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62
その日は、いつもの様に海を進んで順風満帆で清々しいお昼時。
前触れは特に無かった。
初めに気付いたのは三人の中で釣りが一番上手くなったヨーコである。
ヨーコは今釣り竿に掛かっている魚がとても重くて持ち上げられないと二人に助けを求めてきた。
三人揃って引っ張っているとリーシャは視界の横に写る黄色い潜水艦を認識した瞬間、釣り竿を引いていたソレはブクブクと音を立てて、海の海上を丸く膨らませて水飛沫を上げる。
その音に目を前に向けると視界に白い物体が飛び込んで来た。

「ク、クラゲええええ!?」

叫んだ、喉がヒリヒリした。

「ええ!何でこんなのが釣り餌に引っかかるのよっ!?」

ヨーコが冷や汗をかきながら、マイは絶句しているようだ。
三人でその相手に固まっているとヌルヌルした腕らしい触手がユラユラと海の中かから姿を現してリーシャに向かって伸びてきた。
マイとヨーコの声が聞こえる頃にはその触手に絡まれて上へ持ち上げられていたので視界が反転。

「ちょ、うわああ!」

「リーシャ!」

「リーシャさーん!?」

二人の叫び声に捕まった事を理解。
ウネウネと視界が動く。
相手が大きすぎて海や船が遠い。
落ちたらそれなりに痛そうだ。
マイとヨーコの二人は頑張ってこちらを助けようとするが幾つもの触手が阻害して直ぐにどうこう出来そうにないとリーシャですら他人事のように思った。
それにしてこの高さからならばあの黄色い物体である海賊船も良く見える。
きっとこちらの様子を窺っているのだろう。



***



ハートside

「あっ、こっち見た!」

「マジ!?つーかこっちにも寄越せっ」

「ああ!ずりィ!俺も見たい!」

双眼鏡を取り合う船員達を尻目にローはギリィ、と歯を慣らしていた。

「不幸体質にも限度ってもんがあるだろ……!」

半ば吐き捨てるように言う船長の纏う黒いオーラにベポはオロオロとなる。
いつもはキリッとして立つ事や寝ている事が多いベポだが、今回は寝ている暇はない。
どうしようと考えて命令を煽ろうか、あちらに特攻した方が良いのか。

「キャプテン!どうするっ?」

相手は海の怪物。
一人で何かをするには先ず近付かなければならない。
ローの指示を待つ。

「船を近付けろ。今日の飯はクラゲの刺身だ」

静かに怒りを灯しているらしいローの指示により黄色い海賊船はクラゲに向かって進行した。



***



「あ!ローさん達じゃないのあれ!?」

「助けに……来てくれたの?」

ただ目の前でリーシャが弄ばれるのを見ているしかな無かった二人は絶望をひたすらに感じていた。
これが本当の助け船だ。
その時の弄ばれている本人と言うと、クラゲのお約束である触手攻撃に身悶えていた。

(ひゃあ!そこはヤバイイ!)

ヌルヌルしているから服なんて物ともせずにヌルヌルと身体を這い回っていた。
好きにはさせたくないが、リーシャの力ではどうにも出来ない。
マイやヨーコだったらこういう場面でも生えるのだろうが、何故リーシャなのだろうか。
邪(よこしま)な思考を抱いたせいかは謎であるが、触手が残りの二人にも襲い掛かるのが見えた。

(あ、考えちゃダメだった系?あちゃー)

不幸体質で巻き込んでしまった。
片目を瞑って後悔している間にも触手はマイとヨーコを捕まえようと意気込んでいる。

「あああ〜!」

思わず叫んだのは遂に捕まったからである。

「きゃー!」

「離せええー!」

捕まった二人は暴れるが物ともせずにヌルヌルの触手は二人の身体を這う。

「あ!そこはっ」

「くうん!気持ち悪!」

変に艶っぽい声を出す。
これが女子高校生というプラス補正か……と感慨深く思う。
そんな馬鹿な思考になっていると突然三人一緒に海へ落下。
何事かと海の中へ身を投じていながらも泳ぐ。
海面に顔を出すと二人は大丈夫かと周りを見る。
同じ頃に海面へと顔を出した二人に安堵していると陰が頭上にある事に気付く。
上を見るとそれは海賊船、それもロー達の乗っている船という事が判明して驚く。
先程はロー達の船みたいだなぁ、と思っていたし、かと言っていつの間にかこんなに近くに来ていた事は意外であった。
ローを見ると青筋を浮かべているという忘れたいものが目に入ってくる。
何故そんなに怒っているの、カルシウム不足なの?
そんな事を後で言おうものならば即刻部屋へ連れて行かれ好き勝手に懐柔される未来は頭が一つ足りないかもしれないと思っている自分でも予想出来た。
というか、何となくあの船には乗りたくない、というよりローの近くに行きたくない。
本能がリンリンリンと警告音を慣らすのだ、出来れば従いたいのである。
しかし、あの形状したくない悶える感覚とおさらば出来たのは何とも嬉しい。
解放されて良かった。
あれはどちらにせよ二人には教育上良くないものである。
息を吐いて自分の部屋がある中型船に向かって、泳いでそこへ上る。
辛うじて上れたので浮き輪を取りに行こうとすると自分の周りに薄い膜が張ってある事に気付き本能でそこから脱出しようとサークル内から逃走。
しかし、あと少しの所でシャンブルズされた。
無念。
瞬時に目の前にあった光景が変わる。
マイとヨーコもシャンブルズ済みだ。
船員達が何だか気まずげに見ている。

