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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -

叫び尽くした後、屋敷を飛び出した。
誰かの制止する声も無視をして無我夢中で飛び出すとひたすら走る。
逃げられないのは分かっているけれど、このまま何処かへ行ってしまいたい。
断崖まで来ると肺に酸素を送り込もうと息が激しく吐き出され吸い込まれる。
ずっとそうしていると海の音が聞こえる事に気付く。
嗚呼、もう終わりにしよう。
そう本能が告げるのと足が踏み出されるのは同時だった。

「リーシャ!」

「!」

斜めに傾いた状態でぶらりとなる。
その原因は腕を掴まれているからだ。
その事を理解すると胸がカッと熱くなる。

「放して!あんたが自由にしてくれないから私は!」

また叫ぶと喉が痛く感じた。
使い過ぎだと言われているようで笑えない。
目の前の男に触れられている事も、こうして崖から飛び降りる事を阻止されている事も、何もかもがムカつく。

「例え此処から飛び降りたとしても、夢から覚める事なんてない。ただ死ぬだけだ」

「何が死ぬだけ!?あんたにそんな事分かる訳無いでしょ!」

「っ、好い加減に現実を見ろ」

ローはキツくそう告げるととても強い力でリーシャの腕に握る。
痛みで呻くとローが陸の方に引き上げた。

「あんたに、私の命を扱う権利なんてない!」

「そうだな。だが、弱ェ奴は死に方も選べねェ。そういう世界だ」

勝手な理屈を述べるローを睨む。
男はその視線を受けると薄く笑う。

「恨みたきゃ恨め。お前を手放さない」

「こんのおお!」

悔しくて涙を出しながら掴みかかる。 
あっさりとその攻撃を受けたローは無表情。

「おれに飼い殺されたくないのなら。お前は今のままで居続けろ」

意味が分からない。
こいつは狂ってる。
改めて感じたその狂い具合に歯をギリッと噛む。

「そんな目をしても……おれをそそらせるだけだ」

そう聞こえてローはリーシャの首に甘く噛み付いた。








クローウィを仲間に加える事にしたと宣言するローの声を一番最後の列で聞いていた。
船員達はそれぞれが実際に襲われて現場にいたので経緯も彼女の能力も見ている。
反対する声が出てきても可笑しくはないが、リーシャを監禁していても何も言わなかった男達だ、考えずとも迎えるだろうと言うことは分かっていた。
案の定、あのグラマスな体型で美女だから鼻の下を伸ばしている。
ふやけた顔をする船員に手出しするなよ、と釘を指す声も聞こえているが、話しかけて交友を計るのだろうなと思った。
彼女の胸に心臓がちゃんとある事を思い出せば歯噛みしたくなる。
心臓を取ったのに直ぐに返してしまったのだ。
その場面を見た訳ではないが、何だか自分との扱いの差に納得いかない。
思考をグルグルと回していると前に人影が出来たので顔を上げる。

「やっほー。改めて自己紹介ねえ。私、クローウィ。クローウィちゃんでもクローウィさんでもクロちゃんでも好きに呼んで〜。貴女はあ、リーシャちゃんよね?」

たるーっとだらーんとした口調で聞いてくるクローウィに頷く。

「はい。リーシャです。此処の船員ではありません」

そう告げるとクローウィの目がローの方へ向く。
彼女の茶色で猫っ毛の腰まである髪が揺れる。

「あら?可笑しいわね〜。ちょっとお、せんちょーさあん。この子は一体何なのお?」

クローウィの問いにローがこちらへやってくる視界に入れたくなくて目を逸らす。
目には靴が入る。

「別に何でも良いだろ。どうでもいい詮索を一々しなきゃ気がすまねェか」

「えー?別にい?でもお、それならあ。私も、この子と同じ立ち位置が良いわ〜」

「え?」

何を言っているのかよく分からなくて首を傾げる。

「はァ。本人が決める事だ。本人に聞け」

「分かったわ〜。リーシャちゃあん。貴女の此処での役割はあ、なあに?」

クローウィは深紅の瞳で問いかけてくる。

「奴隷です」

「……まあ、これは予想外な答えだわあ。うーん、じゃーあ、私も奴隷でいいわあ〜」

(意味分かってるの?しかも嬉しそうな……)

クローウィは嬉々として述べる。
それにローは好きにしろと言い捨てた。
それでいいのかという船員達の視線すら無視してローはこちらを一瞥(いちべつ)してくる。
それに身構えてみればさっさと視線を外して船の中へ入ってしまう。
ローが居なくなった途端、船員達がクローウィの周りに集まってくる。
なんと現金な奴らだろうと呆れた。

「あ、リーシャちゃーん。待ってええ」

呼ばれたが彼女は今囲まれているし邪魔しては悪い。
それに、リーシャとクローウィとでは船員達の態度の差に冷えていく頭。
こんな人間達の近くに居たくなかった。
歩いていると食堂が見えて少し何か飲もうと思って中に入る。
誰も居なくてキッチンの中には誰も居なかった。
ココアでも飲んで部屋で寝ようと考えながらキッチンへ入るとコップを見つけてそれを手に取る。
ココアの粉を入れてお湯を入れるとスプーンでぐるぐるとかき混ぜて湯気の立つ熱い状態で飲む。
少し熱過ぎたからか舌をやけどしてしまう。

「あつ!はぁ」

厄日はずっと続くのだと嫌になる。
氷はどこだっただろうかと探していると視界に鋭い先端の物が見えた。

「包丁」

今まで派手な事しかしてこなかったからローに止められたのかもしれない。
それを考えるとやり方を変えれば止められる事は無いだろうか。
ぼんやりとその包丁がとても綺麗に見えて、霞む頭は自然とその包丁へと手を伸ばす。
しかし、寸(すん)での所で扉が開き反射的に手を引っ込める。
誰だろうと扉を冷や汗を感じながら見るも自室に戻ったのだと思っていた男だった。

「何してる」

無表情で聞かれて咄嗟にさっきの所を見たから聞かれたのだろうかと思い、誤魔化すようにココアを飲んでいるだけだ、と言う。

「氷は入れたか」

「……まだ」

何故氷を入れる事を知っていたのだろうかと怪訝に思い、ローを見ていると彼は徐にこちらへ来て冷蔵庫へ向かう。
氷の入っている段を開いて氷を少し取り出すとこちらへ持ってきた。

「これからは気を付けろ」

火傷の事を言われて背筋がザッと汗を出す。

(聞かれてたの?)

声を大にして聞かなかったのはそれを聞くのが怖く感じたがらだ。
ローは出て行く事はせずにそこに立ったまま動かなかった。


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