×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 
54


俺の知る限り、トラファルガー・ローは女の扱いには慣れている。
けれど、どうも自分のことには疎くて不器用だ。
その証拠に、船長にログが溜まる日時を伝えた時、あの人は苦虫を潰したような顔をした。
大方、リーシャと過ごす時間の短さを計算していたのだろう。
船長が彼女に対して抱いている特別な感情には薄々気づいていた。
それはペンギンだけではなく、他の船員達にも言える。
ただ本人とリーシャが気づいていないだけだ。
やっと気づいた、と思えば次はこれときた。

『貴方はこの船の船長です。だから―――』

さっきは、我ながらよく言ったと思う。
あの言葉を聞いた船長の顔ときたら、なかなかの珍顔だった。
まぁ、俺の言葉を理解した時点で、さすが2億の器と言うべきか。





***




ローさん達、ハートの海賊団の人達と別れて、もう三日経過した。
彼らはあと二日で船を出航させるだろう。
彼らとの一ヶ月間の船旅で、クルーの人達にもよくしてもらって本当に嬉しかったし、楽しかった。
ローさんと一緒にお茶を飲みながら色々な話しをして、ベポさんとはお昼寝をした。
シャチさんとペンギンさんはとても仲が良くて、笑わない日はない。
――本当は私もずっとローさん達と一緒にいたいと思った。
けれど、旅人がそんなことをするなんて、と私の感情が躊躇いに揺れる。
自分に言い聞かせる。
私は旅人なのだから、と――。



***



ぼんやりとしながら町を歩く。
そんな時、オレンジ色の繋ぎがリーシャの視界に写った。

「あれは……」

人混みの中でも、特に目立つ服装にリーシャは足を止める。
よく見てみるとそれはベポさん達で、とても焦っているような雰囲気だった。

「ベポさん!」

私は気になり、声をかけた。するとベポさんと、シャチさんとペンギンさんがこっちへ視線を向けてくる。

「!!……、リーシャ!」

三人は私を見た途端驚き、こちらへ走り寄ってきた。

「なにかあったんですか?」

私が尋ねると三人はお互いに目を合わせ、話すことを躊躇しているように思えた。

「あっ、あのね――」

ベポさんが言いにくそうにしていると、代わりにペンギンさんが口を開いた。

「船長が賞金稼ぎに捕まった」

「え……」

その言葉に心臓がドクリと鳴った。
三人は悔しさに顔を歪ませながら話し始める。

「船長がいる場所はわかったが、その賞金稼ぎ達が問題で俺達も下手に手を出せないんだ」

ローさんは強い。捕まるなんて、余程その賞金稼ぎが手強いのだろうとリーシャは思った。
ペンギンがそう言うと、シャチも続ける。

「それに相手の人数が多いんだぜ」

シャチはギュッと拳を握る。
それを見たリーシャはそっと視線を外し、ペンギンに尋ねる。

「相手が問題というのは……?」

リーシャはなんとか平常心を保ちながら聞く。

「相手は、能力者で憶越えを捕まえているような奴ららしい」

「能力者、ですか……」

確かに下手に手を出せない。

「俺達はこれから何とか計画を立てて船長を助けにいくつもりだ」

「そうですか……」

「大丈夫だ!俺らが絶対に助けるからな!」


シャチは暗い雰囲気をニカッとした顔で変える。
でも無謀だと、言わなくてもここにいるだれもがわかりきっていた。
それでも前向きになろうとしているのは、おそらく船長という自分達の前を歩き、どんな危険もかえりみずに進むローへの忠誠心からなのかもしれない。

「だからリーシャは船長が帰ってきたら、絶対ェ会ってほしいんだ」

「そんな偉そうなことを言って、後で後悔しても知らんぞ」

「え、まじかよォ。俺船長にバラバラにされるのは運命なのかァ!」

「アイ〜!決定事項だね」


「てめっ、ベポォ!裏切り者ー!」

「……ふふっ」

いつものように談笑する三人にリーシャは笑みが漏れる。

「ローさんが監禁されている場所はどこにあるんですか?」

「この町にある、今は使われていないかなり大きな建物だ」

ペンギンはリーシャに説明する。

「じゃあ見張りは厳重ですね」

リーシャがそう言うとペンギンは頭を撫でながら大丈夫だ、と言った。

「リーシャはいつこの島を出るの?」

「明日には」

「そっか……、じゃあここでお別れだね」

「……はい」



ベポは最後の握手だと言いながらリーシャの手を握った。



「私も皆さんに出会えてよかったです」

「俺達もお前と出会えてよかったぜ」

「あぁ」

最後にペンギンが言うとリーシャは笑いながらありがとうございました、と頭を下げた。
そうして、ハートの海賊団の三人は戦闘の準備があるといいリーシャと別れる。
リーシャは去っていく三人の後ろ姿をながめながら、小さく呟いた。



「本当に貴方達と出会えて嬉しかったです」









そして彼女は歩き出した


prev next
[ back ] bkm