×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
20
ベッドの中で微睡(まどろ)んでいると髪を梳(す)く感覚にローが髪を触っているのだと思った。
うっすらと目を開いて見たらローの気配も姿も無かったので「あれ?」と首を傾げる。
もしかしてそのまま寝てしまったから大分前に起きたのかもしれない。
布団を手で退かしてから起きあがると欠伸(あくび)と背伸びが自然と起こる。
まだ眠気を伴っているが起きようと決めていたので顔を洗う為に立ち上がって洗面所へ向かうと寝癖の顔が鏡に写った。
昨日は良く眠れたと思い出しながら水を出して顔を洗う。
昨日はローもすんなり寝てくれて良かった。
ローやこの世界の人間の体の仕組みはとても不思議な事に少し刺されたり殴られたり叩かれたり焼かれたりと脳を狙わない事には治りも早い。
そこそこでは死なないのだ。
と言う事は体力もリーシャの世界とは違い並外れている。
少なくともあんな戦闘をしてしまうくらいは体力も精力もあるわけだ。
そのせいで、ローに付き合うと大変疲れる。
歩くのも走るのもそれ以外も同じ事を求められると出来ない。
それをローも理解しているのか走る時は担ぐ。
それかベポに担がれる。
鬼哭とか言う刀を所持しているローにその刀を持たせてと一度頼んだ事があるのだが、無理だ、お前には持てないと決めつけられてなかなか渡してくれなかった。
けれど、何とか頼み倒して持てば体も倒れたという有様。
床に倒れ切る前にローが支えてくれたから床とキッスは免れたが。
それからというもの、あの刀には極力触らないでいる。
いつあれが近くに倒れてきたらと思うと怖い。
ローはそうなる前にちゃんと掴むから心配はいらないと言うのだが、いくらローとはいえ人だ。
人は失敗やミスを必ず犯す。
なので、ちゃんとという言葉は到底信用出来ないので触れもしなければ近寄りもしない。
でも、大抵ローの近くにいるのが普通なので刀とは反対方向に行くし座る。
頭に当たるのも怖いけれど仕方がない。
回想をしていると食堂へ着いたので扉を開いた。
中ではいつものように皆が寛いでいるのかと思いきや、何だかある一点に集まっている。

「おはよー……どうしたの?」

「お。おそようリーシャ」

おそようと言うシャチに目を向ける。
因みにおそようは誤字ではない「遅いおはよう」で「おそよう」という冗談だ。
何かを話し合ってる船員達に混ざって見てみるとその光景に驚いた。

「え、何これ……!」

食材がかじられている。
それがご丁寧に全て。
散乱している状態で放置されている。

「朝からこんなんだったんだよなァ」

「ローは知ってるの?」

「知ってる。んで静かに怒りつつ犯人を探してっぞ」

「う、うわあ」

それを想像して苦笑。
シャチの話しでは怒っている証拠に虎となって船内を徘徊しているらしい。
滅多になってくれない黒虎、ブラックタイガーの姿になると言う事は緊急度が高いという事を意味する。

「船長『鼠が居るならお望み通り猫で狩ってやるよ』って絶対零度の空気を発してるから、あんま近付くなよ」

と、シャチに言われたが、早々にお目にかかれない黒虎を見るチャンスを逃すリーシャではない。
船員達が荒らされた食べ物に気を取られているのでそそくさと部屋を出てローを探しに行く事にする。
きっと夢に出てきた虎がのっそりと歩いているのだろうと考えると涎(よだれ)が出てきそうだ。
ふふふ、と笑みを浮かべながらあちこちに視線を彷徨わせるとグルル、という唸り声が聞こえてそこへ向かう。
確かに機嫌は良くなさそうでないな、と怒る虎の姿に身悶えした。
格好いい、スマート格好いい。

「あ、ロー!」

「お前か……起きたら来るだろうとは思ってた」

ローの後ろ姿に声を掛けるとあのテノールの人間の声で話しをしてくれた。

「いいなー、ローはその姿で話せるんだし。私も早く虎のまま喋れるようになりたい」

ローにそう告白すると彼は首を振る。

「喋れたらいざと言うとき困るぞ。正体がバレるリスクもある」

そんな忠告を聞きつつもローへ近寄ると彼は少し下がる。
それにつまらないと思いながら前へ進むとローも後ろへ下がるのエンドレス。
これじゃあキリがないと叫ぶ。

「抱きつかせてよっ!」

「この姿で抱きつかれると暑苦しい。断る」

一刀両断された。
不服だ、ローはリーシャが虎になると断りもなく抱き上げるのに。

「じゃあ私、虎になった時にローに抱かせてあげないんだからあっ」

そう言ってベッと顔を歪めて後ろを向き逃亡をする。
こうなったら言い逃げだ。
膨れっ面でべそをかいてやる。
ちょっとした野心でそう決めて去ろうとすると後ろから重力が掛かる。

「言い逃げとは賢くないな」

明らかに笑っている声音で背中に乗ってくる。
押し倒されて、痛くはないが重い。
うわーっと暴れるがダメージを受けているのはこちらだろう。
もう、とやけくそになり子虎子虎、と念じれば内なる何かが熱くなっていき目を開けると視界が低くなっていた。
小さくなった反動でローの体重が掛からなくなって自由となる。
それに慌てて体勢を立て直すとローを見上げて唸った。

「ギャンギャン!」

「何言ってんのかさっぱりだ」

虎語を理解出来ないローは虎ではないと言ってもそれさえ伝わらない、かなりもどかしい思いをした。
重みから解放されてのは良かったがまた人間に戻ろうかと体勢を立て直して戻れ〜と念じる。

「待て」

「ギャンギャン!」

ふぎゅ、と彼が足でこちらの小さな身体を押さえて妨害してくる。
文句を言うと文句を言っているのだろうとは雰囲気で通じているだろう。
足を退かせ退かせと訴えているとローから背中に乗れと言われて獣耳をピンッと立てる。

「一度で聞け。背中に乗れ」

その夢のような台詞に嬉々としてローの背中によじ登る。
その最中に足で脇腹を蹴ったりしたけれど何かを言われる事はなかった。
人間ならおんぶの状態で進行を始めたリーシャはかなり御機嫌になる。
人間の時には絶対にしないような態勢だからだ。
虎になっている時は緩くなるようだ、彼も。
この一時を満喫しているといきなりローが走り出す。
しかもかなりのスピードで振り落とされそうになった。
人間の手では無いので、掴まる事も出来ない。
手でしがみつき四体で揺れが収まるのを待つ。

「チュー!?チッチュイ!」

耳に飛び込んできた鳴き声に目を開ける。
息を整えつつローの顔の方へ移動すると彼の口にネズミが居た。
詳しく言うと加えていた。

(ネズミは不衛生なのにー!)

何かの病原菌を持っている生物と聞いた事がある。
慌てて放すように言おうとするが、その前にネズミが人間に変わった。
すかさず前足で取り押さえるローに動じないんだと感心。
ローは虎のまま人間を押さえている間、人間はこちらが可哀想に思うくらい蒼白になった。

「待って下さい旦那!食料の件は謝りますんで!許してくだせえー!」

初めは性別が分からなかったが、声を聞いたら女だと知る。
相手はどうやら能力者という物だと、後から騒ぎに駆けつけてきた船員達から教えてもらう。
そして事件は呆気なく幕を閉じたのだった。
_20/21
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ TOP ]