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会場の壁が壊れたらしくその瓦礫から人影が現れる。
それは遊園地で共に遊んだルフィだった。
どうしてこんな所に、と思っていると彼はどうやら今し方落札された人魚を探していたらしい。
どこかで見たことのある人魚だと思えば一緒にいた少女だったのかと今更思い出す。
人間だと思っていたので直ぐに一致しなかった。
彼はそのまま走って人魚を奪還しようとする。
けれど、そこで誰かが止めに入った。
ここには沢山の人が居るし、今落札されたばかりの人魚を簡単に助けられるわけがないとリーシャでも理解出来る。
悲しくて、まるで飼い殺されている自分と重なった。
ルフィを止めた人は純人族ではなく、人型の魚、魚人であった事で周りが蒼然となる。
初めてみたし、驚いたけれど気持ち悪いという周りの見解には同調出来ない。
未知の生物としての畏怖ならば余る程沸いているが。
クローウィも「この島に居るなんて珍しいわねえ」とぽやんと言う。
どうやら雰囲気も雲行きも怪しくなってきた。

「!!?」

当然の銃声、それは凶弾であった。

「ハチ!」

例の麦藁の少年の近くに居たヒトデの同じく故郷をする人が叫ぶ。
それを筆頭に聞こえてくるのは安堵の声や清々したという言葉。

(人が愚かなのはどこの世界でも一緒)

そんな事は考えなくても分かる。
世界が違っても知性がある個体さえいれば何でもかんでも世に横行するのだ。
トラファルガー・ローも同じ。
人だろうが何だろうが、世の中は何百年も前からこんな風に回っているのだ。
意識を俗世から離していると物凄い轟音が聞こえて否応でもハッと意識を戻す。
見てみるとルフィは青筋を浮かべていた。
天竜人と呼ばれる男が目の前に居たのに居なくなっていた。
周りは後ろを向いているので同じように見ると頬が陥没してギャグ漫画のような状態の天竜人が壁に激突して気を失っている。
同じく天竜人(女)が叫ぶ。
それに天竜人(中年と老人の中間)が忌々しく顔を歪める。
ルフィはそんな二人と周りの唖然とした空気を物ともせずに堂々と立っていた。

「うわあああ!」

天竜人(おじさんでいいかもう)が拳銃を乱射し始めたので周りにいた奴隷を買いに来た客が逃げ始める。
遅い気もするが。
リーシャもそろそろ逃げた方が良さそうだと思って腰を上げるとクローウィが手を掴む。
掴まれた事を不満に感じて彼女の方を向くとクスクスと笑みを見せる。
何が楽しくて笑っているのか。

(何考えてんだろ)

離して欲しい。

(どいつもこいつも私のやる事邪魔してばっか)

「今は得策じゃない。外に海軍が居るからな」

シャチが先輩風を吹かせてくる。
だとしてもだ、別に関係ない。
この人間達と居なければ捕まる事もないのだし、寧ろ離れたく思う。
天井から瓦礫が吹き飛ぶ音がしたかと思えば空から続々と人がやってきてルフィ達に加勢していく。
乱闘と呼ぶに相応しい光景。
あのおじいさん一歩手前の天竜人が長い鼻の少年のお尻に敷かれて意識を失ったらしいと騒ぎの声で理解。
どんどん戦況が乱れていくと次はオークションの主催者が撃たれたり人魚を撃とうとしたり。
そしたら天竜人(女)が突然倒れて奥からお爺さんと巨人みたいな男性が出てきた。
そんなこんなでまた変な現象が起きて流石に無関心ではいられない。

(!……あ)

何かが身体を駆け抜けて気が遠くなる。
意識を失う感覚をモロに感じたのは始めての経験であった。
目を開けると既に外に出ていたらしく轟音が辺りに響く。
気か付いたら目の前で海軍と争っていただなんて心臓に悪過ぎる。
青ざめているだろう顔をしていると目の前にあの輝く笑みが通った。

「また会ったら遊ぼうなっ」

ルフィはニカッと笑って去っていく。
それを何とも言えない心地で見ているとこっちも逃げる算段を相談したらしくリーシャを背負っていたシャチが地面に降ろす。

「魔女屋。お前はこいつと飛べ」

「了ー解〜」

ノビーッとした声音でクローウィはリーシャを誘導してほうきに乗らせる。
また飛ばなくてはならないなんて憂鬱だ。
それに付いていくなんてこちらは一言も同意していない。
何故リーシャは居たくもない海賊団の人間達と海軍から逃げているのか疑問だ。
リーシャには全く逃げる理由がない。

