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彼女達に全て話した。
死んだ事にして、マイとヨーコに自分なんか必要ではないと思い知ってもらい未来へと進んでもらおうとしたと。
そして、リーシャはそれを実行したような、どうしようもない女だから見捨ててくれても嫌ってくれても構わない、と。
全て真実を言い終えると二人は泣きはらした目のまま、馬鹿、馬鹿、と何度も鳴き声を漏らして肩を何度も叩いた。

『ほんとにどーしよーもない!』

『そんな事で嫌いになるわけないです!』

二人は命をかけて守ろうとしてくれたのは他でもないリーシャだと、沢山肩をポカポカと叩いてきた。
痛くないのに、痛む筈もないと思っていた胸がジクジクと罪悪感で痛んだ。
肩を叩かれているのに変な話しだ。
罪悪感なんて昔に消え失せたとばかり思っていたのに、どうやらまだ残りカス程度はあるらしい。
嬉しいと思う自分を強く言い聞かせねばならないと苦しくなった。

(私は慕われて良い人間なんかじゃないのに)

リーシャは決定的な嘘を一つ持っている。
知られても痛くも痒くもないが、嘘を付かれたと失望されるのは避けたい。
傷は浅い方が誰だって良いに決まっている。
しかし、嘘を付いていると言っても、それは別に彼女達を騙そうとかいう魂胆でも何でもなく、自分の為だけに自分に嘘を付き、周りに嘘を付く。
嘘を付くのに慣れてしまうとは思わなかったけれど、嘘を付きざるおえなかった。
自分の心の安定剤のようなものだろうか、それは。
自分に虚勢を張る為にだけ特別な嘘を吐く。
ただそれのみだ。
これからも嘘を吐き続けねばいけない、他でもないリーシャ自身の為に。



島へ着くと何ら何もなかったのように三人で島へ降りて並んで歩く。
この前まで一人欠けていた事なんて嘘のようだ。
いや、前よりも距離が近くなっているような気がする。
マイがもう片時も離れないと泣きながら言っていた事を二人で有言実行しているつもりなのだろか。
照れ臭く感じつつ進むと島の中にある町が何処か浮き足立っている空気が漂っている事に気付く。
何かを組み立てていたり風船をアーチに飾り付けていた。

「何かイベントか祭りでもするんですかね?」

マイが疑問を口にすると同時にヨーコが大胆にも近くに居た男性へ声を掛ける。
この世界に来ると嫌でも大胆になるのだろうか、少し気になった。
ヨーコに男性が気付くと明日特別なイベントがあるのだと詳細を教えてくれる。それを聞いて成る程顔になった二人。
リーシャはイベント関連のバイトが無いかとその人に訊ねてみるとイベント主催をしている団体の人達に取り次ごうと申し出てくれた。
明日から一週間行われる祭りはかなり人か来るのだと体験談を聞かされる。
どうやらそこそこ有名な行事らしい。
しかも島全体でやっているとなれば祭り目当ての客が来るのは頷けた。
所謂『実行委員会』的な役割をしているイベント組合のテントに連れて行かれる。
此処も組み立てたばかりと言うので出来立てホヤホヤという事だ。
連れて来られたテントの中に入ると村長の様な雰囲気の初老が立っていた。
周りにはお手伝いをしている男女が居て、結構予想よりも人数が多かったので驚く。
連れて来てくれた人が、あまり動かないで欲しいですよ、とその初老に言うと、毎年やっているので慣れた物だから大丈夫だ、と笑う。
そのやり取りを見ていると初老がこちらを見て「どなたでしょうか」と物腰柔らかく見てきた。
こういう暖かな目をした人はリーシャに言わせると『無性に安心してしまう』人なのでどこか緊張が無くなる。

「この島に来たばかりの旅の三人です。明日からのイベントのバイトをやりたいとの事です」

「ほほほ。成る程な。ならば沢山空きはありますぞ」

「では、その内容を教えていただきたいのですが」

「いいですよ。説明は……サラランテ!」

サラランテと呼ばれたリーシャ達よりも年下っぽい女の子が呼ばれてこちらに来る。

「女同士ですし、バイトをするのなら女手の方が良いでしょう。サラランテ、この三人のお方に明日からの準備と衣装を見繕いなさい」

「はい。町長」

サラランテという少女が人懐っこい笑みを浮かべてこちらへ近付き、リーシャも会釈。
マイとヨーコもアウェー感が無い空気に安堵をした。
こういうイベントをやる所は、中には途中で参加する事を快く思わない人も居る。
こういうのは行ってみないと分からないのだ。
しかし、こっちもこっちで食べ物を買わなくてはいけないし、宿にも泊まらなければならないのでどんなにアウェーな環境でも堪え忍ばなくてはならない。
今回はそんな事にはならないのでストレスも溜まらなそうである。
それだけでもう十分なのに、この島は更にウェルカムな空気でリーシャ達を受け入れてくれた。
此処でずっと働きたいくらい労働の過酷が場所によって違うという事だ。
サラランテに言われて付いて行くとスタッフルームと思われる場所に案内されて一つの部屋まで通される。
中を見ると様々な衣装があってつい目移りしてしまう。
マイとヨーコも好奇心旺盛なのでキョロキョロしている。
三人の様子にサラランテは自慢げに、微笑ましげに眺めていた。
その視線に気付くとリーシャは誤魔化すようにサラランテと向き合う。

