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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

海の上を現在進行しているハートの海賊団の船の中は重苦しい空気が漂っていた。
ハートの船員達はその理由である事をよく知っている為に気が重い。

「リーシャ、何時になったら出てくんのかな」

「あれはきっと当分見込みはねェなァ。船長一体何したんだよ」

ローは自室に居るので心置きなく言える。
溜め息を付く船員を横目にベポはリーシャの部屋がある方向を向く。
先日、リーシャが海兵に連れていかれたのは皆知っている。
それが本人の意思である事も。
今回こそはローも見逃すのだろうかと誰もが考えたのだが、その予想は大いに外れた。
海軍の駐屯所へ単身で乗り込んで壊滅させたのは記憶に新しく、新聞でも報じられている。
その経緯を知る人間にとっては苦渋にも似た感情を抱く他ない。
しかし、ローが全てで、総意。
全員は船長としてのローを尊敬と敬愛を持ってしているので、とてもではないが完璧に彼女の肩を持てないでいる。
だから船員達と線引きして必要以上に接してこないのだが。
それを理解していてもベポはやはり頼って欲しいと思っている。
前回の海軍を壊滅させて彼女を浚ってきたローは抵抗する相手を構わず彼女の自室に捻込んだ。
罵倒と叫び声が今でも鮮明に思い出せる程激しかった。
彼女はこの船に乗ったばかりの時は抜け殻のようだった。
それを変えたのは紛れもない憎悪が生まれたからだろう。

「ご飯もあんまり食べてねェみてーだし」

「こりゃ、色々やべーんじゃねェか?」

船員達が危惧を感じている頃、一つの部屋で悪夢が再来しようとしていた。



***



やってられない。
そもそも夢なのだから餓死したって構わないのではないか。
そう思ったし、食欲もなかったのでもうかれこれ二日は食べていない。
頭がクラクラする。
酸素が脳に行き渡っていないのだと思う。

(結構食べないのも苦しい)

カウントダウンが凄く長くて早く楽になりたいと祈っていると何の気配も無く人影が傍に現れる。
驚いて霞む視界のまま飛び起きる。
ベッドの端へ移動する前に手が伸びてきて肩を掴む。

「飯も食えねェくらいの事はしてねェだろ」

「うる、さ」

声が出ない。
声を出すのも億劫だ。

「前に言っただろ、ちゃんと食えって」

イエローブラウンの瞳が不穏に光るのを見て悪寒を感じた。
次に目を開くとローの自室が見えて、きっと能力で移動したのだとぼんやり思った。
しかも、あの悪夢の部屋だ。
何故此処に連れてきたのだろうと彼を見ると、以前リーシャの心臓を弄んでいた時の顔が視界に入る。
もしかして、と頭が急激に警告を鳴らす。
今頃鳴らしても何の意味もない。
既に男のテリトリーの中。

「食え」

そうしてスプーンで掬った食べ物らしき物を差し出されて口を閉じる。
こんな屈辱、イヤだ。
男がそれをしてくるのは尚更癪に触る。

「そんなにおれが嫌いか?」

笑えた。
何を今更。
侮蔑の目をして相手を見ると、相手も笑みを浮かべていた。

「なら、こういう事をされるのは屈辱だろうな」

「っ、ん”!」

ローは徐に口へスプーンを入れると咬んでリーシャの口内へ無理矢理口移ししてきた。
最高に最悪だ。
口から吐き出そうとしても唇を離してもらえないせいで行き止まりだった。
目から、飲み込まないと止めない意志を感じ取り悔しくなりながら飲み込む。
無理な状態で飲み込んだからか気管に入り咳込むと水を渡された。

「これもやってほしいなら」

「いら、ない!」

苦しくてコップを奪うと勢い良く飲む。
ローはそれを見ながらトレーを近くへ持ってくる。

「一度食べ方を教えてやったんだ。もう一人で食えるよな?」

ローは軽く口角を上げて訊ねてくる。
明らかに分かって言ってくる男に睨んで「煩い」と言った。
何て憎たらしい男なのだろう。
リーシャは忌々しく思いながらローからトレーを受け取る。

「食ったらちゃんと言え」

「…………」

答えたく無くて無視をした。
彼はそれを気にする事も無く部屋を去る。
食べないだけで此処までされるのなら食べるしかなくなった。

「生かされるのなんて」

そこまでするくらいならば島で降ろして欲しい。
スプーンを掴んで黙々と口に運んだ。
専属のコックの腕が良いので味は申し分のないものだった。




また島に降ろされた。
今回もローと一緒に。
ここはとても排他的な村らしく閑散としていて少し怖く感じた。
それをどう思ったのか知らないがベポへとローがバトンタッチしてシロクマの所へ行くように言う。
言われなくても幸いだ。
喜んでベポの元へ行くとローが空を見上げる。
何だろうと何気なく同じ所を目で追うと黒い何かが空を飛んでいた。
鳴き声が特徴的でリーシャはそれを知っていた。

「なんだ、あの黒い鳥」

シャチが名前を知らないのか怪訝そうに空を見上げている。
ベポも首を傾げているのであの鳥を知らないのかと疑問に思った。

「黒い鳥じゃなくてカラスなんですけど」

あまり喋らないと決めていたけれど流石に周りの反応に答えてしまう。
けれど、カラスに反応しない船員達にこちらが困惑する。

「ん?つーかあの鳥」

「こっち向かってきてるくね?」

カラスはそのままこちらの空を通過すると思われたのだが、どうにも全てのカラスが高度を下げてきている気がする。

「誰か光る物でも持ってるんですか?」

カラスは光る物や目を狙う。
リーシャの問いに全員が確かめるがめぼしいものはないらしい。

(光ってる物があったとしても一斉にこっちに来るのは可笑しい)

一羽くらいなら別行動をしていると思うが、何かの意志が働いているような気がした。
そうこう考えている間にカラスに囲まれて襲いかかられる。
悲鳴を上げながら頭を縮めると銃声が聞こえた。
追い払おうとして撃ったのだろう音にカラスは驚かなかった。
やはり色々可笑しい。
これで退かないとなれば追い払うのは困難だ。

「カウンターショック」

バリッと音が聞こえて恐る恐る目を開けるとローが痙攣しているカラスの中に立っていた。
残りの戦力達は既にローから離れていて自分も知らぬうちに離れていたので目を何度もしばたかせる。

「一体何が」

呟くと空から声が聞こえた。

「あら〜、一匹も残ってないのねえ」

その声がある場所を見ると妖艶に笑う女性がほうきに乗っていた。
まさに空を飛ぶ魔法使い。

「魔女?」

ぽつりと呟いたのだが、彼女はこちらを見て目を眇めた。


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