08
薬品特有の匂いが鼻を突き抜ける。
自分が治療されていると気が付いたのはすぐわかった。
思い当たることが、あったからだ。
確か、ランは部下の海兵を庇い自分も負傷したはずである。
きっと誰かがランを医務室に運んでくれたのだと安堵した。
命を落とさず自分は生きている。
それだけでランは十分だった。
「気が付いたか?」
しかし、ランは此処にいるはずのない声を聞き、脳は急速に動き出した。
「な、んで……貴方が……!?」
ランが問いたかったのは、そんなことよりも。
「キッドがお前を治療しろと煩かったからな。すまない」
キラーが謝って来たことにも驚いたが、キッド海賊団の船に乗っている事実に唖然となった。
フツフツと湧いてくる言い知れぬ感情にシーツをキツく握る。
「降ろし、て」
「まだ歩いては駄目だ。傷が響く」
キラーの気遣いが、今は逆にランの気持ちを逆なでした。
「貴方達が攻撃したからよ……今すぐ、降ろさせてもらうわ」
有無を言わせぬランの声に、キラーはそれ以上何かを言うことはしなかった。
「っ、はっ……」
背中の怪我を庇いながらランはベッドから立ち上がる。
壁伝いに手を置き、ゆっくりと前に進む。
「うっ」
激痛に膝を付きそうになるが、なんとか耐えた。
ランが部屋を出ても、キラーが動くことはなかった。
何故見逃したのかは、わからない。
けれど、こちらからすれば好都合。
壁を頼りに木でできた廊下を進む。
「何歩いてんだ」
「ユ、ユースタス・キッド……!」
廊下を右に曲がった瞬間、悪の根源がいた。
「ベッドに戻れ」
「いやっ!来ないで!」
徐々に近いてくるキッドに唇を噛み、後ろへ後ずさる。
「別に危害を加えようなんて思っちゃいねぇよ」
「私は怪我したわよ!」
「お前は海兵で俺は海賊なんだぜ、そんなの当たり前だ」
「うるさい!」
「うるせぇのはこっちの台詞だ!」
キッドとランの言い合いに船にいる船員達が何事かとぞろぞろとやって来た。
「あんたのせいで人が集まってきたじゃない!」
「お前のせいだろーが!」
「とにかく私を降ろしなさいよっ!」
「断るってんだ!」
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