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――バサッ
リーシャはフードに手を掛けるとおもむろにそれを取った。
その瞬間、ローは己の目を疑う。
「……どういうことだ……?」
自分の心臓の音がリアルに聞こえた。
ロンも同じく固まっていたが、やがて愉快そうに笑い出した。
「は、はははは!!これは面白い!そうか、君も僕と同じということか!」
その言葉が意味するもの――。
それは、彼女の姿だった。
リーシャの頭には獣の耳があり、その瞳は赤色に染まっていた。
ローが知る限り、リーシャの目の色は髪色と同じ茶色だったはずなのだ。
ローはその瞳にふとある記憶が蘇るのを感じた。
『目の色が赤色だったんですよ』
キャスケットが無人島で助けられたというオオカミの話。
そうだとすれば、つじつまが合う。
だが、一つだけ不可解なことがあった。
それはローが海に落ち、リーシャに助けられたことだ。
能力者ならあの時点でローもろとも溺れたはず。
ローが考えているとロンの声に思考が現実に戻された。
「でも――いくら貴方が能力者でも僕には勝てませんよ。なぜならウンビョウはどの動物よりも一番速いからですよ」
男は目をかっ開き、狂ったように叫んだ。
「泣いて命乞いするなら今のうちですよ!!」
人を人として見ていないような目でリーシャを見たロン。
すると今まで塵にも反応をしなかったリーシャが初めて表情を見せた。
「――何がおかしいんですか?」
その表情はフッと口元を上げ、目には何の感情も入っていないように見えた。
一緒に船で過ごした彼女とは全くの別人のようだ。
その時、初めてリーシャが口を開いた。
「いえ……貴方があまりにも残酷な事を言ったので」
「あぁ、喋れたんですねぇ」
男は皮肉げに言った。
「ゲームオーバーです。飽きてしまいましたし、泣いても貴方を殺すことににしますね」
血に飢えた獣の如く、男はペロリと舌なめずりをする。
だが、リーシャはその言葉を聞いても全く動こうとしなかった。
「逃げろ!!リーシャっ!!」
ローは今度こそ、苦し紛れに叫んだ。
「さようなら、お嬢さん」
ロンはフッと消え、その瞬間――。
鈍い音がした。
誰か嘘だと言ってくれ
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