冬島の最後の昼に酒場へ連れていかれた。
夜のお店とは違い健全というか普通の場所だ。
ビールを片手に飲むローに少し飲ませてとせがむと彼は馬鹿にした声で無理すんなと言うがたまに彼等が飲んでいるとつい美味しそうに思えてしまう。
ビールを半ば奪う形で手元に納めるとちびっと舐める。
「う"」
「だから言っただろーが」
呻くと仲間達の笑い声が耳に入る。
「飲めないのに飲むなんてリーシャは物好きだな」
ベポに言われ、今だ苦い味が口内を占める。
舌を出して逃れようと必死になっているとテーブルの奥からコップが滑ってこちらへ来た。
まるで映画のワンシーンのような光景に向こうを見るとバンダナを付けた船員がこちらに顔を向けて「口直しだ」と叫ぶ。
不透明なものを口に含むとふわりとピーチの味がした。
「カクテルっぽい」
「これに懲りたら次はなけなしに飲んだりするなよ」
ローの注意に不貞腐れる思いで分かったと言い、ピーチ風味のお酒を彼に進めてみる。
「ジュースはいらねェ」
「アルコール四パーセントでも立派なお酒っ」
「いや、ジュースだ」
頑なに譲らない彼にムスッとなる。
ビールは苦すぎて無理。
ワインも無理な自分にはこれぐらいしか飲めない。
日常的にお酒を嗜(たしな)む彼等とは比べるのも可笑しな話だ。
「ふーんだあ」
「わざわざ口に出すもんでもねーだろ」
「言わないと不満だって気付かないかと思って」
「なんだそりゃあ」
くくく、と笑みを浮かべるローにほんわりとしたものが胸に落ちた。
冬島を出て次の島へ行く途中、船の中でリーシャは一人小麦粉に囲まれクッキングをしていた。
「ふふふ……ギャフンとか言わないだろうけど一泡吹かせるぞー」
内心ほくそ笑み、数々の自分の買い物を邪魔したローに報いを受けさせたいと、とある料理を作っていた。
きっと本人は嫌な顔を浮かべるだろうとくすくすと笑う。
水と混ぜて固形になると練り、形を作り具を混ぜる。
そして焼けば完成だ。
これを持っていく頃には二時間以上も厨房へ籠っていた。
コックに厨房を貸してもらったお礼を伝えると彼は苦笑して完成品を見る。
「あんたもよくやるなァ……ま、バラバラにされても誰かがくっ付けてくれるだろ」
「こう見えてバラされたことは滅多にないんですよ?」
あるのはローに初めて能力をお披露目された時くらいだ。
お仕置きの殆んどはアレなのでバラバラにされないだけだろうが。
しかし、リーシャにはお仕置きを回避する策があるので今回は自信を持って船長室に行ける。
コックに見送られ部屋に行くとローが本を読んでいた。
開くのと同時にこちらへ向き首を傾げ、どうしたと聞かれにんまりと笑う。
「実はローに食べてもらいたいものがあってね」
「何をだ」
「こ、れ」
と語尾にハートマークを付ける、ハートの海賊団だけに。
「…………あ"?」
随分と声を低くして返ってきた返事に押されながらも、ローの前まで行って作った『パン』を差し出す。
ギロリとあまり見ない気迫のマジギレ寸前の顔にビビる。
(流石(さすが)に何十回目となるとこうなるか)
「ていうのは……」
冗談だと言おうすればパンを掠め取るロー。
その行動に目を丸くすれば彼はにやりと笑う。
「お前が食え」
「……え」
「俺が嫌いだと解ってる上で作ったんだろ?当然お前が消費するべきだ」
別にローが嫌なら船員に分ける手筈なのだが彼の意図が分からない。
「お前……自分が生理だから俺に咎められないって計算だろ」
冷や汗とバレた計画に言葉が出ない。
ヤバいと、部屋を出ようとすれば扉に先に手を付けたのは浅黒い手。
硬直すれば顔にも手が近寄るのが視界に写り、パンのちぎった物を口に詰め込まれる。
むぐっと食べるしかなくなった物をモグモグと食べるとローが楽しそうにリーシャの首へ噛みつく。
「いふ!」
口の呂律が回らず軽い衝撃に反射的に出したがあまり痛くはなく、噛まれた感覚に震える。
「する以外でも仕置きの方法なんてお前が思い付くよりも腐る程ある」
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