島に着いた。
今の結論を言おう、浚(さら)われた。
クローウィと町に出て直ぐに浚われたのだ。
どうやらクローウィの賞金が目当てだったらしい。
確かにローの二億とクローウィの二千万の差を実感するとクローウィの方がお手軽で片手間でいけると思えてしまうのだろう。
実際、ハートの海賊団がこの島にやってきている事を知っているようだったが、二億は無理だと感じてクローウィを標的にしたようだ。
でも、会話の中からクローウィとリーシャがハートの海賊団に居る事は知らない模様。
おまけにクローウィが手配書よりも美人だと知るや否(いな)や首を差し出すのは止めて男として女を襲う事を言い出した。
賞金狩りにも質が悪いのも居るんだな、と思いながらロープで縛られているクローウィを見ると彼女は無表情のままうっそりと困ったように口元をヘの字にしている。
緊張しているのかな、と考えていると賞金狩り達は次はリーシャをどうするかと相談し始めた。
「全く欲情しねェしなァ」
「俺もだっつの」
「つーか、こいつ賞金首じゃないよな?」
クローウィと並べられてしまえばボンキュッボンではないと思われるのは当たり前だ。
前の時も同じ様な輩に言われたし、別に襲われたくないので構わない。
面と向かって言われたくないのも事実であるが。
「どうする?」
「……逃がすか」
「逃がすのか?折角縛ったのによォ」
一般人を捕まえておいて言う台詞ではない。
男達があーだこーだと言い合っている時、彼等の身体が二つに割れた。
裂けたのではない、まるで細長いお菓子をパキンと割った様に割れたのだ。
恐怖に叫んだのだが、血が出ていなくて断面が見えない事に辛うじて気が付く。
「魔女屋、何故捕まってる」
「だってー、今日はまだコンディションが整ってないんですものお」
「お前だけじゃない。そいつも居る事を忘れるな」
ローが男達を踏み越えてやってくる。
「わあああ、何だこりゃァ!?」
ワアワアと騒がしい男達を無視しながらローは二人のロープを解く。
キツく縛られていたからか痕が残ってる。
赤くなった腕をさするとローが眉根を寄せて腕を見つめた。
「何か」
その視線が嫌で聞くとローは何でもない、と言う。
いや、絶対に何か言いたいだろうと思わずにはいられない。
「魔女屋、次はちゃんとしろ」
「はあい」
クローウィは返事をしてからリーシャの手を繋ぐ。
彼女の腕も身体も縛られていた箇所が赤くなっている。
クローウィも痛かったのだと思った。
船に一旦戻ると船員達が災難だったな、と迎え入れてきた。
クローウィが賞金首だったからなだけである。
リーシャ一人ならば賞金狩りに狙われる事もなかった筈だ。
しかし、クローウィから不本意で賞金首になった経緯を聞いたから言えなかった。
災難な目にあった自分達を祝して慰め会を開くとシャチが言うので酒が飲める名目を得ただけか、と辟易。
「ふふふ〜、楽しいわねえ」
目を細めて呟く彼女に答えなかった。
楽しくないし、嬉しくないから。
「魔女屋、来い」
クローウィをローが呼ぶ。
それに彼女は行ってくるわねえ、と言う。
「リーシャ」
見送っているとベポが近付いてきて手を出した。
「腕出して、包帯巻くから」
包帯を何故か持っているベポに腕を出すもぐるぐると巻かれていく。
他の人がしないのは恐らく近寄って欲しくないと言う気持ちを見透かしているからなのだろう。
自他共に認めている冷戦状態だ。
巻き終わったベポは一仕事終えた顔で額を触る。
「出来たっ」
興奮した様子で告げたベポに包帯の巻かれた腕を見るもお世辞にも上手いとは言えないが、腕が治るように巻いてくれたのだからと礼を言う。
「ありがとう……」
「おう」
ニコッと笑うベポに笑いかける事が出来なかった。
いつから自分は笑い方を忘れてしまったのだろう。
前はカメラを向けられるだけでも自然と笑える子だった。
愛想笑いを覚える頃になっても笑い方は知っていた筈。
出来ていた事が出来なくなっていたのを知ると怖く思った、自分が。
「ベポ……さん」
「何だ?」
呼び方が分からなくて中途半端な呼び方になったが問い返してくれた熊。
「私、いつまでこの船に乗ってなきゃいけないのかな」
「え……それは」
ベポは答えが見つからないらしく声を詰まらせる。
何と愚問な質問をしたのだろうと馬鹿馬鹿しくなった。
質問した内容を取り消すように頼むとベポはたどたどしく頷く。
「リーシャちゃーん」
ローからの呼び出しから帰還したクローウィが姿を現した。
腕に包帯が巻かれたいるのを見て治療してもらったのだと納得。
クローウィも自分と同じく赤くなっていたから少し気掛かりだった。
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