「あれはっ」

クローウィの切迫した珍しい声に前を見ると煙の中に何かが蠢(うごめ)いているのが見え、かなり大きい事が分かる。

「バーソロミューくま……嘘でしょお」

クローウィは落胆と絶望を含んで気色ばんだ空気を発した。
何がヤバいのか理解出来ないが、何かあるのかもしれない。
バーソロミューくまはローの事を見ると彼が何者かを言い、それにローは驚いていた。
後は、赤い人がぶつかったりして、兎に角大勢人が居るのに全く歯が立たなかった。
しかし、ローが機転とやらをきかして攻撃すると嘘のように動きが止まって戦闘は終了。
その後、足を止める余裕もなさそうに急いで船へと向かい島から離れ隠れた。
シャボンディ諸島の一日はこうして波乱で始まり波乱の余韻を残したまま終わった。
夜になると海軍は警戒網を張っているので深海に留まっていて静かだ。
ローと会う確率は低いと思い部屋に籠もっていたら本人からやってきて全身の肌を逆立てた。
お陰で鳥肌がぞわぞとして気持ち悪い。背中も汗ばみ気持ち悪い。
大切な事なので二回言った。

「麦藁屋とは知り合いか」

黙って冷戦的視線を浴びせているとどうでも良いレベルの事を聞いてくるので面倒臭いとばかりに言う。

「貴方に私の行動や関係を逐一報告しろと?そういうのいらないです」

放っておけとイライラしてそっぽをむくと視界に腕が通る。
壁ドンではなく壁に手を置いただけの仕草にキュンなどとはしない。
ムカつくだけだ。
何処かへ行って欲しいのに退く気配もなく、時間だけが無意味に過ぎていく。

「おれが先にお前を見つけたのに、不公平で理不尽だ」

(意味不明。意志疎通する価値もないな)

「黙りは止めろ」

「そっちは黙って下さい」

「俺は不器用だ。黙ったら何も動かねェ」

「煩いな」

「おれはお前が好きだ」

「冗談も程々に」

「冗談は言わない。ただ、最初にミスっただけの話しだ」

「貴方と居る価値も、今もこうして話している時間も私にとっては酷く勿体ないんです。退いて」

ローの頭の中なんてどうでもいい、どうせ細胞がほぼ壊滅している事は見なくても分かる。
ローから離れようと触りたくないが押そうとして手を鎖骨より下にググッと力を入れた。

「ちっせえな」

ギュッと唐突に握られた手にギョッとする。
あの忌々しい記憶が断片的に蘇った。
薄暗い部屋で心臓を握られて、言われた通りに過ごす日々。
与えられる心臓からの快感に悶え苦しんだ。

「っ!――いやっ!」

ブォン!と手を力の限り振り解く。
その際、彼の首に手が当たりパチンと鈍い音がした。

「う、あ」

暴力を振るった後の報復が怖くて歯がガチガチと鳴る。
ローは無表情でこちらを見て徐に手を回す。
回された所は背中で骨を折られるのかもと死を覚悟した。

「おれが悪いんだ。この程度で怒る真似はしねェ」

ギュッと抱き締めたローは切なさを含んだ声音で再度述べる。

「お前は、もうこの世界がどんな所か理解してるんだろ?」

その発言にガッとローを突き飛ばす気で押した。
簡単に解けた包容に考える間もなく部屋を出る。
クローウィの所へ行って、そしてクローウィを責めたくなった。
何故あんな男に協力するのか、何故助けてくれないのか。
クローウィがそれにどんな反応をするのか知りたくて堪らない。
クローウィの居るだろう所へ行くと、彼女はウトウトと潜水艦の中にある倉庫で眠りこけていた。
なんでも秘薬を作成しているらしい。
お香の類だろうとは言わなかった自分は魔女というキャラのイメージを頑なに持っているのかもしれないと思った。
クローウィは当然来訪したリーシャに驚く事はなく眠たそうにしながら何用かと催促してきた。

「私、眠ってるの。この世界は私の夢の中なんだけど、どうしてもこの悪夢から醒めたい。夢から醒められる薬を作って」

責めたい言葉を無くして代わりに出てきたのはそんな言葉。
クローウィは目をこれでもかと大きく見開き、やがて力なく俯く。

「リーシャちゃん。あのね、お姉さん。リーシャちゃんに内緒にしていた事があるの」

「?」

当然のカミングアウト宣言に怪訝になる。
今の自分の言葉は流されたのかと憤った。

「今はそんな話し聞く気になれません。私は秘密を暴露しあいたい訳ではないんですけど」

「分かってるわ、リーシャちゃんは元の現実世界に帰りたいのでしょう?」

「ええ!」

「クローウィという名前はね、偽名なのよ、お姉さん。だってこの世界では自分の名前は目立つもの」

「は?」

クローウィの言い分も内容もチンプンカンプンだ。

「私もリーシャちゃんと同じ世界からやってきたの。リーシャちゃん、よく心してお聞きなさい」

クローウィの言葉遣いが弛んでない事に気付かぬまま、彼女は言った。

「此処は紛れもない異世界。夢ではないの。此処はね、地球でもない、スマホも、大型飛行機もロケットもリニアモーターも新幹線も悪魔の実なんて有り得ない常識も、存在しない世界。トリップしてきたの。私も……貴方もね」


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