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64
お昼になると食堂から良い香りが漂ってくるのは『そろそろ食堂へ』という案内だ。
睡眠を貪っていたリーシャですらその匂いに誘導されて目を覚まし食堂へ向かってしまう。
抗い難い香りだ、全く。
けしからんと思いながら廊下を進んでいるとシャチと出会う。
彼も部屋を出たばかりらしく平行して並ぶ。

「おー、もしかして寝起き?」

「分かります?ええ、今起きたばかりで」

シャチは何かを部屋でやっていたらしい。
エロ本でも朗読していたのだろうと勝手に思わせてもらう。

「お前さ、何か俺で変な事考えてね?何か甚だしい気配が肌を逆立ててんだけど」

「さあ?」

すっとぼけた、触らぬ神に祟り無しだ。

「それよりも、良い香りですよねえ」

「だな。これはチャーハンとかそっちかな」

「マーボーかもしれませんよ、中華っぽいですよね」

くんくんと鼻を動かす。
匂いでもう生唾ものだ。
シャチとリーシャは共に食堂へ入った。
既にヨーコも席に着いており食べていたのでおはようを言う。

「おはよ。寝癖付いてるし」

「え?……別に気にならない」

指摘されたが放置だ。

「しなさい。てか、女子なんだから私が許さないわよっ」

どこから取り出したのか片手にブラシを持ったヨーコに追いかけられた。
ひえ、と逃げようとするが身体能力が低いリーシャ等簡単に捕まる。
敢え無く捕獲されて髪を梳かれた。
グシグシと髪がブラシによって整えられていく。

「たくっ、髪がいいんだから少しは身嗜みに気をつけなさいよ」

ヨーコが何かを言っている、右から左に聞き流すを行使した。

(お腹空いた)

朝を食べていないので空腹が訴えている。
トレーを取りに行き今日のメニューを乗せてから席へまた着く。
食べ出すとパクパクと手が止まらなくなる。
空腹というもののせいだ。
食べていると食堂の扉が開いてローが顔を見せる。
彼も今まで寝ていたらしい。
少し、いや、かなり寝癖が凄い事になっている。
元から凄かったが、更に爆発していた。
その頭を鑑賞しながら黙々とご飯を口に入れていく。

「何だ?俺の良さに惚れ惚れしてるのか?」

「…………え?あ、すいません。ちょっと聞いてませんでした。何と仰りました?」

ぼやっとしていたので聞いていなかった。
謝って再度尋ねるもローは黙りこくり何も言わず席に座る。
隣に鎮座していたシャチが惨いものを見るかのように「質悪いなっ」と悲観していたが何の事を言っているのか全く分からない。
シャチの心の中など覗けないので意味の分からない呟きはスルーしておく。
何の事か分からないものは放置するのが一般的だ。
ヨーコは他の船員とお喋りしているのを見てここの船にも慣れたな、と思った。
初めてこの船と接触した二人は当初怯えてリーシャの後ろから付いてきたのを今でも鮮明に思い出す。
それを考えれば慣れた行動も何もかも逞しくなったとしみじみ思う。
あんなに女子高生の見本を体現していたマイもヨーコも一般人に負けないくらいタフになった。
強いし、新世界へ渡っていられるのも彼女達の協力あってのものだ。
別に新世界が嫌になれば逆走したりして故郷に連れて帰ればいいやと軽く考えていた。
リーシャの中ではまだ彼女達はただの女子高生という認識なので無理をさせる訳もない。
普通に生きて、出来れば早めに元の世界へ戻らせたいが戻らせ方を知らないのでどうにも歯痒かった。
彼女達はこの世界を満喫しているが、人の心と言うのは時に自分自身ですら分からない、不透明な事もあるので彼女達の本心イコール本音とも限らない。
大丈夫と思っていても心の底は寂しさや悲しさ、故郷に帰りたいと望んでいる可能性もある。
それを知る方法は今の所ないし、無理矢理聞く事もないが、二人には心のゆとりを作って欲しくて旅という選択肢を取っていた。
何も考えも無しに旅に同行している訳ではないのだリーシャは。
二人には既に個々の力があって航海も出来ているが、初めて会ったよしみでどうも見放せない。
リーシャにとっても二人は友人以上の存在になっているのは認めざるおえなかった。
二人に何かあれば自分の神経は破裂するかもしれないとすら思う。
責めてしまう、己を。
そうならない為に彼女らに陸地に住居を構えるように進めるが彼女達はリーシャに付いていくと言って頑ななのでこれからも旅をしていく予定だ。
宛てもない旅だがそれなりに充実しているのは紛れもない事実なのだし。
楽しげに笑う彼女達を眺めてそう感じた。

