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とあるside


この海域を進行する一つの船があった。
麦藁帽子を被ったジョリーロジャーの旗が目を引く海賊、麦藁海賊団。
ウソップとチョッパーとルフィは暇な為に釣り糸を垂らしていた。

「なかなか釣れないし暇過ぎんぞー?」

「もう少しの辛抱だ、ルフィ」

ウソップが耐え忍ぶ顔で力説する。
それにルフィは至極つまらないという顔をして竿を握り直す。
その時、ググッと獲物が掛かった感触に三人は歓喜。
釣れたら今晩のおかずになるだろうもの。
ルフィは後先を考えないまま力有るままに引く。

−−ザザザァ!

魚魚と思いを馳せていたのに、姿を見せたのはどう見ても人間だった。

「うおお!人間だぞ!?この海域って人間が釣れんのかァ?」

「んな訳あるかァ!」

「し、死んでんのかなァ?」

ウソップの激しい突っ込みにチョッパーの心配している顔。
三人は取り敢えず釣れた人間を船に上げた。
その間に騒ぎを聞きつけた船員達も集まってきて、船の雰囲気は物々しくなる。
その人間は女だった。

「と、取り敢えず医務室に運ぼうっ」

船医としていち早く判断し迅速にそう言ったチョッパーに周りも様々な反応を示しながらそれに賛同、躊躇、戸惑う。 

「よし、そこに頼む」

チョッパーの指示で運ばれた女の状態を確認した後、それから数時間後に目を覚ました。

「ここ、どこ?」

リーシャは海に飛び込んだ後の記憶がない為、大層混乱した。
直感したのは助けられたらしいという辛うじての状況。
周りを見回してから医務室だと判断し、かと言って知っている場所でもなければ覚えもない所。
歩き回ってもどうなのかと考えていると不意に目の前にある扉が開いた。



***


「…………」

「…………」

数秒、見つめ合った。

「あっ、起きたのか!?」

(トニートニー、チョッパー……?え?チョッパー……!?)

先に我へと返ったのはあちららしいが、代わりにこちらはパニックだ。

「おい?どうした?」

どこか痛むのかという問いかけにハッとなる。

「あ、あの、助けていただいた、んですよね?」

ここが麦藁海賊団なら助けられても何ら可笑しくない。
世間では海賊と言われようが。

「ああ。ルフィが釣ったんだ」

「っ、釣った?」

聞き間違いがと耳を疑った。
けれど、彼は釣り糸に引っかかったリーシャは海の中へ居たという事実を示している。
よもや、自分がそんなギャグマンガ展開になろうとは思ってもみなかった。

「あ、そういや名前は………何だ?」 

聞かれて、粗相のないように表情を引き締めて名乗った。
チョッパーは少し息を吐いて安堵してみせた。
彼もこちらを気持ち程度警戒しているのかもしれない。
それにしても、と考える事を少し放棄してから、他の事を考える事にした。
だって、少しだけ、ほんの僅かながらだが記憶が欠けている、気がする。
マイとヨーコの事は覚えている。
やはり記憶はちゃんとあるらしい。
ホッと安堵の息を漏らした。
チョッパーの事も麦藁海賊団の事も他の人より少しだけ知っているので自分は勝手に安堵して肩の力を抜こうとする。
それに内心(これは駄目だ)と待ったをかける。
いくらこちらが知っていようと彼等にとってリーシャは部外者であり馬の骨並の情報不明の女だ。

「リーシャって言うのか」

「貴方は?」

こちらが知っている風を装うよりも尋ねた方が悪い方へ転がらないだろうと思ってそう言ってみた。
彼は何の警戒も無しで自らの名前を言ったので、ただの一般人と認識されたのだろうかと推測。
チョッパーは身体検査をするからと確認を取ってきたので「構いません」と許可。
身体に異常があってもマイとヨーコの二人と合流した時に困る。

「じゃあ幾つか質問するな」

彼は淡々と医者らしく質問しては紙に書き記していく。
こういうのは久しぶりなので少し落ち着かない気がする。
質問や触診が終わると扉を叩く音がして骨のブルックが顔を見せた。

「チョッパーさん。サンジさんがお昼を作ったので集まるようにと」

「もうそんな時間か………リーシャはお腹空いてるか?」

図々しいと分かっていながらも何か食べたいと欲求が忙しないので頷く。
ダイニングへ連れて行かれた先には船員達が勢揃いしていた。
豪華だと目が眩む思いでそれを見ていると麦藁帽子の船長である本物のルフィがこちらに気付いて傍に来た。

「おー!お前釣れた女!目ェ覚めたのかァ!」

(釣れた女……)

まるで安い女みたいな言い回したが、彼が言うのだから下心も他意も悪気も存在しないのだろう。
ルフィはこちらの首に手を回して「こっち座れよ」と引っ張り椅子に座らされる。
成る程、息付く暇もない程のマイペースさであった。

「んで、なんであんたは海に漂ってたんだ?」

ウソップが聞いてくる。

「三人女旅の途中で海賊に襲われたんです。辛うじて二人を逃がした後に自分も飛び込んだんです」

簡潔に言い終えるとウソップが冷や汗をかいて「よく無事でいられたな」と震える声で述べた。
そりゃ死ぬつもりだったから、こうやって此処に拾われたのは奇跡だ。
改めて全員に頭を下げて助けてくれた事に感謝した。
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