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遊園地に着くと人々の喜びに満ちた叫びや話し声があちらこちらから聞こえてくる。
やっと夢らしい所へ来た。
人々の声が夢らしさを強調させる。

「うふふう。リーシャちゃん目をキラキラさせてるう。可愛いわ〜」

「ぎゃ!すげー美人!」

目の前を横切った人が変な奇声を上げて去る。
十中八九どころか十中全てクローウィの容姿が原因だろう。

「どれに乗るー?」

「クローウィさんは何か希望ありますか?」

「うーんとねえ。ジェットコースターには乗りたいわあ」

クローウィの希望を優先的にしようと思っていたのでジェットコースターに乗る事にした。
彼女は「リーシャちゃんの好きなのでいいのにー」とのほほんと言うが、彼女も楽しむべきだと思う。
二回目を後で乗ろうとクローウィと話し合うと次は船の形をした乗り物へ乗る。
ゆるりと動き出しては早く動く。
隣のクローウィを見るとジェットコースターの時と同じく涼しげな顔をしていた。
楽しそうかと聞かれれば楽しそうに見えるような気がする。
彼女の顔を判別できるにはまだ至っていないので断言出来ない。
左右に動く乗り物を乗り終えると少し休憩する事にした。
クローウィがアイスを売る店を指で指して食べようと言うので向かうと沢山の種類があって迷う。
クローウィはパンプキン味を選び、リーシャは無難なバニラを選ぶ。

「パンプキン……かぼちゃ好きなんですか」

色々種類がある中でこれを選ぶ理由を何となく悟る。

「ええ〜。私の一番好きなものよお。この姿もパンプキンから連想して作ったのよお〜」

魔女、カラス、ほうき、ステッキ、呪文、パンプキン。
それで二つ名が『魔女』となるなら納得だ。
アイスを食べ終わってまたジェットコースターへの列に並ぶ。
リーシャ達の後ろに並んできた人達がとても騒がしくて自然と目が合う。

「お前等もこれに乗んのか!」

やたらテンションが高い。
クローウィが「ええ〜そうよー」と返事をしたのを皮切りに彼は絡んでくる。

「そーだ!おれ、コーティング職人のおっさん捜してんだけど見た事あるか?」

(コーティング職人?そう言えばベポさんがコーティングしてもらうとか言ってた気がする)

船をコーティングしてもらうのだと意味の分からない事を言っていたので聞き流した。

「さあー。私達は見てないわよねえ。ねーリーシャちゃ〜ん?」

「はい。顔をそもそも知らないですし……」

質問に答えると麦藁帽子を被った男の子は笑って見てないなら仕方ねェ!と言う。
船員達には居ないタイプの子だ。
ジェットコースターに乗る番になって彼等と同じ乗り物に乗った。
発信する際、彼は名を言い忘れていた言ってから「おれはルフィだ」と笑顔で言い切る。

「私はクローウィよ〜。この子はリーシャちゃん」

「おう、宜しくな!」

クローウィはどことなく楽しそうに笑った。

「私が見てきた男の子の中で一番可愛いわ〜この子ー」

こっそり教えてくれた。
それは良かったと苦笑しているとジェットコースターが天辺に登り落下していく。
それにして自己紹介なんてする必要はあったのだろうか。
別に行動するわけでもないのに。
と、思っていた瞬間がありました自分にも。
驚いた事に乗り終わるとルフィは次も一緒に遊ぼう、とクローウィ達を誘う。
それにクローウィが先手で頷いたので流されるままに付いていく。
コーヒーカップに乗るとクローウィと二人、ルフィ達は四人で乗った。
ルフィ達の乗ったコーヒーカップは壊れる程回り、実際壊れて係りの人に叱られていた。
クローウィがそろそろ行きましょうと言うのでルフィと別れ、道を行く。

