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「はァはァ……!!――やっぱりな……」
全速力で走り息の上がったローは海を見渡し、ずっと探していた人物を視界に捕らえる。
「リーシャ……」
名を呼ぶとゆっくりとこちらに振り返る彼女。
「トラファルガーさん……」
その表情はなんの感情も感じとれないような無表情だった。
「探した」
「知ってます」
わかっていたのか。
ローはわかっていて見つからないように姿を眩ませていたリーシャにやはり決別の意を感じた。
「すまねェ……」
「貴方が謝る必要なんてありませんよ」
ローとリーシャの距離は離れていて、今の自分達のようだとローは悲しくなった。
悲しいという感情がある分、つらいのだ。
自分のせいで彼女の背に背負う何かを増やしてしまったのかと。
けして悲しいという感情や一度も涙を見せなかった彼女。
「もう船には乗らねェのか」
「はい」
坦々と機械的に話すリーシャにつきりと胸が痛んだ。
一歩一歩、彼女に近付こうと歩み寄る。
「っ、来ないでください!!」
「!……」
感情を吐き出した、初めて見た表情だった。
だがローは歩みをやめなかった。
――バシャバシャバシャ……!
「………」
リーシャは近付くローから離れるように海の中へと入ってしまった。
しかし、なお歩き続けるロー。
するとその頬に一筋の血が流れた。
なにか鋭利なもので切られたように。
「これ以上くるなら貴方を殺します」
その言葉に頬の傷は誰がつけたかは理解できた。
しかし、ローは無表情のまま足を止めることはなかった。
***
本当は傷つけるつもりなんてなかった。
でも、トラファルガーさんがこちらに来ることを感じ先手を打ったのだ。
自分の領域に入ってくる彼が怖かったのかもしれない。
危害を加えたというのに、海に入ったというのにどうして来るの……?
「貴方は悪魔の実の能力者。海には近づけない」
でも私は違うから海に入れる。
「それがどうした?」
「……!?」
意味深な言葉を言ったトラファルガーさんは信じられないことに――。
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