すやすやと眠ってしまっていたのは同姓だからと言わせて欲しい。
最近断ってもクローウィが静かに気付かない間に入っている事がある。
ほぼ毎日のそれに最早諦めかけているのは別に考えるのが面倒だとかではない。
彼女のお陰かは分からないが最近良く眠れるようになった。
「私の配合した微香(びこう)が効いたのねえ」
「え?微香?」
「良く眠れる成分の薬草を混ぜて焚いているのお。香りも無臭だしい」
いつの間に、と驚いた。
「だってえ、私から見てもお肌の感じもお、目も、何だか疲れているように感じたからあ〜」
クローウィはサラッと言う。
それに原因であるローの居る場所を睨み付ける。
「何だ?」
視線に気付かれてこちらに向いたローだが、そっぽを向いて無視をした。
なのに、クローウィがのほほんと声を出す。
「船長さんがあ、無理させるからあ〜。このお、女の敵いい」
クローウィは命知らずなのか天然なのか。
難なくそんな事を彼に言ってしまう事が恐ろしくも羨ましい。
「は?魔女屋、バラされたいのか」
「そんな事を好き好んで言うわけないわよお、ねえ?」
(私に話しを振らないで……)
ねえ、と聞かれても如何とも答えられない。
黙ってスルーをしているとローが読んでいた本を閉じて甲板から去る。
「うふふう、追い返しちゃった〜」
勝ち気な声でクローウィは笑う。
「クローウィさん。心臓を返されたのに何処かへ行こうと思わないんですか?」
前々から聞きたかった。
クローウィにはそれを実現して生きていける力がある。
「そうねー。私もそろそろ宿り木が欲しくなっちゃったのよねえ」
宿り木とは定住出来るという事だろうか。
「ほら、私ってえ、こんな体つきで、男が放っておいてくれない顔してるらしいのよー」
「ま、まあ、そうですね」
どうやら自身が美女という自覚はあるようだ。
それにしても嫌味にも聞こえないこの口調はある意味凄い。
いや、一部の人には癪に触るかもしれないが。
「前にねえ、まだ私がただの人でえ、魔女って呼ばれてなかった時にい、襲われて海軍へ助けを求めに言ったのお」
「え」
襲われたとか全く穏やかに言う事じゃない。
「でもお、海軍の一番地位の高い馬鹿な男がねえ、部屋に連れ込んで私を襲おうとしたのお〜。全く傍迷惑な二次被害よねえ?」
「嘘……被害者を?海軍が……」
クローウィのショッキングな過去話しはまだ続きがあった。
「気持ち悪くてえ、消えろって頭が真っ白になったらあ、その馬鹿男があ焦げてたのお」
クローウィさんの説明はそれから十分以上続いて、その原因はあのたるそうな口調のせいなのだが、要約するとこうだ。
彼女は男に襲われそうになって駆け込んだ海軍の駐屯所でそこに居た海兵に部屋へ連れ込まれて襲われかけた。
そして、いざピンチだと言う時に消えろとそれが頭を占めると男の身体に電撃が走った光景が写ったらしい。
そのせいで海兵の男が逆恨みも良いところの、クローウィを悪質な悪女として手配書を申請し、彼女は不可抗力かつ望まない賞金首への仲間入りを果たしてしまった。
という事らしい。
要約すると至極簡単なのに、クローウィの説明が長くて少し眠くなりかけた。
ウトウトとなりながらクローウィと居ると唐突に甲板の扉が開く。
コックがそこに居てデザートをトレーに乗せていた。
「はいよ」
「私達、何も頼んでませんけど……」
頼んだ記憶はないのでそう告げるとコックは笑って俺からのサービスだと事も無げに言う。
何という紳士だろうと思いながらそれを貰う。
「やっぱりこの船は当たりねえー」
「私にとっては大外れです」
「ふふふう、そうみたいねえ」
そう答えるクローウィは人が居ない所をスッと見てからデザートを一口食べた。
島に着いたとベポが行っていたので自分は降りても平気なのだろうかと思案した。
クローウィがただの無人島なので心配する必要なないと言うから彼女と降りる。
クローウィと共に生活し始めてからあまりローが話しかけなくなったので安堵していた。
「見張りと捜索で分かれる」
ローの声で各自が動く。
こういう時、己はどうすればいいのか迷う時がある。
航海術がある訳でもないし、戦闘も出来ない。
かと言ってコックの手伝いをしている訳でもないからただ船に乗っているだけだ。
不本意に乗っているのでやる気が全く起こらない。
クローウィもキッチンを手伝っていないようなので少し肩の荷が降りた気もする。
「リーシャちゃあん、降りましょ〜」
「はい。今行きます」
クローウィに返事をして鞄を掛けると甲板へ出る。
外へ出てみると彼女がほうきに跨がっていたので瞠目。
「一緒に降りましょー。ほおら、乗ってえ?」
言われたが、いかせん初めての経験なのでポンっと乗れる訳がない。
渋っているとクローウィがサッと動いてリーシャの身体を浮遊させる。
「わ」
驚いて反射的に何かを掴む仕草をしてしまう。
浮遊感にドキドキしているとほうきに乗せられて「行くわよお」と合図が出て外へ飛び出す。
ジェットコースターの一番上に行って落ち掛けるあの特有のむず痒さを感じる。
ゾッと身体に何かが駆け抜けた。
怖くてクローウィの身体に反射的に抱きつくと耳に「これが所謂俺得ってやつねえ〜」と聞こえたがそれに突っ込む気力もない。
ドキドキと嫌な意味での心臓の音に緊張で手が汗ばむ。
「はい、着いたわあ。もう目を開けてもいわよお」
恐る恐る目を開けると視線が地上を写す。
あっという間だったと感じながらほうきから降りるとクローウィは徐に何の許可もなく手を繋いできた。
ほうきはいつの間にか消えていて何処へ行ったのだろうと疑問だ。
「あの、クローウィさん?」
「うふふ〜。魔女はあ、寂しがり屋で恐がり屋なのおー」
つまり目の前の樹海が怖いと。
「そうですか……なら、仕方ありませんね」
クローウィが本当に怖がっているのかは別として、もう諦める事にした。
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