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――ザザァン……


波の音が静かな夜の海に響く。
私は目を閉じてその音だけを聞く。
こうしていると数週間前のローさん――トラファルガーさんと初めて出会った日の事を思い出す。


あの日も、そう……今日のように月が綺麗な夜だった。
いつも月が満月の時や何かがあった時は半分だけ獣の姿なり目が赤くなる。
そして泣くという衝動の代わりに歌を歌うようになった。
あの日も歌っていると突然誰かに声を掛けられたのだと思い出す。





『おい』

『……!?』

あの時は誰が声を掛けてきたなんて考える余裕もなく、赤い目を見られないように足速にその場所を去った。
実際、あの時の人物はトラファルガーさんだったのだと改めてリーシャに声を掛け、顔を見られた時に知った。
あの時程心臓が止まるのではないかと感じたことはない。
正体がバレたとはやとちりしてしまった私はもう二度と会えないと思い姿を眩ませた。
つもりだったが、ベポさんに見つけられたことにより全てが無駄になってしまい、後はベポさんが襲われて私が庇う為に能力を使って一瞬でベポさんの後ろへ移動し撃たれたという経緯である。
気づいた時にはハートの海賊団の人達の温かさに居心地の良さを感じ、いつの間にかずっとこの時間が続けばいいと自分の罪を一瞬でも忘れた事に怖くなった。




私は海賊でもないただの旅人。




幸せを願ってはいけない。




自分に言い聞かせる。――また旅をする生活に戻るだけなんだから。







だから私は悲しくなんてないはず


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