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目を覚ましたのは病院だった。
隣には大好きな姉ではなくマスターがいた。

「目が覚めたかい?」

マスターは優しい口調で聞いてくる。

「こ、こは……?」

まだ意識のはっきりしていない頭で考えついた最初の言葉はそれ。

「病院だよ。君は気を失ったんだよ」

そう説明するマスターの体を横目で見ると包帯が巻かれていて、徐々に記憶が頭の中を駆け巡った。
姉は、姉はどこ?
病室をぐるりと見渡したけれど見つからない。
マスターと私以外誰もいなかった。
私の様子にマスターが「どうしたんだい?」と尋ねてくる。

「お姉ちゃんは、どこにいるんですか?」

私がそう質問すると優しい眼差しだったマスターの目が戸惑いに揺れたのが見えた。

「――すぐに君のお姉さんも病院に運ばれたんだ……」

マスターがそこで黙った瞬間、私は気付いてしまった。

やめて

やめて

ヤメテ

「残念だが……先程息を引き取った」

マスターは悔しげに悲しげに呟くのを聞いた私はフッと脱力するのを感じた。
姉が死んだ。
悟っていても気付きたくなかった。
マスターはすまないと何度も謝り私の手を握ってくれた。
私が退院してからはなにもかもすべてマスターがやってくれた。
姉を火葬してくれて、私達二人が住んでいた家の近くにお墓を建てて、それから数週間はマスターが私の面倒を見てくれたのだ。
でも私は家を出た。
マスターはとてもいい人で嫌なことなど一つもない。
けれどこれ以上迷惑をかけたくないと思い、一人で生きていこうと決めた。
そして私にはもう一つの残酷な真実があった。
今思えばそれがすべての始まりだったのかもしれない。
姉が亡くなったと聞いた時、マスターがすまないと謝ったときに生理現象で零れるはずだった。


「え……あれ……」

「どうしたんだい?」

動揺している私にはマスターが壊れ物を扱うように聞いてきた。















「涙が、出ない」




「え?」


私がそう言うとすぐさまマスターは医者を呼んだ。



「精神的なもののようで、涙がでなくなったのかと……」


医者は言いずらそうにそう告げた。


「そう、ですか……」


マスターは仕切に私の背中を摩ってくれて何度も大丈夫だと言ってくれた。
けれど私は、そんな言葉は聞こえてなくて、自分自身に言い聞かせていた。
これは姉を助けられなかった自分への罰
人に泣いてもらう資格などないのだというみせしめ
だから私は涙を流せなくなったのだと










自分の罪を受け入れよう


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