「どこに行くんですか」

クローウィはヒューマンショップだと答えて脳裏に大道芸が展開する。

「多分〜リーシャちゃんの考えているライトな場所じゃないわよー。ヒューマンショップはねえ」

クローウィの口から有り得ない単語が出てきた。

「人身売買じゃ……それ」

「無法者だからねえ、まあ一般人も売ってる時はあるわよお」

「この島。イカレテル」

視界が霞みそうになる。

「海軍も知っている上で知らないフリをしてるのよ〜もうこの世界ってえ」

「「オワッテル」」

ハッと気付くとクローウィはぽってりとした唇を上げて静かに佇んでいた。

「えーっと……クローウィさん。私、今ぼんやりしてましたよね」

「そうねえ、でも。何かを呟いた気がしたのだけれど〜。気のせいかしらあ?」

クローウィも目が覚めたような顔で言う。
何か、言った気がする。
言ってない気もする。

「気にしても分からない事なんてありますよ。そのヒューマンショップ?ですよね。行かないと駄目そうですかね」

クローウィは分からないと首を傾げたので取り敢えず行くだけ行ってみようと一番グローブを目指して歩き出した。




ヒューマンオークションに着くとちらほらと人が吸い込まれるように入っていくのが見えた。
気分が悪くなってきたので少し呼吸をゆっくりする。
クローウィが大丈夫かと様子を窺ってくるのでローのせいだから「平気です」と言う。
中に入ると結構人が居たので物好きも多いな、と無表情で抱く。
折角遊園地という夢の世界に浸ったのに地獄に見えた。
とても醜い、目を背けたくなる程。
入り口で視線を感じて後ろを向けばリーシャを「ちんちくりん」呼ばわりした男が居て目をかっ開く。

「おい、女」

お花を咲かせられたというのに性懲りもなく声を掛けてきた。
クローウィは緩やかに後ろを向くと気怠そうに「タンポポちゃんを咲かせた子」と気付く。

「あれを抜くのに時間が掛かったぞ」

「だからーお仕置きって言ったじゃなあい」

ポヨンと軽快な音が付きそうな程のテンポで答えるクローウィに海賊と普通に話せる事を凄いと関心する。

「ちんちくりんも何でこんなとこにいる」

「…………」

(感じ悪い感じ悪い感じ悪い)

全く悪びれる様子もなく二度に渡ってちんちくりんと呼ぶ男に最早答える価値なしと判断して黙秘。
それにクローウィがステッキを構える。

「次はパンジーを咲かせるわよお」

「ハ、同じもんに二度受けるかよ」

キッドも構えてレディーファイツ、となりそうだったが、隣に居た黄色い髪の男性がキッドを窘(たしな)めて攻撃し合う空気は飛散した。
どうやら彼はキッドを止める事も止められる事にも慣れているようだ。
こういう大人が居るからキッドは子供のような性格なんじゃないかと思う。
この力関係を推測していると視線をまた後ろから感じてソッと向くとロー達がこちらを見ていた。

「クローウィさん」

クローウィに見られていることを教えると「もう行こうかしらあ」と言い始めたので嫌々ながらも後に続く。
ローの隣なんて有り得ないのでベポの隣に行かせてもらうとクローウィも隣に座る。

「……魔女屋。なぜユースタス屋と話してた」

「あっちが私に絡んできただけよお……後、リーシャちゃんをちんちくりんって言ったから彼にお仕置きしたのお」

事の経緯を説明するとローは後ろを向いてキッドに中指を立てた。
どうしたのだろう。
別にそれをする程まで何かをされた訳じゃないのに。
やはり海賊は野蛮だと改めて思った。



オークションが始まるとクローウィの言っていた通り、人が商品として出され、周りの人間達に落札されていった。
吐き気が込み上げてくる。
こんなものをリーシャに見せて何を考えているのだろう。
クローウィもシャチ達も特に何とも思ってない顔で前を向いている。
自分は俯く事しか出来なくて耳を塞ぐ事しか出来ない。
でも、音は手をすり抜けて聞こえる。
ぼやぼやとしてしか聞こえないが競り落とされている事を理解している脳は音の補足や想像を掻き立てた。
目も耳も遮断出来たら良いのに。
心底そう思った。
目を開けると景色が揺れていた。
目の錯覚かと思ったのだが、三半規管が惑わされる事なく物や音を揺らしている。
どういうことなのだろう。
周りの人も揺れていて、隣にいるクローウィはそれに気付いた様子はない。
自分の見る風景だけが可笑しいのだと気付くまで数分をようした。
先ほどまで耳を塞いでも鮮明だった音がフニャフニャと聞こえる。
上手く聞き取れない。
しかし、何かが起こっているならば治まるのを待つしかないことを自分はよく知っている。
何も出来ないし力がないから船に乗せられている身だ。
もしかしたら、とそこで思いついてまた目を閉じて念じてみた。

『――となりまして!』

今度ははっきりと声も姿も鮮明だ。
一体さっきのはなんだったのだろうと考えていると扉の開く音がして人に乗った人が入ってきた。
ベポが耳元であれが天竜人だ、と言う。
人を人として扱っていない態度に心臓が凍り付く。
この世界はやはり『可笑しい』のだろう。
夢の中だから可笑しくても何ら不思議はないのに自分の夢に絶望する。

「帰りたい」

ポツンと呟く。
誰にも聞こえないだろうし、聞こえても世迷い言と取られる。
こんな世界は望んでない。

「五億ベリーィ〜!!!」

自分の世界なのに残酷なのはリーシャの内なるものの中に残酷な人格があるということを暗示しているのだろうか。

(誰でもいいから壊してよ、この世界を……!)

頭痛がするのを感じて叫んだ。

――ドカアアン!

この小さな地獄の壊れる音がした。


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