有りにしても痛いくらい感じてはいた。
考えている間に戻ってきたローは水分を服に染み込ませたのか半裸で、着ていた服を手に持っていた。
突然半裸で現れたものだから驚いたものの、彼は何食わぬ顔で服を顔に寄せて「目に当てろ」と言う。
その命令口調はどうにかならないのだろうかと突っ込みつつ言われた通りにした。
翌日まで腫れを長引かせたくなかったのだ。
止む終えないと誰にでもなく言い訳を述べて服を当てるとひんやりとした自然な冷たさに息を吐く。
この男の前で弱味を見せたくないが、此処が無人島ならば致し方ない。
ジト目になるのを我慢せずにやっているとローが動く音が聞こえた。
砂を踏む音が聞こえる。
相手は海を見ているのか視界の端に見えるので船が来るのを待っているのかもしれない。
そんなに直ぐに迎えに来る事は早々ないだろう。
そもそもどの無人島に居るのかすら分かっていないのかもしれない。
もしかしたら何かの能力を持っていて、それを使っているのかもしれないと予測。
彼は徐にこちらへ来るとリーシャに説明してきた。
何でも『ビプルカード』というものがローの元へ船員達が導かれるようになっているらしい。
それを現代では発信器というので似たようなものだろうか。
そうなれば来るのも時間の問題で、後は流された距離でいつ来るかという訳だ。
彼はだからこんなに冷静なのだと理由が分かって狡いと思う。
というか、もっと早めに教えて欲しかったと恨めしく感じる。
ローは安堵していたかもしれないが、こちらは無人島で一生暮らさなければいけないのだと思ったから泣いたというのもある訳だ。
しかも、ローと二人で。
一番嫌な最後を迎えるのだと覚悟も出来ずに飢餓で死ぬのだと怖かったのだ。
元の世界に帰れないと薄々感じていたし、今では帰れないのだとクリアに感じる。
自覚をしっかりとしてしまった後にこんな風になるのならば一人でひっそりと死にたかった。
看取られるの何て特に望んでいない。
ローに看取られる何て、嫌だ。
同情で人を好きになるものか。
クローウィが乗り込んできて早くどこかへ連れていってくれないかな、と非現実な逃避をする。
その間にもローは木の枝を集めたり火を起こしたりしてこちらが驚くくらい手際良く過ごしていた。
火を起こせる何て。
自分には無理だ、きっと手が痛んでそれどころではなくなる。
どうやらローは餓死する気はなく、普通に生きようとしている。
何故追いかけてきたのかとついつい凝視してしまう。
考えなくとも聞いたらきっと「お前が飛び込んだから」と最もらしい事を言い、確かな言葉は貰えないと思う。
ローは時に行き当たりばったりな思考をしている。
臨機応変とも言うが、悪く言えば余計な世話であるとリーシャは抗議したくなった。
誰が助けて欲しいと頼んだ。
追いかけてこいとも言った覚えもなく、生かせてくれと望んだ事もない。
彼は自分に執着するし、ヤケに生かそうとしている。
傷付けているのに大切に扱うという矛盾をこちらに向けているのだ。
ローは森に言ってくると言って去っていく。

(何しに?)

もう直ぐ日が暮れるし、探検でもするつもりなのか。
彼は海賊だから何事にも自由だ。
こんな非常事態の時も自由なんて、もう勝手にどこへでも行けば良い。
戻ってきたのは二時間程してからだった。
彼は開口一番に「洞窟を見つけた」と言ってリーシャを強引に立たせては歩かせる。
止めてと抵抗しても「眠るには必要だ」と力説されて渋々付いて行く。
強引さを直せと言いたい。
これじゃあ素直に彼の言葉に従えない。

「此処?」

狭くはないが、広くもない。
寝るには寄って寝なくてはならないだろう。
ローが不寝番をするから寝ておけと言うので、寝られるかと悪態を付く。

「私も、起きてます」

「寝ろ。明日に響く」

譲ってもらえない事に苛々してきた。
何と融通が効かないのだろう。
嫌な男だ。
好きと言う割にちっとも話しを聞かない。

「いいえ、寝ません」

テコでも動かないと座り込むとローの手が視界に移って頭の後ろに回る。
グッと急激に距離が狭まった途端、唇を押し付けられた。
胸にせり上がる嫌なもの。
突き飛ばすように腕を出すといとも簡単に離れる。

「いや!何するの!?」

「寝ないのなら、暇だろうと思ってな」

「暇!?どこを見てそう思うわけ!?信じらんない!もう、寝るっ」

寝ないのならと言われて、持っていたプライドをズタズタにされて洞窟へ籠もる。
ゴツゴツしていると思いきや意外と平気であった。
ゴロンと寝ころぶと苛立つ気持ちのまま目を閉じた。
しかし、気持ちが高揚していて上手く眠れず先程のローの行動に少し違和感を得た。

(キスするにしても、タイミングが……)

いきなりと言っても、確か、される前に寝ないし、起きていると言った。
その後の事でキスされて自分は寝ると息巻いて此処へ来た。
まさか、寝させる為に、起きていさせない為に。
そこまで考えてからローの居るであろう方向を見た。
暗くてあまり見えないが、居るのだろう。
眠れなくなってしまったし、少し外へ行こうと立ち上がると洞窟を出る。
ローが「どうした」と言うので別にと答えた。
何だか、コントロールされたみたいで気に食わない。

「トラファルガー。貴方は私に不寝番させない為にあんな事やったんですよね?」

「………………………………、」

黙りが答えだ。
トラファルガー、と呼んだのは敬称を付ける義務がないから。

「黙っていると、勝手に肯定だと思っておきますから」

「惚れた女を、こんなとこに居させておく男なんて居ねーよ」

「へえ」

素っ気なく答えた。
本当にどうでもいい事だ。
その程度の理由で。

「前、海軍から私をまた連れ出したのは何故なのですか、トラファルガー」

「ローだ。せめてローと呼べ」

「私の質問に答えてよ、トラファルガー」

ローは暫ししてから息を吐くと口を開く。

「一度手放せば、お前は喜ぶと思った。このままじゃ駄目だとおれも思ったんでな」

「……あの時、また来た」

「自分の手の届く所に居ねェとなったら寝れなくなってな」

「……今時、子供だって寝れるっつの」

「フフフ、そうだな。おれは不完全で壊れてる。もう治せねーって程、な。けど、お前が来てから、良く眠れるようになって、パズルのピースがハマったみたいに思えた……運命っていうのか、言葉で言うと」

傍迷惑な運命だ。

「お前にとっちゃ運の悪い運命に思えただろうな……」

「分かっているのなら次の島で下ろしてから金輪際関わらないで下さると良いです」

要求を呑むとは思えないが言ってみた。
ローはそれに対して「お前がおれを愛すまで待つからそれは無理だ」と言う。

「だから、私は貴方を好きになる事も愛する事もしません。全てに誓いますよ」

「そういう風に言うからもっと、落としたくなるんだ」

「悪趣味」

「ああ、悪趣味だな」

ローは悲しそうに愉しそうに返した。


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