(痛い……痣になってる)
青黒く変色した腕の打撲痕を見ながら夏にしては長い袖の服で隠す。
そっと蓋をするように隠すといつも行く公園に向かう。
今日はもう彼の機嫌が直りそうにないので夜まで暇を潰そう。
そう思いながらミンミンゼミの鳴き声を聞きながら道を歩く。
「ベンチ暑そう」
ジリジリと照り付く太陽に晒された青い古びたベンチを想像して帽子くらいは被ってこれば良かったと後悔。
「あ、座ってる人がいる」
遊ぶ子供はたまにちらほら見掛けるが、どう見ても成人してそうな人が座る予定だったベンチに居た。
暑くはないのだろうかと思うような季節外れの帽子を被っていて半袖よりも中途半端な長袖にジーンズを履いた姿。
ここまで来て帰るという選択肢を持っていないのでベンチに座る為にそこへ近付いた。
その人は男の人らしくベンチを大々的に全体を使って座っていた。
(わざわざ座ってもいいですかとか言えない……)
そんな漫画のような台詞は現代では使わないので簡単に出てこない。
迷っているとその男性の視界に写ったのかこちらを向く。
「何か用ならさっさと話かけろ」
「え、あ、あの……え?」
(なんかいきなり意味の分からないことを……命令口調とか)
頭がアレな人だと瞬時に理解し何でもありませんと早口に捲し立てると踵を返す。
すると、彼は呼び止めた。
「数週間で俺の顔を忘れたのか?」
「??……えと、どこかで」
お会いしましたかと言おうとしたのだが彼が顔を上げ不発に終わる。
この顔は先日終電のホームで話し掛けてきた不良の人。
「えっ、もしかして……ローさん!?」
「そのもしかしてだ」
皮肉った言い方はまさに本人だ。
確かに雰囲気はその人特有だったので近寄り難かった。
不審者じゃなくて良かったと胸を撫で下ろす。
顔見知りと分かればリーシャはベンチへ座ってもいいかと尋ねられ彼は無言で身体をずらした。
「この近くに住んでいるんですか?」
「ああ」
「わ、それにしても偶然ですね!私も近くで良くここに来るんですよ」
「一人でか」
「いえ、二人で……」
「母親とか」
「実家は遠いので、えっと、彼氏とです」
「へェ、そりゃ残念だ」
「そんな、冗談が上手いですね」
「お前はこんな所で散歩か」
そう聞かれて頷く。
彼氏に追い出されてここに居るなんて恥ずかしくて言えなかった。
(恥ずかしい……?)
そこで疑問が湧く。
だって自分は彼氏が好きで、あの人が殴るのはリーシャの事を思って……。
なのに恥ずかしい等、だだ彼が殴る事を人に知られるのは沽券(こけん)に関わるから隠す。
「楽しいか」
「え?」
そう問われて顔を上げれば、またローと言う人の姿はどこにもなく、自分だけがベンチに最初から一人だったかのように感じ、生温い風も今は感傷的な気持ちを膨らませるだけだった。
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