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10


海軍の駐屯所に帰還した後、海兵によるランへの軽い事情聴取が行われた。
もちろん、それは内容を聞く為のものである。
キッド海賊団と争った後はどこにいただとか。
部下の海兵が躍起になって探していただとか、身内のような海兵達で構成されている駐屯所ではその事情聴取は意味がないも同然であった。



「ではこれにて事情聴取は終了です。協力を感謝いたします」



事務的な終わりを告げられ、ランはビシッと手を頭の横に付けて一礼し扉を開けて外へ出た。
ゆっくりと誰も居ない廊下で息を吐く。
ユースタス・キッドの船に居たことは黙っておき、空白の時間は気絶していたと言い回避した。
ユースタス・キッドの海賊船にいたと公言すれば、あれこれと複雑で難しい質問を大量に投げかけられたくはないからだ。



(ひとまずは大丈夫よね)



休憩がてらに駐屯を出て近くにある喫茶店へと入る。
カランカランと扉のベルが鳴ると「いらっしゃいませ」とマスターの声が聞こえた。
もう何年も通い続けているこの店ではマスターと顔なじみで常連であるラン。
いつものようにマスターがいる手前の椅子に座りテーブルへと顔を傾ける。



「今日は海軍の軍曹さんが途中で行方不明になったと聞いて驚きましたよ」


「私はこの通り、ピンピンしてるわよ」



モダンな雰囲気にぴったりなモダンなマスターがガラスコップを拭きながらこちらを見ずに喋り出した。
ランはそれに慣れている為、ふふっと笑いながら答える。



「若い海兵さん達が慌てていらっしゃいました」

「私だって若いわ」

「そうですね。貴女が一番若くていらっしゃいますね」

「まだ二十歳だもの。マスターもまだまだ若いわよ?」

「これはこれは、嬉しいことを言ってもらえるとは」

「ふふ……紅茶をいただけるかしら」

「かしこまりました」



慣れた手つきでカチャリとランの前に温かい紅茶を出すマスター。
唯一ランが心おきなく落ち着ける空間だ。
いつも誰かの前に立たなくてはならない。
何故かと言われれば、それはこの島では軍曹の位が一番高いからだ。
軍曹以上の人間は存在しない。
だからランが率先して海兵達に指揮をしている。
自分は常に何かを背負っているのだ。
だからこそ、ランには安らげる場所があることが救いだった。



「やっぱり、貴方の紅茶は美味しいわね」

「光栄です」



マスターの鏡とも言える風格と気品。
並々ならぬオーラを感じる。



「マスター。貴方は何者なのかしらね?」

「ただの、しがない店主ですよ」



実は、前からこの老店主の普通以上の気迫には何かを感じていた。



「貴方がそう言うなら、そうね」



しかし、ここで何なのか、何者なのかということを知ってしまうのはもったいなく思った。
紅茶も、コーヒーもケーキだって最高である。
だから、問うことはあっても、答えを要求することは金輪際ないだろう。
知る必要性がない以上、店主であるマスターのメニューを手放す気は、毛頭ないのだから。










喫茶店で休憩を終えると、ランは店を出た。
海軍から、今日一日の休みを強制的に取らされたのだ。
ユースタス・キッドの一件で被害者扱いのランに安静していろ、というわけだろう。
そんなことを言われても正直、やることがない。
いきなりできた空白の日を埋めることが、ランは一番苦手なのだ。



「本当に暇……」



ぽつりとぼやいたって何も起こらない。



「そこの海兵」

「……?」

「こっちだ」

「え?……っ!さ、殺戮――」

「静かに。お前もその方がいいと思うが」

「う、まぁ、そうだけれど」



コソコソと空耳のような声が聞こえ、二回目が聞こえたと思ったら、建物の影にキラーが立っていた。
叫びかけるランを押し黙らせたキラー。
納得するしかない為、口をつぐむ。
ランはゆっくりと左右を見回し、人影がない事を確認する。
そして、キラーのいる建物の影へ寄る。



「なんで、貴方はそんなにコソコソしているの?」

「海軍に見つかることは最善ではない。それに、騒ぎを起こす為に来たわけでもない」

「あら、そう……」



海賊らしくない行動に多少驚きながら、曖昧に相槌をうつ。
キラーはキッドとは性格が正反対なようだ。



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