水がチャプッと跳ねる音に意識が戻る。
どうやら気を失っていたようで数回目をしばたかせた。
板の感触に木の香り。
全てが初めて嗅ぐ香りで潮の香りもした。
「ん、う……っ……私、一体……」
少し前の事を思い出そうしてそういえば暗闇に突き落とされたり彼氏に殺されかけたりと目まぐるしい記憶に不運だと嘆きたくなる。
「……海?」
瀬戸内海でも来てしまったのかと夢遊病を疑いたくなる光景に唖然。
見たことのない場所。
カサリと後ろにある茂みが揺れ反射的に誰!?と叫ぶ。
「え、え!?う、うう」
言葉を出したくても出ない。
黒い虎がそこにいた。
パソコンで夢のブラックタイガーを調べてみたのだけれど誰も見たことのない幻の虎が目の前にいる。
怖さよりも不思議な感情が湧き起こるのは夢で何度も見てこの虎は自分の脅威ではないと本能的に判断したからだろう。
「貴方……夢で会ったことある」
そう話しかけると急に虎が白い煙に包まれる。
小さく悲鳴を上げて顔を煙から守るように手を覆う。
やがて晴れていく。
そこに居たのは黒い虎ではなくて。
「……ローさん?」
「探した」
そう言われ探させてしまったと申し訳なくなる。
「私今まで意識がなかったので……えと、今虎が居たんですけど……見ませ」
「俺がその黒い虎だ」
「…………へ?」
その事実はどう考えても非現実でどう答えようかと考えるがその前にもっと重要な事がある。
「あの、ここ……どこか知ってます?」
「ノースブルー」
「の、のーす?ぶ?」
「ここは」
異世界だ。
そう告げられた時、何故か疑う気持ちも嘘だという事も頭にはなくて。
ローが幾度となく神出鬼没に現れる理由やあの真っ黒な暗闇に落ちたことが現実だと、自分の中にある自分は悟ったのだと思う。
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