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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
03
毎日毎日、何が良くて悪くて、痛くて痛くなって。
どうすればいいのか判断なんていう感情が麻痺していく。

「私、ただ聞かれたから答えただけ……っ!」

「うるせえんだよこのクソ女!」

「あぐ!ごめ、さ」

「何度言えばわかんだ!」

怒鳴り声と殴られる音や髪を鷲巣噛まれる痛み。

「…………ごめん、なさい」

でも不思議と心の痛みはいつの間にかなくなっていて、知らずに涙が溢れる。
唯一の安らぎの時間は眠る時だけだった。

「あ、また居る」

夢だと分かっていても、いつもどこかに居る黒い獣を見ると胸が暖かい物に満たされる。
肉食動物だとしても何故か怖くなくて特別な存在。

「伝説の動物なんだね君」

(ブラックタイガー……)

別名クロトラとも呼ばれるトラは真っ黒で目は吸い込まれるようはトパーズ。
凛々しくて美しくて、そこにいるだけで壮大な風景を見ているよう。
クロトラと自分しかいない空間はいつも何もない世界。
それがとても心地良かった。
話し掛けても向こうはただ見つめ返してくるだけだったけれどその瞳がリーシャを見ていると思えば戦慄に似たものが身体中を駆け巡る。
現実に戻りたくない。
黒いトラに会えば会う程強くそう思うようになった。

「今日もね、私がやらかしてたくさん怒らせちゃったんだ」

親や周りの知人には絶対に言えないこともこの黒いトラには驚く程簡単に言えた。
相手に言葉を通じているかすらも危ういのだが、トラは静かに身の上の話を聞いてくれているように感じ更に関係のない中身のない話まで言ってしまう。

「この前食べたお菓子が凄い美味しくてね」

それを彼にも食べてもらいたくて渡すと食べた瞬間に床にぶちまけたのだがそんな事を忘れてしまう程ブラックタイガーとの時間は安らぎだった。

「貴方は本当に真っ黒で毛並みがツヤツヤしてるね」

ある日触りたくなって、でも触ると嫌がるかもしれないと思って出したくなる衝動を押さえて微笑。
それにちらりと目を向ける動作にドキリとした。






会社に行く為に毎日欠かさず定期券を持ち駅のホームに向かう。
そして仕事が終わると終電に乗る。
今日も彼が家で先に寝ているようにと祈りながら。

(誰も居ない)

駅のホームは閑散としていて、寂しくも感じた。

「おい」

「ひっ」

突然話し掛けられ後ろを向くと先程は誰も居なかった場所に男の人が立っていた。
頭に浮かんだのは変質者だとか暴漢だとか。

「んなに驚くな、まるで人を化けもんみてーに」

「?、すいません」

確かに失礼な態度を取ったのはこちらだが話し掛けてこられる理由も分からないのに怖がらない方が可笑しい。
そんな怪訝な感情が出ていたのか男性はファーの付いたアザラシ柄の帽子を上げる。

「!」

(格好いい……イケメンだ)

芸能人には特に興味もなくただ格好いいとしか感じないが目の前の人はオーラからして尋常なものではなかった。

「ちょっと暇なんで暇潰しに付き合え」

「え!」

(変人……!変質者!)

いきなり話を掛けられ初対面なのに馴れ馴れしくて唖然とする。
彼は徐にホームにある長椅子に座るとこちらをジッと見つめる。

「何してる、早くしろ」

(こわっ!)

瞳の色が黒ではなかったのでハーフだろうかと分析する。
それか留学生だろうか。
そもそも黄色がかった目等世界の人種にはいただろうかと疑問が飛び交う。

(もう、やけだ!)

走って逃げ出すことの出来る状況だったが暴力が日常となった生活で、最早自分はこれ以上落ちないだろうとでも思ったのかもしれない。
やけくそではなく諦めの方が合っている。

「え、と、お、お名前は?」

暇潰しという理由で誘ったのに一言も話さない。
恐る恐る尋ねると一拍置いて「ロー」と口が動く。
短いしどう聞いても海外の人だと分かる名前に、だから言葉が乱暴な物言いなのだと納得。
それなら無礼な態度も許せる。

(一人で留学とかしたら人肌が恋しくなったりホームシックとかになるかも)

一人で想像していると彼は目を細めて鈍行に帽子を被り直す。

「お前の名前は」

「メイス・リーシャです」

フルネームを名乗ると噛み砕くように名前だけを復唱するロー。

「ローさんは……あ、ローさんとお呼びしても構いませんか?」

「好きにしろ」

「ローさんは観光か何かですか?」

「あ?………………そんなもんだ」

意味が分からないと一度は顔を疑問に染めたが、固定する返事にそうなのかと嬉しくなる。
この国にはいい所があって、そこに遠い所から遙々やってきてもらえるのは、まるで自分を褒められたような気分になった。
そうして話していくうちに少し話しやすくなり、終電が来るまで話すと電車の扉が開き、立ち上がると彼の方を向く。

「………………あれ?」

忽然とその姿がまるで最初から居なかったかのように消えていた。
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