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- ナノ -

船員達開催の慰め会もとい、宴が始まった。
お酒を少し飲んでからチマチマと飲む。
それがリーシャの飲み方だ。
クローウィはそこそこ強いが飲み比べでは酔っている様子だった。
雰囲気にも酔ったのかもしれない。
クローウィが酔って二日酔いを起こすのも心配だったので水を汲みに行こうと席を立つ。
席と言っても甲板なので樽の上だ。
扉を開けて宴の席を後にすると船内がとても静かだと廊下がギシギシと鳴る。

「暗い」

蝋燭(ろうそく)が付いているがそれでも暗い事に代わりはない。
薄暗い廊下を渡るとキッチンのある食堂が見えて入る。
誰も居なくてホッと息を吐く。
もしかしたら、自分はあの宴の場に居たくなかったのかもしれないと己の気持ちを初めて知る。
ローが居ないのに、と思う前に船員と話す事もろくに出来ない自分が惨めで寂しい人間だと思ってしまっている。
あんな事をされて、彼等も知らぬフリをしていたから同罪だとずっとローと同じ輪に填(は)めて恨んでいた。
クローウィはリーシャとは違う。
全く違う出会いで、全く違う扱いだ。
ローに心臓を痛めつけられたのは一回だけで、後はすんなり返された。
何故自分はローに何もしていないのに、帽子を届けただけで船を閉じこめられたのだろう。
閉じ込められなくてはいけなかったのだろう。
何がいけなかったのだろう、と思考の渦に飲まれそうになる。

(駄目、私のせいじゃないのに)

ローが全部悪いのに。
何故死のうとしてはいけないの。
弱い者は死に方を選べない?
そんなの知ったことか。
別に自分は無法者でもない。
ローに聞きたい事があるのに、沢山。
ドロドロとした黒い感情に目が濁る。
前と同様に包丁が目に入ってしまう。
前は失敗したが、今回は……。
そっと包丁を手に掴む。
意外と大きくてコックよりも手が小さいから握りにくい。

――ガチャ

前触れもなく扉が開いて包丁をパッと離す。
またローが居た。
もしかして防犯カメラでも付いているのだろうか。
ぼんやりと思って虚ろな気分のまま俯くとローが足音を伴ってやってきた。
目の前に立つと徐に手を掴んできた。
今日はもう振り払う気力がない。

「おれはお前に生きて欲しい」

そんな事を言うから、涙が出た。
感動とか、嬉しさからくるものではない。
何故それを望むのか、望むのを止めてくれ、そんな気持ちが浮かんでは溢れる。
望む相手をとことん間違えていると言いたくなった。
彼は包帯を巻いた所に口元を近付けてそこへ口付ける。
音はしなかったけれど彼の吐息でそこだけが熱を持つ。
数秒、数分、どれくらいの時間かは分からないが暫くその状態だった。
振り払う力も気力も脳も回らない。

「生きてくれ、おれと」

上目遣いで真っ直ぐ見てくるローに涙を零す事しか出来ない。

「この世界はお前にとっては現実に思えねェかもしれない。だが、少なくともおれにとっては現実だ。お前に生きて欲しい、この世界で」

「私は、元居た世界に返りたい」

ずっと思い続けていた事を口にした。

「お前の世界を忘れろとは言わねェ。この世界に居る理由が無いならおれが作る」

「私の事が嫌いなんでしょ?」

だから、あんな事をしたのだ。
恨まなければ気が可笑しくなりそう。

「現実を見てねェお前は嫌いだ。だが、同時に愛してもいる」

現実って何だ。
なにが現実だろう。

「何、それ……簡単にあんたを好きになれる訳ないでしょ……馬鹿じゃないの」

「だが、そろそろおれに落ちても良いだろ」

なんて男だろう、勝手に人の好意の予定を決めている。

「大体、私のどこがそんなに……全く理解出来ない」

今まで対面してきた敵の男達やクローウィに敏感な船員達の反応を見る限り自分は平凡だ。
心臓を弄(もてあそ)びたい程何か取り柄がある訳でもない。
もしかしてリーシャはローのような狂気の男を寄せてしまう何かを持っているのだろうか。

「なァ、おれを好きになれよ」

ブランデーに浸っているような感覚にクラクラする。
ローの色気にでも当てられたのだろうか。

「クローウィさんに水、持ってかないと、だから」

もう行かなければと言うとローは掴んでいた手を離して肩を掴みキッチンの台にリーシャを押し倒した。

「ちょ」

ちょっと何すんの、と言おうとしたが接吻を受けた。
これは前と同じ状況だ。
まだキスしかされていない。
だが、それでも恥ずかしい事に変わりはないのだ。
ローはそのまま角度を変えては合わせて、ソロソロと太股を触る。

「や、止めて!」

ローの手を止めると熱い眼差しがリーシャを射抜く。

「こ、こんな事していいって言ってない!」

「……一つ言い忘れていた事がある」

ローは返事になっていない事を述べていく。

「おれは自分が思っているよりも不器用らしい」

「は?不器用?」

まるで誰かに言われたかのような物言いに目をしばたかせる。

「今言える事は一つだ。お前が欲しい」

前から監禁やら心臓やらを取ってリーシャを無理矢理此処に縛り付けているではないか。
そんな事を思い出して眉をしかめる。

「今更、仲良くしましょうなんて出来るわけないっ」

「仲良く?違うな……別にお前には何もさせねェ。おれが勝手にするだけだ」

「?……意味分かんない……それって今までと変わらないでしょっ」

馬鹿にされているとしか思えない。

「肌を合わせたいのもキスしてェと思うのも自然の摂理だろ」

安直ではないが、顔を赤くさせるには十分な言葉だった。


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