「何つーか、眼福だった」

誰かがそう言った。



そんな事件があった日から軽軽という中の軟禁が課せられた。
因みにリーシャは泣く泣くローの夜の懐柔(もう夜の怪獣とでも名付けてやろうかと思う)もプラスされているので理不尽なのである。
懐柔と怪獣をかけてみたのだがどうだろう。
逃げても今までの不幸巻き込まれ救助の代金の付けだ、払えなんて言われればスッゴく拒絶は出来ない。
何だかんだで本当に嫌ではないのかもしれない。
いやしかし……うーむ、と悩む時がチョロッとあるのでそれも曖昧だ。
そんなリーシャを見てククク、と楽しげに悩む姿を観察している底意地の悪さのローに時々ムカッとなる。
睨んでも煽るだけなので此処は心の中で消化していた。
同じ言葉を使うようで悪いが、何だかんだと言っても別に酷い扱い受けないので全力全身で拒めない。
のかも……しれない。
考えれば考える程難易度が高い迷宮へ迷ってしまう。
リーシャは隣でこちらの髪を好きに梳いたり指に巻き付けたりしている相手を見ないように意識して内心、これからも(好きに懐柔されちゃうんだろーなあ)と一度踏み込まれたせいでガードが脆くなった自分に少し落ち込んだ。



島に着いたと報告があったのは島が見えたと報告されて二時間程した時だった。
この船から、そして一番解放されたいローから逃げられると内心舞い上がっていたリーシャ。
ローから「降りたらおれと行動しろ」と言われてマイとヨーコも生暖かい目で「いってらっしゃい」なんて見送るものだから喜びもつかの間であった。
島に降りてからの感想は砂漠の町、これに尽きる。
本当に砂漠の町そのもの。
砂漠の山というか砂漠に囲まれている砂漠という自然と共に暮らしている町。
それくらいしか思わない。
ローは暑い暑いと言っていたので近くに売っていたいた砂漠地域特有の布を頭に巻いた。
ターバンというより緩(ゆる)巻きの巻き方なのでローの帽子も巻かれている。
本人が取ろうとしないので盛っている髪型にしか見えない。
ヘンテコな感じに見えるが本人は特に気にしていないのでリーシャも何も言わないようにした。
ローが時折チラリと見る人の中に踊り子の姿をしている女性を指して「あれ着ろよ」何て言ってくるので「そんなに着たいならローさんがどうぞ」と言い返した。
あんなものはスタイルが良い人が着るべきもので、無闇に肌を晒したい訳でもないリーシャは遠慮したかった。
最も、この島の酒場での衣装がああいうものならば己むを得ず着るが。
そんな事を言った後も二人でお店を冷やかしたりして回った。
夕方に船に戻ってみると少女二人からは「デートだ」と詰め寄られて聞かれたりしたがあれがデートな訳がない。
そんな甘い空気などなかった。
そう説明しても思考が桃色になっている二人は聞かなかったので違う違うと何度も単語を連発。
此処で諦めてしまえばローと付き合っていると設定されてしまうのはリーシャでも分かる。
それはいけないと掌を固く握って何度も説明していくとただの散歩という事に落ち着いた。
彼女等の中では納得出来ている所はなさそうだが、ちゃんと分かってくれていれば思うだけなら構わない。
船員達の視線も意味深いものがある気がするが説明していくのも馬鹿らしいのでそこはもう尾ひれでも何でもくっつければいいと放置。
ローは何食わぬ顔でコーヒーを飲んでいるのでそこから離れて座り夜食を食べた。
ホテルに泊まる予定だったがローにリーシャだけはこの船に泊まれと命令され、ならばと二人もこの船に泊まるとなってから今回はホテルでの宿泊は無しとなる。
恐らく前にホテル代を浮かす為に船で寝起きしていた事を知っているからそのように言いつけたのだと直ぐに察した。
マイとヨーコに告げ口しないでやる、だから此処へ泊まれなんて脅されては拒否出来ない。

「あれ?」

(私、ローさんに弱味握られ過ぎてない?)

ローの弱味を握ろうと思っていたのにいつの間にか逆転している。
脅す側が脅される側になっていた。
今更気付いた事に頭を抱えながらもムシャムシャとご飯を食べる。
隣に座ってきたマイ達も同じようにムシャムシャと食べつつ船員達とお喋りしているので此処が海賊船である事を忘れてしまいそうだ。
ぼんやりと口を動かしながらそう思っていると横に誰か座る。
カタンッと音がして船員の一人がこちらを見るのが見えた。

「な、なァ」

「ん?何ですか?」

「船長とあんたって付き合ってるのか?」

「ノーコメントです」

船員のそわそわ感に成る程と納得して、彼は多分賭か何かで負けて聞く為にこちらへやってきたのだと思った。
即決で答えると相手は息を呑んでローをチラッと見る。

「でも、結構噂になってるぜ?」

「噂は噂。それ以上もそれ以下もないですよね?」

逆に質問してやった。
船員はズコズコと帰って行く。
あまり突っ込んでこなかったので安堵した。
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