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俺の知る限り、トラファルガー・ローは女の扱いには慣れている。
けれど、どうも自分のことには疎くて不器用だ。
その証拠に、船長にログが溜まる日時を伝えた時、あの人は苦虫を潰したような顔をした。
大方、リーシャと過ごす時間の短さを計算していたのだろう。
船長が彼女に対して抱いている特別な感情には薄々気づいていた。
それはペンギンだけではなく、他の船員達にも言える。
ただ本人とリーシャが気づいていないだけだ。
やっと気づいた、と思えば次はこれときた。
『貴方はこの船の船長です。だから―――』
さっきは、我ながらよく言ったと思う。
あの言葉を聞いた船長の顔ときたら、なかなかの珍顔だった。
まぁ、俺の言葉を理解した時点で、さすが2億の器と言うべきか。
***
ローさん達、ハートの海賊団の人達と別れて、もう三日経過した。
彼らはあと二日で船を出航させるだろう。
彼らとの一ヶ月間の船旅で、クルーの人達にもよくしてもらって本当に嬉しかったし、楽しかった。
ローさんと一緒にお茶を飲みながら色々な話しをして、ベポさんとはお昼寝をした。
シャチさんとペンギンさんはとても仲が良くて、笑わない日はない。
――本当は私もずっとローさん達と一緒にいたいと思った。
けれど、旅人がそんなことをするなんて、と私の感情が躊躇いに揺れる。
自分に言い聞かせる。
私は旅人なのだから、と――。
***
ぼんやりとしながら町を歩く。
そんな時、オレンジ色の繋ぎがリーシャの視界に写った。
「あれは……」
人混みの中でも、特に目立つ服装にリーシャは足を止める。
よく見てみるとそれはベポさん達で、とても焦っているような雰囲気だった。
「ベポさん!」
私は気になり、声をかけた。するとベポさんと、シャチさんとペンギンさんがこっちへ視線を向けてくる。
「!!……、リーシャ!」
三人は私を見た途端驚き、こちらへ走り寄ってきた。
「なにかあったんですか?」
私が尋ねると三人はお互いに目を合わせ、話すことを躊躇しているように思えた。
「あっ、あのね――」
ベポさんが言いにくそうにしていると、代わりにペンギンさんが口を開いた。
「船長が賞金稼ぎに捕まった」
「え……」
その言葉に心臓がドクリと鳴った。
三人は悔しさに顔を歪ませながら話し始める。
「船長がいる場所はわかったが、その賞金稼ぎ達が問題で俺達も下手に手を出せないんだ」
ローさんは強い。捕まるなんて、余程その賞金稼ぎが手強いのだろうとリーシャは思った。
ペンギンがそう言うと、シャチも続ける。
「それに相手の人数が多いんだぜ」
シャチはギュッと拳を握る。
それを見たリーシャはそっと視線を外し、ペンギンに尋ねる。
「相手が問題というのは……?」
リーシャはなんとか平常心を保ちながら聞く。
「相手は、能力者で憶越えを捕まえているような奴ららしい」
「能力者、ですか……」
確かに下手に手を出せない。
「俺達はこれから何とか計画を立てて船長を助けにいくつもりだ」
「そうですか……」
「大丈夫だ!俺らが絶対に助けるからな!」
シャチは暗い雰囲気をニカッとした顔で変える。
でも無謀だと、言わなくてもここにいるだれもがわかりきっていた。
それでも前向きになろうとしているのは、おそらく船長という自分達の前を歩き、どんな危険もかえりみずに進むローへの忠誠心からなのかもしれない。
「だからリーシャは船長が帰ってきたら、絶対ェ会ってほしいんだ」
「そんな偉そうなことを言って、後で後悔しても知らんぞ」
「え、まじかよォ。俺船長にバラバラにされるのは運命なのかァ!」
「アイ〜!決定事項だね」
「てめっ、ベポォ!裏切り者ー!」
「……ふふっ」
いつものように談笑する三人にリーシャは笑みが漏れる。
「ローさんが監禁されている場所はどこにあるんですか?」
「この町にある、今は使われていないかなり大きな建物だ」
ペンギンはリーシャに説明する。
「じゃあ見張りは厳重ですね」
リーシャがそう言うとペンギンは頭を撫でながら大丈夫だ、と言った。
「リーシャはいつこの島を出るの?」
「明日には」
「そっか……、じゃあここでお別れだね」
「……はい」
ベポは最後の握手だと言いながらリーシャの手を握った。
「私も皆さんに出会えてよかったです」
「俺達もお前と出会えてよかったぜ」
「あぁ」
最後にペンギンが言うとリーシャは笑いながらありがとうございました、と頭を下げた。
そうして、ハートの海賊団の三人は戦闘の準備があるといいリーシャと別れる。
リーシャは去っていく三人の後ろ姿をながめながら、小さく呟いた。
「本当に貴方達と出会えて嬉しかったです」
そして彼女は歩き出した
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