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- ナノ -

今日も解せない感情のまま日記を書く。
ムカムカした気持ちで書き殴る。
今日はクローウィさんとお風呂で女子会をした、まる。
よし、と本を閉じてローの部屋の前に行く。
そして感情の赴くままにノートを叩きつける。
バシン、と音がして地に押しつけられたノートを見ないまま自室に戻った。
部屋を見たらネグリジェのクローウィが居て女なのに居たたまれなくなったのは自分だけの秘密である。
これが男のロマンならばリーシャはとても貴重な体験をしているのだろう。
こういう風に考えられるのも偏(ひとえ)にクローウィのお陰だ。
彼女と話すと楽しいと感じるようになった。
お風呂もご飯も。
負の感情に押しつぶされかけていたのに、今では肩身が軽い。
すやすやと既に夢に旅立ったクローウィの隣に寝そべって目を閉じた。



***



LAW-side


部屋に帰ってヨレヨレな今にも力尽きそうな鶴をいつも使う机の上に置く。
その暖かさに笑みが洩れる。
最近彼女は心に余裕が出てきたのか感情が人間らしくなってきた。
前はただ恨む事しか知らぬ幽霊のようたったので進歩と言えよう。
読みかけの医学書を開いて二時間程すると廊下から気配がしてリーシャと気付く。
直ぐ傍に居るのに出て行かないのはまた警戒されて逃げられるのも面倒だから。
前から逃げてるし避けられているだろう、と言われるとそうだが。
それとはまた違う。
この瞬間、ローがこの部屋に居る事を意識して緊張に身体が強ばるのを知っている。
それを想像して笑うのも好意を持つのもローの自由だ。
どんな感情であれ、抱いているのがトラファルガー・ローならばどちらでも構わない。
彼女の心を占められるのならばそれだけで十分。
仲間はこの感情を歪んでいると言うだろう。
その歪みを自覚しているローは他の評価などどうでもいい。
しかし、彼女の危機に面した事ならば聞き入れる。
例えばメンタルが最高潮に下がったときも優しく接した。
アメとムチ。
しかし、本音は甘やかして愛でたい。
それが出来ないのは彼女の夢という現実が邪魔をする。
初めて会ったとき、ローにあんな風に笑いかける女など居たのだと衝撃を受けた。
この機会を逃せば二度と会えない事は明白。
攫ってしまおう。
直感だった。

「もう行ったか……」

交換ノートを初めて少し。
気配が完全に遠のいたのを感じてノートを取りに行く。
まだ数回しかやり取りしていないのにノートがボロボロなのは毎回彼女が手酷く扉にぶつけているからだろう。
今日もまた一段とボロくなったのを感じながら部屋に持って行き机に乗せる。
中を開くと文字は一行だけだが、前回よりは二文字多い。
それだけでも良しとなる。

「女子会?」

初めて聞く単語に眉を寄せた。
これは七武海的な感じの意味だろうか。
ボア・ハンコックを思い出す。
もしかしたらクローウィが何か言ったのかもしれない。
ハンコックは男と女の憧れる程の美女と言われている。
ハンコックごっこ、七武海ごっこらへんか、と思考を巡らせて想像した。
しかし、どうもクローウィのハンコックぽさや七武海ぽさの想像が上手くいかない。

「……こりゃ難題だな」

顎に手を当てて首を捻るとノートを書き出した。



***



「は?」

「どうしたの、リーシャちゃん」

クローウィが訪ねてきたので一応話してみる。

「女子会をしたのに、あの人何故か七武海?とかいう単語を出してきてるんです。何ですか七武海って」

返ってきたノートには七武海やハンコックという初めて聞く言葉が並べられていた。
チンプンカンプンだ。
唸って告げるとクローウィは目ををぱちくりとさせて首を傾げる。

「ああ、そういえば七武海の事知らないのねえ……七武海ってねえ海軍に所属している海軍側の海賊達なのお」

「海賊が海軍に?」

「ほらー、炎には炎で制すって言うでしょお?海賊には海賊で制しているの〜。しかも、その海賊達はみーんなとっても強くて私も絶対に会いたくないくらいの怖あい人達なのよお」

やはりクローウィが言うと怖さの度合いが分からなくなる。
ハンコックと言うのはその七武海の一人らしく紅一点だと言う。
絶世の美女だとかでもうパーフェクトらしい。

「それにしてハンコックごっこはー面白そうねえ。うふふ〜」

クローウィのまったりとした声にへ、と目が点になった。




クローウィがハンコックになるわ、と言い出して三十分後、甲板には魔女の下僕となった船員達で溢れていた。
嬉々として鼻血を出している者、鼻の下をだらしなく伸ばしている者。
羨ましそうにクローウィと船員を眺める者。
そんな男達が多数。
その光景をただ見ているだけのリーシャは飽きてきていた。
クローウィには踏まれたり命令されたりとしているのに男達は嫌な顔一つせずに従っている。
何かやって、という無茶ぶりもお得意の体術でこなしているのだから凄い。
ローの姿は見えないし、ベポもぼんやりと日向ぼっこをしているので、のどかな日だ。
クローウィのハンコックごっこが終わったのか男達が息を切らせて地べたに伸びているのが見えて、女帝は涼しい顔をしてジュースを飲みに行こう、とこっちへやってきた。

「皆の分も持ってくるからねえ〜」

クローウィはバテる船員達にそう述べて「行きましょう」と手を引く。
それに付いていくとコックが居たのでクローウィが人数分のジュースを頼む。
リーシャも運ぶのかな、と思っていると彼女は心配いらないわよお、と考えていた事を見透かしてステッキを振った。
何処にあったのやら、と見ているとコックの持ってきたジュースのトレーを浮かす。
マジックの類を見ているようで不思議だ。
彼女に付いていきながら甲板に出ると船員達が待ってました、と言わんばかりに跳び起きる。
あまり近寄りたくないのでクローウィから離れると船員達がジュースに群がった。
それから一時間後、見張りが海賊の船と旗が見えると言うので全員が戦闘準備に入る。
しかし、それから十分後には敵の方から白旗が見えたと聞いて皆は残念がっていた。
相手が白旗を振るなんて、この海賊団はよっぽど悪い船なのだな、と思う。
それに、戦闘をしなくて済む方が合理的で平和的なので自分は内心良かったと安堵。
クローウィも戦わないでいいのねえ、と嬉しいのか残念そうなのか分からなかったが、兎に角荒事は避けたい。
万が一、白旗がフェイクだと巻き込まれるので相手の船が完全に見えなくなる間だけ彼女と二人で自室に隠(こも)った。
こんな感じで過ごすのはとても窮屈だ。
次の島は後四日掛かるとベポが言っていた。


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