「さみーさみィ〜!……あん?」
食堂へ来たシャチは見た事のない物に入っているリーシャを見つけ首を傾げた。
物体の上にはザルに入ったみかん。
「あー……おいリーシャ……」
「ん……あ、シャチさん!……気付かなかった……どうしたの、これ睨んで」
サングラスで分かり難(にく)いシャチの眼光は一点を見つめ怪訝に見ている。
何故なら本当に不審な物体だからだ。
「それ、何だ」
「これはコタツ。暖房器具」
「こたつう?これが暖かいのかァ?」
「うん、私と同じ様に入ってみたら分かるよ……噛み付いたりなんてしないからさ」
「別にビビってる訳じゃねーしっ」
顔を赤くして内なる怯えを隠し、シャチは得体の知れない物に恐る恐る近付いていった。
***
船内に異常はないかチェックし、小腹が空いたのでコックに何か頼もうと食堂への扉を開け、閉めた。
(俺は今何を見たんだ)
幻かと思いもう一度開けるが先程と同じ光景が目に入る。
「やべええ。何これすげェ幸せ」
「でしょ〜。ここから出られなくなるよねえ」
「何だこれは、そして何をしてるんだ」
「お、ペンギ〜ン」
「良い所に……ペンギンさんも入りなよ。暖かくて生き返るから」
ペンギンは不審な物体を見ながらふやけたように顔を綻ばせた両者に首を傾げる。
「暖かい……?その下には何か発熱するものでもあるのか?」
「初回の見解なんて役に立たねーもんだから体験しちまえば分かるぜ!」
シャチが仕切りに進めてくるので危ないものではなさそうだ、と思うものの腰が引ける。
二人に服を引っ張られ恐る恐る近付いて、そろりと布団らしき物を手にかけた。
***
ローが寝ている間にリーシャとコタツが忽然と消えていたので、行きそうな場所を回る。
もしかしたら食堂に居るのかもしれないと考えそこへ向かった。
「まさかお前らが居るとは」
扉を開けると三人揃ってコタツにハマっていた。
まあコタツの見えない魔力に逆らえる奴なんてそうそう居ない。
ふやけた顔をするシャチとリーシャは分かるとして、ペンギンまでも捕まったとは少し予想外だった。
「出ようとしても何故か身体が動かなくて……」
「あはは!コタツってそんなもんだよペンギンさん」
「そうだぜペンギン。寧ろ出る理由もないから居たらいーと思うぞ」
シャチがうとうとしながら言えば彼女もぬくぬくしながら頷く。
唸るペンギンも珍しく、笑ってしまう。
「ローも入る?」
「俺が入れるスペースはもう無さげだが」
「私を膝の上に乗せればいいよ、ね、ロー」
「頭までふやけたか……」
「ひどっ、もういい。じゃあ今の」
「拗ねんな。今行ってやるよ……フフフ」
そうして、人前なのに密着する事を珍しく許した彼女にローもたまには見せつけとくのも大事かとリーシャを膝に座らせ、剥いたのであろうみかんを横からかっ拐う。
「私のみかんがっ」
「足りねー。次剥け」
「ええー」
「早く剥かねえとお前の服が剥けるかもな」
「さて、剥くぞー……シャチ君達も手伝ってね……」
涙目で二人に頼めば三人がひたすらみかんの皮を向くという光景が船員達に目撃され、彼等の暫しの噂と話題の的になった。
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