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後編


ペリカン先輩に飛び付くとすかさず飛び立つように頼む。
今、すぐ、飛んでっ!
怒るやら危機的感情があまり出ないリーシャだが、今回ばかりは状況が状況だ。
背中に飛び乗りぎゅううーっと抱き着く。
その途端ニュース・クーは合点承知と翼を広げる。

「ROOM」

「っっ!」

一瞬の出来事で、身体がふわふわで暖かい身体から筋肉質の感触に包まれる。
呆気に取られて目に写るのは顔を蒼白にして慌てているニュース・クー。
何で移動してしまっているかは置いておこう。
フッと生々しい吐息が耳を掠めた。

「っ」

「取材させてやろうか」

「へ?取材……?」

「ああ。その代わり」

ローはグッとリーシャの腰を引いて端正な顔を近付けてきた。
必死に顔を反らして距離を離そうとするが無意味に終わる。

「俺の部屋に来て、それ相応の報酬をくれりゃあいい」

「ほ、報酬とは?」

ローはそれを聞いてクスクスと笑う。
その振動で近さを感じ、益々いたたまれなくなる。

「お前の心臓」

「しっ!?………先輩ぃ〜!!」

もう頭が、身体が冷静ではいられない。
ハプニングをハプニングで終わらせられなくなった。
プルプルと震える身体にローは興奮している様に感じ、更に暴れる。
抜け出すように胸を押すと呆気なく離れた。
すかさずニュース・クーに飛び乗り、鳥の翼を広げた先輩もすぐに甲板から飛び発つ。



***



「くくく……テンパり過ぎだろ」

「船長……大胆っすね、新聞記者に手ェ出すなんて」

「新聞に霰(あられ)もないこと書かれますよ」

シャチは感嘆し、ペンギンはローの行動に呆れた口調で咎めた。
別に有ること無いことを書かれても痛くも痒くもない。
無法者に与えられるダメージなど知りえる範疇だ。
次の日はニュース・クーだけしか来なかった。
新聞にもローについての記事は載っていない。
つまらないと新聞を折って隣に置いた。





次の日、ペリカンの後ろ姿に人影が見えると船員から報告があった。

「いえ、あの、折角なので……上司からアンケートの結果についての感想を、聞いてこいと……言われたので……でも、ですね。私、船長さんの部屋に行くのは絶対嫌なんですよ……」

「船長の部屋に行きたがらない女、俺初めて見たぜ」

髪にバンドを嵌めたバンダナが詰め寄る。
人伝に聞いた女の記者と一悶着あった出来事に興味が湧いて、早速会ってみたというわけだ。
思っていたより小柄でとても記者には見えない。
見てくれだけはそれっぽいが。

「ですけど!ここは、その、心を鬼にしなければいけないんです……インタビューをする為に」

段々とテンションが下がる女にバンダナは面白いと口元を吊り上げる。
船長が気に入るのも納得だ。
未だ二の足を踏んでいる彼女を船長の居る部屋まで案内する。
ノックをして返事を待つと短く入れと言われ、女の背中を優しく押す。
怖じ気ながら部屋に入る姿を見送ると、船員に話を広げる為に廊下を早足に進めた。



入ってしまった後悔と焦燥を感じて、目の前に居るローを冷や汗をかきながら見る。
ペラリと優雅に本を読んでいる姿に一瞬惚ける。
すると本を閉じ横にあるテーブルに置いたのでハッと我に帰り、再び緊張に背筋が伸びた。
何が口から出てくるのかビクビクしながら待つ。

「俺にインタビューしたいんだったな」

「は、はい。アンケート結果の上位に入った感想を聞きにきました」

答えてくれそうな雰囲気に期待が膨らみかけていれば何故か彼はニヤリと笑う。
ハテナを浮かべれば相手は条件付きでもか、と訪ねてきたので頷く。
上司に海賊と交渉する為にある程度の報酬を用意してあると予め言われていたので抜かりない。
そのうまを伝えるとローは顎に手をやり考える仕草をした。
これは女性が黄色い声をあげる理由が分かると男の美形な顔を見て思う。
上位に食い込んでも可笑しくない人だ。

「密着取材するってのはどうだ?勿論お前がな」

「え?え?そんな事でよろしいのですか?寧ろこちら側としては美味しい条件ですが……………」

確認すると構わないと了承を得られたので上司に伝えてまた来ると約束し、ペリカン先輩の上に乗って船を後にする。
会社に無事戻り報告すると、上司から誉められ良くやったと言われ嬉しかった。

「よろしくお願い、しますっ」

ハートの海賊団の面々が揃う食堂の正面に立ち、ローに自己紹介をしろと言われたのでその通りに動くと各場所から拍手を貰える。
海賊とはこんなに穏やかな雰囲気の集団だっただろうかと思ったが、それにこしたことはないので有り難かった。
ちなみにリーシャの寝る場所は船長室らしい。
激しく断りたかったが取材をなかった事にすると言われ、やむ無く従う事になる。
お披露目が終わるとローが手を出すなよ、と彼らに釘を刺していたので唖然とした。
まさか無法者のローがそんな事を言ってくれるとは。
急いでメモに書くとヒョイッと取られた。

「なんだよ俺が優しいって。消しとけこんなもん」

「えええ、でも」

「こんなこと書かれちゃこっちが困る。早く消せ」

消せと繰り返す彼に渋々頷き、メモを見る。
優しいことは事実なのに何故嫌がるのだろうかと疑問に思う。
渋々線を二本書き込んで無かった事にする。
それを見届けたローは満足そうに椅子に座ると再び聞いてきた。

「よくそんな性格で記者なんてやれてるな」

「よく言われます……あはは」

苦笑して答えると更に笑みを深くする相手に言い知れぬ恐怖を感じた。
何故そんなに楽しそうに笑うのだろう。

「これから旅が更に楽しくなりそうで何よりだ……フフフ」

どうやら気のせいではなく、恐怖体験をするのは間違い無さそうだと今すぐ海へと帰りたくなった。
先輩が居たなら確実に「泳いで帰れねェ」的なニュアンスで突っ込まれていただろう。
こうして一人の記者の過酷な密着取材が開始された。


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