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57


ローはただ見ていることしかできなかった。

男が一瞬で視界から消え、リーシャの目の前で手を振り上げる。

そして、全てが文字通りで。

しかし、予想していたシナリオとは全く違ったことだけは確かだった。






倒れたのはリーシャではなく、ロンの方だったのだ。

ローがかろうじて理解できたのは、リーシャがロンを気絶させたこと。

それ以外はわからなかった。

ロンが地面に倒れるのとリーシャが扉へ向かうのは同時で、ローがハッと我に返った時には、リーシャは扉の取っ手を掴んだ時だった。

「っ、リーシャ!」

ローが叫ぶと彼女は扉を少し開けた状態でピタリと止まる。




「――貴方だけには、見られたくなかったです……


トラファルガーさん」

「……!」

彼女の言葉にローは息が詰まるのを感じた。

今彼女はなんと言った?

そして、そんなローに一度も目を合わす事も、振り向きもせずにリーシャは扉の向こうへと消えた。






***









リーシャが去った数分後にペンギン達はやって来た。

「船長、無事で何よりです。ですが――これは一体?」

ローはペンギンに手錠を外されながら尋ねられた。

ペンギンが言うには、ローを救助する為にこの倉庫へ忍び込んだはいいが、何故か見張りの人間が全員気絶していたらしい。

ローはその事を聞かされ、事の次第をペンギン、ベポ、シャチに話した。


「え!?じゃあこれは全部リーシャがやったんですか!?」

「あァ」

シャチの驚愕の声にローは頷く。

三人はローの話しを信じられないという風に聞いていた。

実際、ローもまだ信じられないでいる。

しかし、自分はこの目で見た。

「それでリーシャの姿を見て、無人島のオオカミが彼女だと?」

ペンギンがローを見る。

「そうだ。シャチ、お前ならわからないか」

シャチはその問いに頭を捻る。



「確かに、人間っぽいところとか、襲ってこなかったりとか……納得するところはあります、けど……」

シャチはクシャリと髪を掴む。

「仮にそうだとしても、悪魔の実の能力者ではないという事だけは確かだな」

ローもペンギンと同じ事を感じていたことに同意する。


「でもおれは……リーシャが何者でも――そんなのどうだっていいよ!」

ベポがそう叫び、ロー達は互いの顔を見合わせる。

「ベポ、俺達だってそう思ってるさ」

ペンギンはベポの頭を軽く撫でながら言った。

「そうだぞベポ!」

シャチもいつものように笑い、三人はローの方へ顔を向ける。

「どうしますか?船長」

ペンギンの言葉にローはスッと目を伏せる。

『貴方だけには見られたくなかったです……さようならトラファルガーさん』

リーシャはローの事をトラファルガーと呼んだ。

それが意味するものは、おそらく決別。

いや。――おそらくではなく、本当の決別だろう。

「そんなことはもう決まっている」

ローが三人の顔を見据えながらニヤリと笑う。

ベポ達はその顔を見るとお互い頷き合った。





僕等の行き先は決まったようだ


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