「ふふ。衣装は貸し出していますのでお好きにお使い下さい。内容は衣装を選び終えてからゆっくりと説明しますのでどうか気楽にして下さい。イベントは運営側も楽しむ側も楽しくがモットーですから」

サラランテはこちらが眩しく思うくらいの笑顔で述べた。



翌日、イベント開催一日目。
今日は先ず、開会式とやらをするのでその手伝いをしていた。
女の身ではそこまで頑張れないと最初は町の人達もそこまでこちらに仕事を少ししか回さなかったが、マイとヨーコの反射神経の良さに驚き舌を巻く。
となると、男手と同じように扱われるのは直ぐだ。
元より運営よりも祭りに来る人数が圧倒的に多いので人手不足、追い付かないというが現状。
それを次々と打破していくマイとヨーコは町にとってヒーローで功労者であろう。
三人目であり、三人で行動しているリーシャにも「この人にも何か得意な事が……?」という期待の目をされたが、直ぐに否定して自分は非力だと自分から進言した。
変な期待をされて体力に釣り合わない労働を寄越されても出来ないからだ。
あの二人のように走るのも早くないしピョンピョンと跳ねる事も出来ない。
梯子から飛び降りるなんて離れ業すら、してしまったら最後、足を骨折するに決まっている。
適材適所だ、何事も。
準備を終えて休んでいると開会式が始まるとサラランテに言われて三人は式典の見える所へと移動する。
テントの隙間である、人混みに入る気にはなれない。
式典が終わると小さな花火が四回ほど上がって小刻みな音を鳴らし、民衆や観光客の歓声が町に響きわたる。
ハロウィンのお祭りの始まりであった。



決めていた仮装の衣装に着替えるとマイとヨーコから何か言いたげな視線を頂戴する。
振り向く事など、藪蛇を付つく真似はしないのだ。
マイとヨーコは魔女とケットシーという猫の妖精に扮している。

「リーシャさん。今からでも選び直しましょう」

「そーよ!それはいくらなんでもダサいわよ!何で寄りにもよってそれ!?」

二人が見ているのは被っているこのジャック・オ・ランタンの被り物か、それとも首より下に身に付けている真っ黒なケープ風マントか。
楽しめるという前提で選んだバイトの仮装なのに、と不服そうに抗議してくる二人。
今回はバイトだし、あまりはしゃぐつもりはなかったから大人しめのコーディネートにしたのだ。
楽しみたい二人には悪いが今日はこの姿でやる。
そりゃあ楽しいならばそれにこしたことはないが、バイト中に何を楽しむのか全く想像出来ない。
こういう接客とは違うバイトはかなり珍しいので少し困る。
でも、二人よりも大人な自分がハメを外すのはいけないと心の中でストップがかけられているのも要因だろう。
三人で固まっていると休憩所にサラランテが入ってくる。
彼女は猫耳を付けている猫娘だ。
とても似合う、一部の人間に人気が出そうだとしみじみ思う。
サラランテはクスクスと今の会話を聞いていたのか笑って楽しそうにしている。

「まあまあ、皆さん……そろそろ時間なので外へお願いします」

宥められて外へ出る。
サラランテはしっかりしている子だ。
だからリーシャ達の先導役に抜擢されたのだろうと安易に分かる。

「は〜あ!折角可愛いの沢山あったのに!あんたは一々色気がないっ」

「あの狼女の衣装を着て欲しかったです……」

「はい二人とも、飴持って」

カゴに溢れんばかりに入っている飴。
そのカゴをはいはい、と渡す。
ぶつくさと言う文句は押し込めてもらって、此処からはバイトに精を出してもらう。
ふてくれたような納得していないような顔をしていた二人はお金を稼ぐ目的を思い出してくれたのか、表情に変化が起こる。
やっと切り替えをしてくれた事に内心安堵。
これ以上追求されたら着替えなくてはならなくなりそうだったので。
サラランテも少し遠くの広場で配るので、此処は自分達の担当する広場だ。
広場と言っても噴水がある訳でもない、何の変哲も特徴もない。
この島では毎年ハロウィン祭が行われるので広場が昔から広いのが島の人間達の自慢であるらしい。
確かに人が行き交うし、飴を持つ人間に子供や大人も寄ってくる。
狭いと通行止めのようになって島が混乱するのは目に見えて理解出来た。
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