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「#エロ」のBL小説を読む
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顔すら知らない人間に捕まり奴隷となって幾日(いくにち)が経っただろうか。
日常を壊され非常識な扱いを何度受けたか、とゆらゆらと窓から見える地平線を眺めながら考える。

「おい」

「っ……は、はい」

「食べておけと言った筈だが?」

顎で示すのは容器に残った食事。
船に乗ってからはガクッと食べる量が減った。
起因は当然ながら船へ連れてこられ、奴隷同然の扱いをされているからに他ならない。
黙っていれば、彼はリーシャを通り過ぎて容器が入ったトレーを持ち上げると、なんの前触れもなく口に入れた。
男がではなく、女の。
予期していたが対処仕切れない突然の暴挙(ぼうきょ)にもがけばトラファルガー・ローはひやりとした目を向けた。
咳込んだ喉に彼は無言で水を差し出して、わざとらしく肩を竦める。

「もう子供じゃねェんだ。不始末をしたんだからペットはペットらしく責任取れよ」

と、足を掲げ、リーシャの目の前に持ってくる。
足を舐めろと催促され、言われるがままに靴を脱がし素足を晒す。
傷一つない素肌に唇を当て舌を出せば、彼はつま先で頬を緩やかに撫でる。
ぞくりとした感覚に震えながら順に舐めていく。

――ぴちゃっ

屈辱という感情は既にない。
これが今の自分に出来る生きる術なのだから。
最後に指先を舐め終えると彼は満足した顔でニヤリと笑う。

「よく出来ました」

そう告げると褒美だ、と心臓が手から出現した。
ドクン、と一定のリズムを奏でる音は紛れも無いリーシャの一部。
この船から逃げられないのは正にこれだ。
どういう原理かは知らないが取られたのに死ななかった。
それは更にどん底へと突き落とす一つに過ぎない。
心臓を彼は己の口元へ寄せると何の躊躇もなく口付けて舐めた。

「ん……く」

「くく、感じたか?」

「感じて、ない」

倒れそうなビリビリとした歯痒い感覚に首を横に振る。
直に触れられている心臓に、舌のねっとりとした熱さを身体が嫌でも感じた。
認めたくなくて目尻から涙が滲む。
追い打ちをかけるように触れられ、声が出た。
それを見て笑う男に、抗う為に身をよじり、快感と言い表せない妙な感覚から逃れようと身体を腕で強く抱きしめる。
それでも無くならないのは触れられている部位が身体の中に無いからだろう。
やめて、と蚊の鳴く程の声で訴えれば更に行為はエスカレートしていく。

「好きだなんだろ、気持ち良いのは」

そんな事を一言でも言った事何て無いと口にしたいが、駆け抜ける熱くて逃れようのない舌に翻弄され、完全に力が抜けて床に伏していた。
せめてもの反抗に、彼から心臓を取り戻そうと這ってズボンへと手を 伸ばす。
息絶え絶えに返して、ともう片方を心臓がある場所へと動かせば視界に写るローの口元がくつりと歪む。

「心臓を握られててもそんな目を向けられると………凄くそそられるだけだ」

「ひああ!!」

べろりと舌で心臓の一角を大胆にも目の前で見せ付けるように舐められ、嘗てない程の刺激を感じ、胸を抑えリーシャはずるりと倒れる。
やがて余韻が徐々に収まってくると男は素足のまま、つま先で腰を撫で付けてきた。

「まるで情事みてェ」

「っ、っ……」

目を細めて笑う姿はまるで狩りを終えた後の肉食動物のよう。
生理的な涙が出てきて視界が揺らぐ。
唯一感じるのは心臓を握られている手の平の感触。
いつの間にか靴を履いていたローが立ち上がる音がして、頭上が影を作り暗くなる。
耳元で「次はちゃんと食えよ」と囁かれ頑(かたく)なに首を横に向ければ、彼はくつくつと笑い、髪をグッと軽く引っ張ってきた。
それでも痛いことには変わらない。
苦痛に身体が力むとローは手を離し髪を解放した。
次は何をしてくるんだと身構え、目を強く閉じる。
すると胸より下に圧力を感じ驚いて瞠目。
馬乗りにされている事実に口が開けないでいると、ローはの顎に指先をかけて顔を近付けた。

「言うこと聞かねェペットには躾しなきゃなァ?」

「や、いや……!」

「嫌がる程相手を煽(あお)るって教わらなかったか」

愉しそうに話す男はゆるりとリーシャの鎖骨に顔を寄せ、一つ赤い華を残す。

「いっ……!」

ちくっとした痛みの理由と意味を知っていたから羞恥心で顔が赤くなってしまう事が悔しい。
プライドは無いが恥ずかしさは健在だ。
静寂が漂う中での『躾』は耳を刺激する。
嫌でもちゅ、と聞こえる鎖骨に唇の感触とそこから発生するじわじ わとした熱。
褒美である筈の行為は正に地獄のようだ。




その後も数分間同じ事が繰り返され、やっと解放されたのはお風呂に入る時間になったからだった。
誰か助けて、とシャワーに掻き消された小さな声は当然誰かに聞こえる事はないだろう。


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