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LAW-side

彼女を見つけた時は流石に目を疑った。
海軍から逃げている最中なので、逃げ切ってから再度そっくりなリーシャの入って行った宿の扉を開けてから気配を探り、その宿に居る人間の人数を宿の客リストに目を通す。
千里眼の力はローとてない。
しっかりその名も記憶にある女の名前に確信が打たれる。
と、なればやることは一つ。
先ずは書いてある部屋の前に立って気配を絶ってから能力で部屋に入る。
もう海兵も殆どこの近くには居ない。
警戒する必要もないが、万が一、騒がれるなんていうのは困る。
ローは音を立てずに部屋へ入ると呑気に寝ている彼女を見て思わず呆れた声が漏れた。
その声音に起きたリーシャにくくく、と笑うと聞こえてきたのはローを誰だというふざけた言葉。
しかし、彼女がこんな事でそんな台詞を吐くとも思えず、可能性のある病の名が脳裏に浮かぶ。

(記憶喪失………!)

考えるとそれを声に出して思わず笑ってしまう。
前々から疫病神に好かれる体質だとは常々思っていたが、なるものまでなってしまったらしい。
笑えた。

(幸か不幸か)

ローにとってはリーシャが生きていたのも記憶がないのも幸だ。

(四体キザんでやる………!)

半ば八つ当たりのような感じであった。
生きているのに死んでいると思って、少しでも心残りが残ったと感じたのは。

(持ち帰って鎖に繋ぐか)

前から死の匂いを何度も匂わせた女だからそれくらいしてもどうとも思わないかもしれないが。
鎖に繋げば死に急がれる事もない。
それに、ローも機嫌が良い。
一石二鳥だ。
船員達にバレないように持ち帰ると徐に何かの役に立つのだろうかと疑問を抱きながらもあった鎖が今回はやっと日の目を浴びた。
彼女が起きると鎖の状態に気付き唖然としていたが、声を掛ける。

(ここまで来ると潔(さぎよ)いな)

鎖に対しては差程不満そうではない。
しかし、性欲処理として乗せられたのかと聞かれた時は頭が痛く思った。
記憶喪失な分、厄介な勘違いを起こしている。
しかし、蓋を開けてみれば恋人か、知人なのかと聞かれピンと閃く。

(よくある小説の内容みたいなもんか)

三年目の付き合いになる恋人で最近肉体関係を持ったと嘘と本当を混ぜて語れば本人はそれを信じた。
完璧に信用したかはまだ分からないので相手のメリットになりうる提案を囁く。

(如何にもお前が考えそうなシナリオだ)

自分は死んだ事にして、マイとヨーコの関係を断ち切る。
二人にはそれぞれの道に生きてもらう。
あの少女達がリーシャに拘ったからこそローの部下となって戦いを学んだのだ。
ローは彼女に隠してやると言い、提案する。
記憶喪失でも喪失していなくてもその提案を飲むであろう事は分かっていた。
密かに口元を上げながらも、少しでもリーシャが生存本能を芽生えさせれば儲けものだと計算した。



***



ローに飼われ出して早三日、意外とローはマメな人柄らしく頻繁に此処へ来ては居座る。

「退屈だろ。本を持ってきた。茶と菓子も食うだろ」

簡易テーブルと簡易椅子を設置した彼は普通の人としてこちらに接してくる。
奴隷のように扱わない事をとても不思議に思う。
いくら恋人だと説明されても、鎖に繋がれては信憑性は言わずもがなだ。
毎回毎回相手の真意を汲み取ろうとしても特に何かの力もない女一人が何かを知れる訳がない。

「ほら、食え」

そうやって『あーん』という恋人達に許される動作をいとも簡単にやってのける相手にジワリと顔が熱くなっていく。
ローに翻弄されている事は自覚していたので躊躇しているとパキッと二つに折られたクッキーを再度口元へ寄せてきてそれを口に軽く押し込んでくる。
それをされては食べる意外に出来ないので仕方なく口に入れて咀嚼(そしゃく)。
もぐもぐと動かすとローは満足そうにクッキーの片割れがなくなった手を楽しそうに舌で舐める。
その艶めかしさに一瞬動作が止まった。
また顔が赤くなるのを感じて気まずさに俯く。

「まだ半分残ってる」

口を半笑いにしたままローは言葉で弄んできて先程と同じように繰り返してきた。
熱を感じながらもクッキーを食べ終えると手から何もなくなったローがお茶を進めてくる。
最後の陣を抜けてごくりと飲み込むとお茶を貰う。
しかし、ヒョイッと取り上げられて唖然。
上を見るとローがグビグビと飲んでいたので意地悪をされているのだと感じた。

「あの、喉にクッキーが引っ付いているので私も欲し」

言葉が区切れた。

「っ、ん、ん!」

彼がそのまま口付けをしてきたからだ。
そのまま舌で口をこじ開けられて舌をねじ込まれ、お茶が口内に流れてきた。
これは所謂『口移し』というものだろう。
何だか初めてされた感じがしない。
軽くデジャヴ感を感じて脳内でハテナマークを浮かべる。
お茶が口内からなくなると彼はリーシャの無抵抗な口内を懐柔してきた。
飼われて初めてのキスがディープだなんてこの男は女の扱いに慣れてるのだろうか、と場違いの思考が生まれる。
それ程不快ではなかったという事だろう。
頭がモヤモヤとぼやけていき、溶けていくような錯覚に陥る。

「くく、物欲しそうな目ェしてるぞ」

(いやいや、これはただ放心してるだけだし………)

それか、頭がぼんやりしていて目が虚ろになっているだけに決まっている。

「ふ、っ」

彼がまたキスをして服の下に手を入れてくる。

「早く思い出せ。そしたら抱いてやる」

「ローさんは、優しいですね」

「!」

彼は徐に手を止めて口を離した。

(?)

「………………思い出したのかと思ったじゃねェか………記憶をなくしてもお前は………」

ローの瞳が揺らめいている。
そこにあるのは劣情に似た熱い何か。
その意味する目の事を詳しくは知れないが、リーシャは口をついて言う。

「悲しませてしまい、すいません」

「馬鹿か。おれがお前の言葉なんかに傷付くわけ……これも言い合った事がある奴じゃねェか……」

「?、どうしたのですか?」

尋ねるも、彼はグッと何かをため込む顔をして首を振る。

「気にする必要はない。また来る」

ローはリーシャに背を向けて去っていった。



それから二日後、島に着いたと言うのをローから聞いた。
彼は夜中に外に連れていってやるというので目を丸くせざる終えない。

「別にお前が不運に巻き込まれない最適な方法を取ってるだけに過ぎねェ」

「あの、差し出がましいのですが……私は今貴方と言う不運な人間によって誘拐されているから、それが不運としてカウントされているだけのようにしか感じないのですが」

「はァ?今までの不運を思い出してからものを言え。今までは死にかける時もあった。それに比べれば毎日三食、何不自由なく過ごせるのは不運じゃねェ」

ローからのカウンターに複雑な気持ちを抱く。
確かにマイとヨーコから隠れたいと言ったが、別に此処から離れれば済む話しなのだ。
それをややこしくしているのがこの男の存在。
リーシャは別に何か目標があって生きている訳でもないので逃げる理由もない。
だが、マイとヨーコが居るのなら此処から出たいと思っていた。
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