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ハートの海賊団side




島に降り立つとそこでは何かの催しが行われていた。
ハロウィンという言葉で一色なっている島には仮装という姿で老若男女が練り歩いている。
飴を渡されて年甲斐も無くハシャぐクルー達。
飴を配っていたその内の一人の女に仮装をしたいという観光客に衣装を貸しだしているのだというのを聞いて仮装したいと言い出す面々。

「うっはあ、色っぺー!」

シャチやペンギンが仮装、色気を意識した衣装を着る女達に視線を持ってかれている。
ベポはくんくんと鼻を動かす。
恐らくお菓子の匂いが強いのだろう。
こんなにお菓子を配っているのなら菓子を作る店は大忙しなのだろうと他人事にぼんやりと思った。

「船長も仮装しませんか」

船員の一人に誘われたが断る。
周りが騒いでいるだけで十分だ。
気を緩めて賞金稼ぎ等に狙われるのも間抜けに思えるし、楽しそうには思えない。

「船長!見て下さい!」

声のした方向をゆるりと首を動かして見ると犬耳を付けたシャチが居た。
キャスケット帽がないので少し違う風に見える。

「子犬の仮装か」

「狼っ!お、お、か、み!どこからどう見ても狼男にしか見えない筈だっ」

嘆くように叫ぶ。
ワンコにしか見えない。
次にペンギンが出てきた。
ポピュラーな仮装をしている。

「ドラキュラか」

「はい。結構種類有りましたよ、仮装の衣装」

ペンギンも遠回しにローへと仮装を進めてくる。

「へェ」

興味がないという含みを持たせて答えた。
船員達がゾロゾロと出てくるのを見届けて全員が着替え終わった所で全員がベポに視線を向ける。

「ベポ……お前、それ」

「蜜蜂、ハチだけど」

「おま、そこは熊だろ、熊の仮装するべきだろっ、ネタとしてっ」

シャチが突っ込むがベポはこれが良いと言うので船員達は仕方ない、という空気でローを見た。
次にどこへ行くか等の目標は決めていない。

「仮装したんだ。菓子が目当てなんだろ……適当に歩く」

そう答えると船員達はテンションマックスでざわめく。
歓喜が聞こえてくる。

「よっし、お菓子タダで貰いまくっぜェ!」

お菓子がタダで手に入るので船員達も俄然燃える。
ローはやれやれという感じで歩き始めた。
私服を着るローでも仮装の町ではあまり目立たない。
刀を担いでいても仮装の一部だと思われているらしく畏怖の視線を感じない。
先導して歩いている間に船員達はせっせと配られるお菓子の確保をしていく。
明日からは船にお菓子が沢山積まれている光景か、クルーの部屋にお菓子の包み紙が散乱している光景が目に浮かぶ。
暫く歩くとミツバチ姿のベポが「あああ!」と声を上げるのでベポを見ると指を指していた。

「マイとヨーコだっ」

「ええ!マジかァ……あ、マジだ」

シャチがベポの指す方向を見て言うのでローもゆるりと首を動かす。
確かにあれは仮装しているマイとヨーコ本人達だ。
バイトをしているらしい。
あと一人の顔が見あたらない。
ベポが首を傾げてローの気持ちを代弁する。

「リーシャが居ない」

「んー、どう見てもあのカボチャ……」

ペンギンの台詞の通り、三人居るのだが、その内二人は顔が見えていて、後一人はカボチャのフルマスクをガッポリ付けている。
あと一人となれば自ずと限られてくるのは分かっているが、どうにも煮え切らない。

「色気のねェ格好しやがって……」

(俺が楽しめねェとは)

釈然しない思いのままフルマスクカボチャに暑苦しい黒いマントを見ているとベポがあそこに言ってお菓子を貰ってくると言うので見送った。

「あ、盲点だったな、あれ……助けられそうにねェ」

船員の一人が言う言葉の経緯をローも見ていた。
ベポが一人で言った時に、既に飴を貰う為に集まっていた子供達がベポに気付いて熊だ熊だとベポにもじゃれ出したのだ。
今まで船員達と固まってお菓子を得ていたので一人で特攻した場合の想定を忘れていた。
船員がぽつりと言う。

「あれはもう当分駄目だなァ」

ベポの「キャプテーン!」という救助を求める声にローはどうするつもりも、動く必要は無いと判断した。



***



最初はちゃんとベポだと認識して、それから何か久しぶりといった挨拶を伝えようとしたらいつの間にか子供の群に囲まれて困惑した。
マイとヨーコもどうしようと目配せしたりこちらの指示を待っていたりしたが、子供をどうにかせねば何も動けない。
それから子供達がベポを熊の仮装だと勘違いしている事を知る事が出来た。
リーシャは絶妙なタイミングを計って子供達に聞こえるように声を張り上げる。

「熊さんは今から休憩するよ。また五分後に違う熊さんが来るからね」

気分はテレビに出てくる体操のお兄さんお姉さんだ。
子供達は「え〜っ」と残念気な声音を発したが名残惜しげに熊の仮装だと思っているベポから剥がれる。
その瞬間、ベポはこちらに逃避してきたので近くにある路地裏へ誘導して子供の視界から消えさせた。

「助かったァー!」

「あはは。お疲れ様」

そう言って飴のバスケットを渡す。

「え?」

キョトンと顔を傾けるベポ。
ニッコリと笑って受け取る様に言う。

「給料だよ。五分間の」

カボチャマスクも取る。
片手で持ってベポにまた受け取るように催促すると「さんきゅ!」と嬉しそうに顔を破顔させた。
受け取ったベポが仲間の所へ戻らなければと路地裏から去っていくのを見送る。
後ろ姿が見えなくなる頃、後ろから声を掛けられて体が跳ねた。
ババッと後ろを向くとローが腕を組んですまし顔で立っていたので息を吐く。

「ロ、ローさんでしたか……心臓に悪いのであんまり後ろに立たないで下さい」

カボチャマスクをまた装着。

「おい、何でそれを被る?俺はそのマスクは嫌いだ」

ローが嫌いと言おうが、仮装なのだから譲れない。
これはリーシャが働きやすいようにと選んだものなのだ。

「仮装すらしていない私服に言われてもですねえ……?」

上から下を見てみたが、いつもの服装だ。
ベポは仮装していたのだからローだってやろうと思えば出来た筈。
やっていない相手に嫌いだとクレームを言われても怪訝に思うだけだ。
ローはムッと眉を下げてこちらにツカツカとやってきた。
急に縮められる距離に怯む間もなくガポ、とマスクを取られる。

「あ」

奪われたので奪い返そうとするがヒョイッと上に掲げられて取り返す事が不可能になった。
普段より三割増し意地悪なローにムムム、となる。

「その黒い辛気臭ェ格好も止めろ」

ススス、と服の袖から手を入れるローに慌てて止めようとするが届かない。
様子を見に来たマイが来るまで攻防が繰り広げられたハロウィン祭。
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