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「っ、っ、っ………!………うあァ………」

目の前にローと海兵の中将が居る。
助けてと伝えて海軍の駐屯所へ連れて行ってもらったまでは順調だった。
いつの間にか付いてきていた船員は居なかったからきっとこの中将には勝てないと思って身を引いたのだと安心をしたのだ。
その認識は海兵が慌ててやってきた事により粉々に砕け散った。
調書を書くから質問に答えて欲しいと中将という人とは違う海兵の前に座って事情や誘拐されたウマを言っていると途中から彼の顔色が悪くなったのだ。
トラファルガー・ローの名を出した辺りから芳しくない。
慌てて扉から出て行ったかと思えば先程の中将という地位の男性が険しい表情を浮かべて入ってきた。

「ルーキーがこの町に入ったというのは知っていたが………捕らわれていたのは本当かい?」

何度も言っているだろうと飽き飽きしながら頷く。
一体何故そんなにも怯えたように青白くなるのだろう。

「あの、中将さんは強いんですよね?」

「嗚呼、勿論………例え二億のルーキーであろうと」

「期待しても無駄だ。所詮は金で成り上がって得た地位だからな」

「「「!?」」」

この部屋に居るのは三人だったのに気配無く声が部屋で響く。
三人が揃って横を向くと扉が開く音だってしなかったのに人が居た。

「ト、トラファルガー・ロー!?」

「見張りはどうした!?」

若い海兵と中将は焦った声で状況を把握する。
その二人の様子を見物している風なローが笑う。

「気付いてすらいねェだろうな」

何と恐ろしい能力だろうか。
某怪盗にも引けを取らないお手並みだ。
盗まれるものは自分自身だと言うのに色々悟ってしまっているリーシャは中将の強さに頼るしか出来ない。
つまり、見守るしか出来ないわけだ。
戦いが始まるのを予期して椅子から立ち上がろうとすると中将が動いた。

「く、来るな!」

「!」

何と、その頼みの綱の男がリーシャの手を引いて盾にし出した。
若い海兵は上司の常識を逸脱した行為に目を見開いて叫ぶ。

「中将!?何をしてるんです!その子は被害者なんですよ!」

「黙れ!」

職権乱用という言葉が頭に浮かんだ。

「この女もトラファルガー・ローの仲間だ!被害者のフリをして海軍の戦力を奪ってるんだ!騙されるな!応援を呼べ、今すぐ!」

「ちゅ、中将………ですが」

「私、仲間じゃない!」

「煩い!この海賊め!」

説明しても目が血走っている相手には通じないだろうと察する。
海兵は慌てて電伝虫を取りに行ったのか出て行く。
見捨てられたのだと思った。
中将の腕が首をキツく締める。
命の危機に面した男の生への執着がひしひしと伝わってきた。

「は、離して!」

リーシャだって死にたくない、出来れば。
少なくとも正義の名の偽善男にやられるのは嫌だ。

「海賊は悪!」

今のリーシャにとってはこの中将が悪だ。
苦しさに悶えていると苦しさがなくなって息が吸えるようになる。
ゲホッゲホッ、と咳き込んでいると中将が後ろへ倒れる音がした。

「その悪にやられるお前は滑稽だな」

クツクツと笑う声が耳にネットリと入り込んでくる。

「劣悪な賊………!」

「何とでも言え。名ばかりの中将様?」

嘲る声音でローは建物事海兵を攻撃した。
そして、冒頭へ戻るというわけだ。
意識を失ったらしい海兵の末路を唖然としたまま見る。
ローは刀を鞘に収めるとこちらへゆっくり歩いてきた。
逃げなければと脳が警告して立ち上がって瞬発力と共に駆け出す。
某映画のように。
砂利を踏む音がして、グチャグチャな海軍の駐屯所は扉も壁も見分けが付かなくなっていた。
ダッと走れたのにグイッと引き戻される感覚にバネのように反対へ引っ張られる。
顔を向けたらローが目を吊り上げていた。
殺されるんだと思った。
何度も脱走して、死のうとして生きていたけれど、今回は遂に怒らせてしまったのだと感じた。
奥歯を噛み締めると痛いくらいの握力で目の前まで引っ張られて骨が折れそうだと怖くなる。

「無闇に身体を触らせてんじゃねェ」

全く何を言っているのか分からなかった。
ギリッと音がしそうな程強い力で顎を掴まれて顔を上へ向けさせられる。
痛いと訴えながら睨みつけると男も睨んできてまけるものかと目を逸らさない。

「全部全部、お前のせいだ!私は何も悪くない!離せ!」

悔しくて、憎くて堪らない。
恨みを込めて言うとローは微かに瞠目してその口元を歪めた。
リーシャはまるで喜んでいるように見えたが、真意は謎。

「なに笑って………!」

苛ついて噛みつこうと口を開いた瞬間、逆に唇へと噛みつくように口付けをされてしまった。


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