「リーシャちゃあん。一緒に寝ましょ〜」
「クローウィさん。貴女幾つでしたか?」
「んもお、魔女の年齢は秘密なのお……でも、きっと私の方が年上かもねえ?」
「一人で寝られますよね?」
「だあかあらあ〜、魔女の私は、寂しがり屋なのお。だから、人肌が好きなのお」
「クローウィさん!人肌なら俺が代わりに!」
「あ、ずりィぞ!」
「そんなら俺も立候補する!」
クローウィが仲間になって三日後くらいに共に寝ようと言ってきた。
そのせいで今、食堂は男の声で溢れている。
煩くて鬱陶しくて腹が立ってきたので椅子から立ち上がって食べ終えたご飯のトレーを持つ。
「あ、待ってえ。私も行くわ〜。そんな所も可愛いんだからあ」
クローウィに好かれる要素が不明だ。
「あ、クローウィさああん!」
「待ってくださ、人肌……!」
もっと騒がしくなる部屋に出ようとキッチンのコックへトレーを渡して外へ出ようと扉へ向かう。
「おい、煩ェ」
ローの怒気が発されて声が止む。
「おれの言ったことをもう忘れたか?手を出すなと最初に言った筈だ。そんなに言ったことを守れない程添い寝したきゃ、船から降りてから他の女にやってもらえ」
ローの一声でクルー達は焦った声を出す。
「や、やだなー船長!じょ、冗談っすよ!な、なァお前等!?」
その声を筆頭にそれぞれが肯定してローの怒りを静めさせようとする。
この船の人達はローを敬愛しているから当然の反応だろう。
ともあれ煩く無くなったのは良かった。
クローウィがベッタリと引っ付く距離でぽってりとした唇を嬉しそうに上げている。
それを見て溜息を内心吐きながらお風呂へ向かった。
***
クローウィ side
寝る前にお風呂へ向かうと言う自分より身長が小さめのリーシャに離れず付いていくと脱衣場への前でこちらを見た。
「あの、どうしてお風呂に付いてきて……」
「私も入るからよおー」
「え、ええ?でも、私達、まだあまり親しくないですよね?」
困ったという顔を浮かべる彼女の反応が可愛くて堪らない。
「さっきも言ったけど〜。魔女は寂しがり屋なのお。それにい、私達同姓だしー。リーシャちゃんと、仲良くなりたいなあ〜お姉さん」
「お姉さん……はぁ、でも、あの」
「んー?」
モジモジと恥ずかしそうに頬を染める女に今すぐかじり付きたくなる。
愛でたいと本能が疼く。
こんなに弱い存在がこの世にあったなんて、なんと自分は良い運命にあるのだろう。
「タオルは、絶対にして下さいねっ。裸とか、無理なので……」
無論裸で入るつもりだったのだが、見るのは駄目らしい。
「ん〜、分かったあ。私、いい子にするわ〜」
一緒に入っても良いという言葉として受け取ったクローウィはあまり表情の変わらないと自負している口元が緩むのを感じた。
『私を縛っても何も出ないわよお?』
ローと出会って襲撃をした日、彼はとても強い相手だと分かっていたが雇い主が追い払えというから仕方なく無茶な事をしてまでやった。
だというのにあっさりやられたクローウィはもうこのまま死んでもいいなあ、としか思えない。
雇い主も直ぐに逃げたし、自分ももしかしたら逃がしてもらえるかもと期待した時に告げられた言葉はとても自身をがっかりさせるには十分。
男なんてどの世も一緒だと幻滅するのは最早数え切れない。
だが、乗船して二日目の夜に呼び出されて心臓が簡単に戻ってきた。
その事に首を傾げているとローと言う世間ではルーキーと名高い男は神妙な顔をして意外な事を言う。
『お前がする事は戦闘でも男の世話でもない』
『あら?そんな事言ってもいいのお?』
てっきりそういう下世話な意味で船に乗せられたのか、戦力として乗せられたのか、そのどちらかだとばかり思っていたのでついそう聞いてしまった。
それに彼は首を振る。
『この船に一人の女が居る事は知ってるな?』
『確かあ、小さな子よねえ』
『あいつは別にガキじゃない。大人だ。おい、お前子供だと思って色目使ってたのか?』
『可愛ければどっちでもいいわあ。そう、あの子、大人なのお……』
『だからと言ってもあいつは戦力外だ。つまり何の力も持たない女』
ローは何故その女性を海賊船に乗せているのだろう。
しかも、この人間とあの子を見ている限り関係は良好ではなさそうだ。
船から、ローから離れたがっている。
クローウィにはそう見えた。
『リーシャはこの世界を夢だと信じて疑ってねェ』
『夢?』
『死んだら元居た場所に帰れると思ってる。だからお前が必要だ。カウンセラーと護衛を兼ねてあいつの傍に居ろ。出来うる限りな。もし死にそうになったら何が何でも止めろ』
『えー?死なせてあげればいいじゃなあい?そんなの個人の自由じゃな〜い』
『あ?……それを下すのはお前じゃない。兎に角今言った通りにしろ。それにお前もあいつの事は気に入ってるんだろ』
見透かしたように言うローに頷く。
『あの子、どんな子なのお?』
『ワンピースの事も、この世界の知識も地理も何も知らない。無知な奴だ』
『…………』
『おい、どうした』
思考の海へ行きかけたが、問い掛けられてハッとなる。
『いいえー。分かったわ〜。リーシャちゃんをたあっくさん構うわあ』
『程々にしとけよ』
嫉妬するから?という言葉は飲み込んでおく。
また心臓を取られて握られるのは嫌だから。
「クローウィさん?」
「……なあに?」
「私もう入りますね」
いつの間にかタオルを巻いた状態で浴室の扉を開けたリーシャが伺うように見ていた。
それに答えると彼女は中へ入る。
「男って、不器用ねえ」
男の心、女知らずとはこの事だとクローウィは服を床に脱ぎ落とした。
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