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それから約束通り料理はベポが作ったものとして彼の口に入っていった。
白熊は未だ納得していない顔だったが我慢してもらう。
最初は誕生日らしかったが後半ではお酒を飲む宴となってしまい、いつもと変わらないな、と内心苦笑。
ベポもお酒に酔わされ近くで寝転がって鼻ちょうちんを作っている。
船員を下敷きにしているので苦しげに呻く人も居て飽きない。

「こりゃあ明日は使い物にならないな」

トラファルガー・ローの声が不意にして肩をびくつかせる。
そういえば同じ空間に居たのだったと今更ながら後悔してそそくさと椅子から立ち上がると彼も席を立つ。
もしかして部屋に戻るのだろうかと先に行き易い様に立ち往生する。
けれど、彼もこれ以上は動く気配もなく内心首を傾げ少しだけ顔を向けるとこちらを一直線に見ていた。

「何か?」

(一緒に居たくないのに……)

怖々と問いかけるも首を横に振られ別にと言われてしまえばそれ以上は言えない。
困惑していると小さくありがとな、と聞こえ意味が分からなくて混乱した。
何に対して述べているのか。

「ベポと作った奴、上手かった」

「えっ」

なぜバレているのか、ベポが言ったのかと様々な答えを解いているとローはベポには出来ない様な細かな味付けに気付いたのだと付け足す。
成る程と舌の味分けに関心すると同時に悔しく思う。
まるで照れ隠しで共同作業を言わなかったように思われたくない。
馴れ合いたくないという理由で言わなかったという言葉すら口にしたくなかった。

「ベポに頼まれたからというだけなので………勘違いしないで下さい」

「分かってる」

それならもう構うなと空気で伝え部屋に戻る。
どんな表情で言っていたとしても絶対にほだされるものか。
布団に入り毛布を被ると涙が無意識に溢れた。
戻って日が浅い心臓がドクドクと音を立てる音にこれはあの男の罠だ、策略だと無理矢理思い込む。
でないと、気を許してしまいそうで怖い。

(夢なんだから、早く覚めてよっ!)

いつの間にか町に居て、あの男と出会って帽子を拾わなければこんな事にはならなかった筈。
憎くて憎くて堪らないトラファルガー・ローに助けられた事がどんなに屈辱か、泣いてしまった自分がとてもとても愚かな筈なのに、憎み切れないと心は既に悟っている。
それこそ、気付きたくない真実だった。





トラファルガー・ローが前回要求してきた"交換ノート"を無言で渡してきた。
手に渡されると口を開き淡々と言う。

「一行だけでもいい。渡すのはベポでもおれの部屋の前でも好きな方法で構わねェ」

それだけ言うと颯爽と部屋を去っていった。
ジッと恨めしくノートを見ても手品のように跡形もなく消えてくれないので仕方なく机に座り初めて手にする、置いてある羽ペンを手に取る。
初めての感覚にまじまじとそれを監察すると中世にありそうな羽ペンに使い難そうだと思い、同じく置いてあるインクに手を伸ばす。
蓋を開けると油っぽい匂いに思わず目をしばたかせる。

「ていうか、ボールペンとかないの?」

机の引き出しを漁るが何も無くて早々に悟る。
きっとこの船には置いていないのだろうと推測し、そもそもここがどこだかも知らないと思い、その疑問を交換する相手にぶつけてみた。
インクが薄くなる度に付けて、量を調整して、の繰り返しに飽きそうになり暫し手を休める。
筆圧もバラバラ、大きさも違う。
ガタガタな字に嫌気が差す。
習字よりも難しいと体感しながら此処は何処だとか、どの地域を進んでいるのだとか、口で聞けば済む事を文字数稼ぎに書く。
話したくないのでこれで良いのだ。
本当は何かをし合いたくもないが、無知は流石に駄目なような気がする。
ただの危機感だが、此処は自分の知る場所ではないのではないかと薄々……いや、夢の中なのだから知らなくても当然なのだ。
だから疑問に思うのも間違っているのだと言い聞かせる。
やっと少し書けたと感じて肩を揉む。
ベッドも木製、部屋の割合も木製が多い。
如何にも海賊の船にイメージが先行している。
自分の夢にしてもチグハグもあるし、特に悪魔の実って何だ、と突っ込まずにはいられない。
もしかしてリーシャはファンタジーな世界でも夢に描いてトリップしたいとでも奥底の願望を持っていたのかもしれないとしみじみ思う。

「出会う男は狂気の沙汰みたいな奴だし」

まるでB級映画の殺戮をする殺人鬼のようだ。
目がイッてる完全に。
心臓を難なく取り出して舌で舐めて。
思えば思うほどイカレている。
ゾワッと悪寒を感じて咄嗟にノートを閉じた。
繋がりはこのノートのみなのだ、出来るだけ触れるのは控えよう。
気を絶対に許さないと改めて己に誓ってノートを持って立ち上がる。
どうしよう、どうせ部屋の前を通るのだから前に置いていってしまおうかと考えた。
ベポを探すのも面倒だし、とローの部屋の前に置く事を決めると自室を後にした。
ギシッと音を立てる廊下は薄暗い。
蝋燭を持ち歩いて進まないと足下も覚束無い程揺れる。
この潜水艦は動いているから揺れるし暑い。
ベポが潜る度に暑い暑いと船員達へ愚痴を零しているのだが、気持ちは分かる。
蒸し暑い、確かに。
汗を拭って前へ進むと船長室が見えてくる。
トラウマでに身体が震えてきた。
まだ、あの拘束されて虐げられていた記憶は全く薄れない。
忌々しい顔を思い出して胃がキリキリと痛む。
部屋の前まで来るとノートを静かに置く。

(出てくるな出てくるな)

何度も何度も念じて通り過ぎれば安堵の息が漏れた。


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