あのコタツぬくぬく団らんの件から三日後にベポの言う極寒の島についた。
一年中雪や氷が絶えない島『シェイキ島』。
リーシャの頭に浮かぶのは冷たい飲料水で、まさに由来はそこら辺だろうと検討を付ける。
「さむさむさむさむさむ!!」
「うるせェ。少しくらい静かに寒がれねーのか」
「ううううう!静かに寒がれってなあにっ。無理無理!寒すぎて口を開かないと唇凍りそう!ローは見た目が今日は違うね……」
そのまま閉じればいいという辛辣な言葉をスルー。
コートに目を付け、入らせてと頼む。
「残念、乗員オーバーだ」
全く残念がってないローにムスッとなる。
「ローのケチんぼっ。妻が嫁が寒いと凍えているのに旦那がこの島のように冷たい……ああ、私はどこへ向かえばいいの?」
詩を読むように悲劇を気取っていれば船員達の笑い声が起こる。
ローもはいはいと適当に答えまともに取り合ってくれない。
こうなれば片方の空いている彼の手を取りそのコートのポケットへ一緒に入れる。
最初は驚いたらしい様子のローだったが振り払う事はされずホッとしながらもギュッと中で手を恋人繋ぎにしてみた。
(夫婦って永遠の恋人って言うし夫婦でもこういうのありだよねっ)
恥ずかしくも幸せだ。
ローに初めて異世界へ連れて来られた時は本気で路頭に迷いどうしようかと悩んでいたが、彼が一緒に来いと言ってくれてとても嬉しくて、感極まりその手をキツく握った。
そして黒い虎になれるのもちゃんと説明してもらい、リーシャの居た世界を渡る際にトリップ要素で可笑しなおまけを付けられたらしい。
それから二日と待たずリーシャ自身もこの世界に渡りローと同じく白い虎、ホワイトタイガーになれる事を知る。
元の世界に帰りたいかと言われれば少しくらい未練はあれど帰りたいとは思わない。
「ロー」
「ん?」
皆には聞こえない声音で小さな秘密を告げる。
「私、この世界にこれて……ローのお嫁さんになれて凄く幸せ」
「……当然だ」
照れたのか寒さのせいか、彼の目の下がほんのりと赤くなっていて、それにリーシャはニヒッと笑いかけた。
島の入り口に到着すると人々の服装は冬の地域に居そうな、フードを被り暖かそうな分厚さをしている上着を着用していた。
確かに寒さに慣れているからと半袖ではないようだ。
それを見ながら観光客用の店を見つけ自分の上着をローに買ってもらう。
生憎自分で小遣いを稼げる手段を持っておらず、旦那に出してもらうしか術がない。
最初の頃はそれこそ渋って彼が夫婦なのだから遠慮はいらないと口を酸っぱくさせて言っていた意味が今なら少し分かる。
遠慮なんてしていたらいつまでも距離は縮まないしグランドラインでは生きていけなかったと感じた。
「でもやっぱり……ね、ロー。次の島のログが一週間以上あったらバイトしていい?」
「たんまり金はある。必要ない」
「自分の小遣いで買いたいっ」
幾度となくその話題を出しては却下される。
いい加減自分を子供のように扱うのも止めて欲しいのだ。
譲れない交渉に彼の眼を見つめると相手は短く溜め息を溢す。
「……それについてはそれまでに考えてやる。それでいいか」
「うん、さすがは!話が早い」
嬉しさに後ろにいる船員達にやったよと伝えると皆良かったなと答えてくれた。
買ってもらった上着を着て外へ改めて繰り出すと先程とは全然違う気温に感嘆の声を上げる。
「寒くない!暖かいっ」
帰ったら即コタツに入ろうと思いながら次の店に入る。
船上での生活に必要な物や補給の品を買っていく。
全て終える頃には夕方になっていたのでホテルへ向かい泊まる事となる。
雪の島のホテルには個室の湯槽がありわくわくとそれを眺めた。
二人一つの部屋というものにはもう慣れ、ローとリーシャで一組というのも定番となっている。
「部屋暖かくて良かったー。ねえねえ、ご飯もう直ぐかな?」
待ちきれなくて尋ねてみたローは刀と帽子を横に置き和式のテーブルに手を付いて本を捲っていた。
いつ見ても面白い髪型だ。
「六時に持ってくるんだと……お前はこういうのに対していつまでもはしゃぐな」
「だって毎回旅行気分になれるし!」
「別に悪かねーがな……」
クスッと笑う彼にドキッとする。
その途端急に顔が見れなくなり俯くとローがどうしたと聞いてきて何でもないと言う。
だが諦めてはもらえなかったようでこちらへ近付く衣擦れの音。
「意識してんのか」
凄く楽しそうな試す声で聞かれしてないと反射的に答える。
すると後ろから抱きすくめられる感触に更に自身の鼓動が激しく鳴る。
「可愛いやつ」
普段言わない台詞を言うのはリーシャが恥ずかしがるのを分かっているが故。
なのにやはり期待に自然と答えるように顔は赤くなる。
突っぱねても全く一ミリも動かない腕。
すると服の隙間に手を差し込まれうなじにキスを落としてきたロー。
驚いてダメだと言うが聞く気もない雰囲気の男の愛撫は止まらない。
欲を放つ息を背中に感じふるりと震える。
自分も嫌だと言いながらも本心は彼を欲し、求められたいと願う。
「汗かいたからお風呂入りたい……」
せめてもの悪足掻きに意見を唱えるとローは服を本格的に脱がしてきた。
「一緒に入るか」
「……う、うん」
いつまで経っても求められる事に慣れない自分に不安になる。
「俺がお前のを脱がすから俺の服はお前が脱がせろ」
あの、彼の服を脱がせる合間の自分のやっている行為の羞恥心にまみれた顔をローがいつも面白そうに高みの見物をしている事は知っていたので、内心凄く意地悪な男にいつも翻弄されると白旗を早くも振った。
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