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- ナノ -
09
「ったあ……」

消毒液を傷に押し宛ながら苦痛に声が漏れる。
足と腕に痛々しい痣が出来てしまいどう隠そうか悩む。
これを誰にも見られたくなくて必死にガーゼを貼る。

「今日のは」

(もう八つ当たり)

帰ってこれば彼はお酒臭くて酔っているのだと直ぐに分かった。
けれど感情を隠そうともしない彼は逃げ出せば追ってきそうで簡単に隙を見せられない。
コンビニに行ってくると言ってみたもののそれが引き金となったのかいきなり怒りだす。

『俺から逃げるのか!?』

『違う!ただコンビニに』

それからは話させてもらえず殴られたりした。
今は彼も疲れたのか眠りについていて自分で手当てをしている。
涙が出そうになりここで泣きたくなくて外へそっと出た。
あの公園へ行けば気持ちも落ち着くかもしれない。
そう思うといつの間にか自然と足が動いていた。
ベンチに座り僅かな電灯が身体を照らすのを感じ静かに涙を溢す。
ひくりひくりと喉を震わせ音もなく泣く。
きっとそれなりに泣いてしまえば近所迷惑になる。

「お前」

「!、わ!びっくり……した」

いきなり声が近くで聞こえ反射的に上を向くとローが目の前に立っていて怒っているように見えた。
一応こんな時間なのでこんばんわと挨拶すると座るぞと言われ呆けながら頷く。
そういえば彼もこの近くに住んでいたのだった。

「ローさんも散歩ですか」

「そんなところだ」

そう無機質に言う彼の声は荒れきった心を不思議と潤わせた。

「お前は異世界を信じるか」

かなり唐突でやっぱり電波系なのかと思いそれならと答える。

「そうですね……信じるかと言うよりあるなら行ってみたいです」

「海賊は」

「海賊?今でもいますよね?」

「今じゃなく異世界の海賊だ」

「それは……少し興味があります。今はパイレーツブームですからね」

正確には少し前までだがまだ冷めたわけではないので付け加えておく。
映画や本で取り上げられていたり小説なんかで御姫様と海賊、聖女と海賊という組み合わせはよくある。
そういうのは憧れはするし読めば羨ましい出会いだとドキドキするがあくまでそれだけだ。
非現実であるからこそ憧れる。

「海賊は自由ですしね……生き方は悪くないと思います……テレビとかの人達の話ですけど」

「テレビ?……まァお前が海賊に抵抗がないなら構わねェ」

そうローは納得したかの様に言う。

「ローさんは海賊とか好きなんですか」

「嫌いならやってねェ」

ボソッと聞こえた呟きは殆んど聞き取れない。

「普通だ」

「あ、ですよねっ。異世界を旅してみたい気持ち分かります」

「文化も全くちげえしな」

「文化もですよね…………え?」

言葉に違和感を感じローを見ると再びデジャヴュのように彼の姿はどこにもなかった。

「幽霊なのかな……なんて、まさか」

こうも続けてポカリと居なくなられると背筋も凍るところだがまた現れて欲しいと願うリーシャだった。



***



ガタガタと震える身体にやはり極寒は嫌だとひしひしと感じた。

「どんだけ着込むんだ」

「この寒さが、なく、なるまでっ……ローは、ささ、寒くない!?」

「冬島出身だからこんなもんには慣れた」

「うわ、ずる……私も今すぐローみたく慣れたい。今すぐっ」

無理だろと正論を言うローの言葉等今はそんな言葉は必要ではなく欲しいのはコタツ。
そう、コタツ。
そこまで思うとふとある事を思い出してパッと座っていたソファから立ち上がる。

「コタツ!そうコタツ!買ったよ確か。ね、ロー。船に乗る前に昔買ったよね暖房器具!」

「買ったんじゃなくお前が町の大工に作らせたの間違いな」

「えへへ!だって大工に暖房器具が作れるなんて能力が付いてるなんてまさか想像も出来なかったから!でも腕は確かだよね」

ウォーターセブンだとかいう町でコタツを作ってもらった。
どの大工もごつくて怖かったが見た目なんて気にならない程仕事も早くて完璧だったのを覚えている。
そこで新しい船を調達する時にこれ幸いとダメ元で作ってもらったのだが、これがまた完成度が凄い。
現代で売っているようなコタツよりも多くの機能を備えたもので倉庫に今まで放置していた。
こんな極寒は初めてなのでついに出す時が来たということか。
わくわくしながら何処に置こうか考えているとローがここでも良いと許可をくれる。

「でも狭くなるけど……ははあーん……さてはローも本当は寒い」

「……そんなに俺に暖められたいのか?」

「そ、そういう脅しは卑怯!ていうか、取り敢えず出してくる、うん!」

悪寒を感じ、直ぐにローから離れる口実を作り、部屋を出ると真っ直ぐ倉庫へ行く。
部屋を開けると埃臭さに眉をしかめ、これはコタツを直ぐに使えないかもしれないと思い探索し始める。
これでもないあれでもないと探すと、やがて分厚い布団らしきものと木製のテーブルが出てきた。
下を見れば網で囲ってある、熱を発する電気器具が付いているのでコタツに間違いない。
見つけられた嬉しさでつい寒さを忘れていたのか身体が震える。
寒くて悴んだ手を擦り合わせコタツ一式をローの部屋へ運ぶ。

「時間が掛かりすぎだ……冷えてんのも分かんねェのか」

お叱りを受けた。

「でもこうやって見つけてきたし」

電源も入れ、ジワジワと暖かくなる中。
幸せな心地でぽわぽわしているとローが後ろから抱き締めてきて驚く。

「俺の話は聞け」

「ほらやっぱりローも寒いんだあ」

「……一度忠告したんだがな」

ゾワリとなる声音に後ろを向けない。

「コタツよりも高温だ。喜べ」

「今はコタツを愛してるから……」

プチリと服のボタンが外される。

「浮気宣言か?夫を差し置く奴は仕置きだ……」

くつりと笑う彼はリーシャを優しくコタツから引き摺り出した。
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