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流れ星の降る島へ降りてから数日。
今は海の上らしい。
窓から見えるのは海の中だが、ローは今浮上中だと言っていたのでそうなのだろう。
相変わらず鎖が付いている生活を送っている。
何となくもうこのまま衣食住があるならば過ごそうかな、と思い始めていた。
元々あまり積極的なタイプではないし、海に出ようと思ったのはブラブラしようと気ままに考えていたからだ。
海はやはり厳しくて、自分には鬼門だったのだと思ってからは逆走して故郷に帰ろうと思っていたのだが、予定が滅茶苦茶になっている。
ローは変わらずご飯も話し相手もしてくれている。
それにしても、自分も記者の端くれなのに彼の事を全く全くまーったく知らないのだ。
無名なのかと思ったが、賞金首の額が億越えと知ってルーキーではないかと驚いた。
と言う事は知らない訳もなく、やはり彼の情報が欠落しているのを認めるしかない。

(情報を仕入れている私の中で欠落した人)

ロー曰く、記憶喪失で喪失した記憶は特に思い入れが強い場合があると。
海賊と一般人(少し特殊)なのに、よく付き合えたものだ。
しかし、あの感じなら無理矢理脅して付き合わさせているという事も考えられる。
恋人(疑惑)という人間をその気一つで鎖に掛ける事が出来る男ならば可能性が高い。
ヤンデレと言われても言っても寧ろ嬉々として受け入れるだろう。
もはや魔王だ。
海軍にとっても魔王の配下レベルの驚異だろう。
ルーキーと騒がれていると言っていたので実力はかなりのものだろうし。
このまま鎖に繋がれ続けるのはマイとヨーコ達にバレる危険を大きくしているのではないかと不安になる。
ローの恋人であろうとなかろうと、結局は故郷に帰るつもりだったので関係も心残りも愛着もない。
もういっそ脱獄してみる機会を作ってみようか。
そう考えていると不意に船が揺れた。
ドオンドオンと壁を隔てた音に奇襲されているのだと知る。
マイとヨーコは大丈夫なのだろうか。
ローはもうこの事態を知っているだろうし、指示も出しているだろうが、マイ達まで戦闘に駆り出させるつもりなのかと深く考えてしまう。
いや、死亡したまま去ろうとする自分にそれを考える資格等ない。
考える等おこがましいだろうと考える事を止める。

「っ、あ!」

突然船が大きく揺れて床に転がる。
そのまま体が移動して頭を強く打つ。
ガツンとなって頭が白くなる。
気絶しかけているのだと理解するがそのまま意識は暗転。



目を覚ますと靄(もや)がかかっていた脳内が晴れ晴れとしてクリアであった。

「私、思い出したんだ………」

記憶喪失も唐突だが、記憶が戻るのもまた唐突だった。
記憶が戻ればどれが本当で真実、どれが嘘でまやかしだったのかは手に取るように分かる。

(恋人だなんて、ローさんよっぽど女性に餓えてたのかなあ)

等と考えて思考を鈍らせないようにする。
自惚れてはいけないのだ。
彼が例え自分を好きなのだとしても、その想いが本気なのだとしても、受けてはいけない。

(鎖、外すかな)

ロープの縄抜けも出来るのだが、鎖も物により出来る。
これは古い型なので少し鍵穴をピッキングすればいけると思った。
カチカチと手短にあった細い物で試してみると随分時間が掛かったが外せたので脱出を試みる。
扉を開けると何故か鍵は掛かっていなかった。
鍵を掛けていないのに監禁とは随分矛盾している。
それとも、脱出する筈がないとでも思ってわざとかけていないのだろうか。
どっちにしても此処から去るつもりなので助かる。
この船にあんな地下とも言える部屋が有るなど知らなかった。
恐らく捕虜等を入れたりする特別な部屋なのだろう。
物を入れるにしても部屋の大きさが微妙だ。
扉を開けた後は人が居ないかと用心深く周りを見て慎重に足を進める。
このままドロンさせてもらおう。
マイとヨーコが本当にこの船に居るのかさえ今は疑わしいが、船員に見られる訳にもいかないし、このまま死んだ事になっていれば尚安心であった。
船員達の目をかい潜るのはかなり難易度ハードではある。
小型のボートの詰み場所を把握しているのは幸いだ。
あまり朗報ではない、海賊船の船内を把握して居るのは複雑だった。

(右、左、人無し。全員戦闘に出払ってるの?)

一人くらいは残ってても可笑しくないのに。
船内は外から聞こえる騒動と比べると無音と言っても良いくらい人の出入りさえもない。
何故誰も居ないのだろう、もしかして強敵との戦闘なのだろうか。
考えが底を付かないし思考は堂堂巡りのまま油断はしないまま進む。
金属の交わる音を耳にしながら小型のボートがある部屋へ進入する。
小型ボートは先ず出さなくてはいけない。
運び出すのは難しいが、どうにかしなければまた見つかる。
見つかるとどんな反応をされるのか分からない。

「っ、誰!?」

「!!」

誰かの声が聞こえて身体が強ばる。

(しまった!)

こんな言葉遣いなのは二人くらいだ。
それも一番見つかりたくない二人。
振り向きたくないし振り向けない。
しかし、振り向かなければいけない。

「………!………リーシャ、さん………?」

マイだった。
一人だけでヨーコの姿は無い。
この船に居るというのは間違いなかったらしい。
半分嘘かもしれないと思っていた。
どうやってあの海賊から逃げた先にハートの海賊団と合流出来たのか不明だが、此処に居るという事はつまりはロー達に全て話して、ロー達も事情を知っているというわけだ。
それが理由でローが個人的に監禁をしてきたのなら納得がいく。
囮として命を捨てたも同然の事をしたのだ。
低俗な輩から守る為に命を捨てた、だから閉じ込めた。
ローの態度や気持ちを知っているから分かる。
少なくとも気持ちを寄せている相手が命を粗末にしていたら閉じ込めてしまいたくなる衝動を覚えるのは本能なのかもしれない。
そんな風に現実逃避していると身体に何かがぶつかってきた。
受け止める事が出来ずに尻餅をつく。
下を見下げるとマイが腰に抱きつく形でリーシャと同じ体勢で震えていた。

「た、沢山沢山、沢山探しました」

「…………………………」

「海の中も、陸もっ。私達の船、あの海賊達から取り返したんですよっ?」

言う言葉は繋がっていない、ちぐはぐだ。

「ローさん達がやっつけてくれて、でも、リーシャさんは海に飛び込んで、あいつら、死んだって」

そこで合点がいく。
誰も死んだと言ってないのに死んだと認識したのはその言葉を聞いたからだろう。

「もう、危険な目に合わせません。次は必ず、守りますから。次は置いていきません。生きた心地がしませんでした。ごめんなさい。弱くてごめんなさい…………!」

ほんの少し前までただの女子高生だったマイやヨーコを責める事なんてとても出来ない。
リーシャにも責める資格等ない。
死んだままになっておげは良いと選択した自分にマイを許さない事何て出来る訳もなかった。

「マイは頑張ったよ。謝らないで。私はマイもヨーコも嫌いじゃないから。生きていてくれてありがとう」

生きていて笑っていてくれていればそれで十分だ。
マイの頭を撫でて大泣きする彼女にずっと付いていた。
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