「何ニヤニヤしてんだ?」

「女の顔をジロジロ見ちゃいけませんよシャチさん」

不躾にも指摘してくるシャチに述べて最後の一口を飲み込んだ。



この時期にマラソン大会が行われると聞いたのは偶然であった。
働いているお店の接客令嬢がお客に話す話題は一貫している方が楽だし。
と、言う理由でリーシャにも教えてくれた。
大会はもう直ぐなので飛び入り参加も出来るらしく、その内容で盛り上げようと店側は決めていた。
マイとヨーコが出たがりそうな大会だなあ、と思ってお店が終わった翌朝に話してみると参加したいと意気込む二人。
砂の上を走るだけというシンプルな競技ではあるが、気温は高くて汗もだくだくになるのだと説明しても首を横に振らない。

(話したのは失敗か)

船員達もどこから聞きつけたのか参加すると言い出して空気はもう歓迎ムード一色である。
普通女子高生というものは汗をかきたがらないものだろうというのはまあ、偏見ではあるが、恐らく自分達の力量を計りたいが為の参加なのだろう。
勿論リーシャはサポート役だ。
走ったらリタイア出来る自信しかない。
楽しそうにその日の事を話し出す二人と船員達を後目に(賑やかだな)と思いつつローの居る部屋へ向かった。

「何です?呼び出して」

お呼ばれしていた、何故かは分からない。
身体を、と言われたら回れ右をする所存であります。

「そんなに警戒するな……ただ、確認してェ事があってな」

「何です?」

少し距離を保ち返事を待つ。

「海軍をお前はどう思ってる?」

「海軍?えっと……特にどうとも思ってはいませんよ?」

「本当か?」

「??、ええ」

チンプンカンプンな問いに、何の感情も乗せずに答えた。

(質問の意図がさっぱりだ)

ローはそれだけ聞くと「ならいい」とそれ以上何か言う事はなかった。



夜になってからこっそり船を抜け出してオアシスと呼ばれる湖へ向かう。

−−パシャッ

左右を見て下着姿になって、中へ入るとひんやりしていた。
夜の砂漠は寒いと聞くが、この島の砂漠は暑くはないが寒くもないので丁度良い冷たさだ。
チャプンチャプンと水で楽しんでいると人影が視界の隅を掠った気がしてハッと周りに目を向ける。
夜の外は危険だとは理解しているが白昼堂々と水の中へ入れる度胸もないので夜中に入ったのだ。

「良い身体してんなァ」

「!?」

バッと横を見ると見た事のない男が立ってこちらを嘗めるように見ていた。
こんなに堂々と見るなんて常習犯なのだろう。
急いで陸へ上がろうとすると刃の煌めきが目の前に迫る。

「声を出そうなんて思うな?」

ゲスい笑みを浮かべて脅してくる。
剣を持ち出すなんて本物の変態だ。
男はにじり寄ってきて水の中へ入ってきた。

「お前は死んでおけ」

「ぐああ!」

「ひゃっ」

突然目の前に居る変態が横に飛んだ。
正確には吹き飛んだが正解だろう。
男が目の前から消えたと思えばその後ろに見覚えのあるシルエット。

「一人で夜遊びするのは馬鹿のする事だ」

「ロー……さん。え?何故此処に?」

イエローブラウンの瞳が揺らめいている。

(視線が凄い)

こちらをじっくり見ているような気配に苦笑する。

「俺も入る」

退かした変態を放置してローは突然服を脱いで上半身を晒した。
遠慮なんてものもなくザブンと浸水してくる。

「安心しろ。此処で致そうなんて思っちゃいねェ」

出ようかと迷っていると口角を上げてそう宣言してくる相手にどぎまぎする。

「あの、そもそも何故ここに」

「俺も入ろうと思ったから」

さっきから同じ事しか聞いていない。
ローは何食わぬ顔でお尻を触るので仕返しにお尻をムギュウと掴む。

(固い……!)

流石に鍛えているだけはある。
ローはリーシャの仕返しに目を丸くしてから薄っすらと笑った。
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